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2025年10月08日
【歴史遺産コース】「絵金さん」に会いに行きました!
みなさん、こんにちは。歴史遺産コースの石神です。京都も秋らしくなりました。芸術の秋。皆さんも楽しまれていますか。
今年も各地の美術館、博物館で魅力的な特別展が開かれていますが、今回のテーマは地域で大切に守られてきた文化遺産である美術作品のお話です。
唐突ですが「絵金さん」という人物をご存じですか。
いま東京都港区の東京ミッドタウン内にあるサントリー美術館では「幕末土佐の天才絵師 絵金」という特別展が開かれています。
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2025_4/
つい先日、所属する歴史遺産コースの学習相談会に併せて、学生の皆さんと見学に訪れました。
そもそも「絵金」さんは1812(文化9)年、土佐藩城下の新市町(現・はりまや町2丁目)に髪結の息子として生まれました。幼い頃から画才があったそうで、江戸藩邸の御用絵師・前村洞和(または幕府御用絵師・狩野洞益)に師事し、その画力を高めたと言われます。
その後、林洞意(はやし とうい)の名を得て高知に帰郷、20歳にして土佐藩家老・桐間家の御用絵師となるのですが、のちに冤罪により城下所払いとなります。医家の嗣子となって弘瀬金藏を名乗り、叔母を頼って赤岡町(現・香南市)に定住したようです。
それ以後は「町絵師・金蔵」を名乗り、地元の農民や漁民に頼まれるがままに芝居絵(歌舞伎や浄瑠璃の芝居を二つ折りの屏風に描いた土佐独特の形式)や台提灯絵、絵馬、凧絵などを数多く描きました。人々から「絵金(エキン)」の愛称で親しまれ、1876(明治9)年に65歳で亡くなりました。
絵金さんの作品でのうち、幕末から明治初期に描いた猥雑、土俗的で血みどろの芝居絵は特に人気が高いもので、赤や緑色の鮮やかに色彩が殊のほか美しく、とても妖艶な雰囲気を醸し出しています。
赤岡では元々各家が屏風絵を所蔵しており、それらを「須留田八幡宮 神祭」や「土佐赤岡絵金祭り」(毎年7月)などで開陳し、蝋燭の燈でそれを眺めるという催しが毎年開かれてきました。
他にも高知県内の約10か所の神社で、屏風絵を絵馬台(台提灯)に飾る夏祭りが行われています。
そうした絵馬台や絵馬提灯などが、今回の展覧会では蝋燭による光の具合も含めて、展示室に忠実に再現されています。私や学生の皆さんも東京にいながら、まさに土佐の高知の夏祭りを、そして絵金さんの迫力ある絵を味わうことができました。
さて、ここでちょっと閑話休題です。「絵金」さんの作品にまつわる、ある事件についてお話したいと思います。
こうした絵画類を含めて、有機質の美術作品を保存していくうえでは、虫や菌類による被害を防ぐことがとても大切です。そのため「燻蒸(くんじょう)」という作業が美術館・博物館などでは、しばしば行われてきました。
しかし、この「絵金」さんの屏風が、その「燻蒸」によって緑色の部分が黒く変色するという事件が、15年ほど前に起きてしまったのです(註1)。
企画展示のために借り受けた美術館が、防虫処理を業者に委託した際に、十分な指示や確認を怠ったことが背景にあり、研究機関が美術品には使わないよう注意喚起しているリン化アルミニウムを含む薬剤を使用したことで、緑青の顔料に含まれる銅が酸化したと考えられています。
その後、様々な文化財の修理を手がける独立行政法人東京文化財研究所が協力し、約3千万円をかけて修復したものの、変色した部分は完全には元に戻りませんでした。
文化財を保存するための作業が棄損することにつながったことはとても残念ですが、これを契機として、絵金さんの作品を適切に保管し、継承していくための機運がさらに地元の方々のなかに生まれたことも事実です。
現在、民間財団の寄付やいわゆるクラウドファウンディングによって、損傷が認められる絵金さんの作品を修理するプロジェクトも行われています。
例えば赤岡に残る絵金作品は、「絵金蔵」と呼ばれる施設において、地元の有志によって結成された運営委員会の下で、適切な温湿度管理により保管され、それらを活用するための活動が行われています。
https://www.ekingura.com/about/index.html
地域で守られてきた「宝」といえる「絵金さん」の作品。ぜひお時間がありましたら、展覧会に足を運ばれて、その迫力を感じてみてはいかがでしょうか。
お話したように、こうした文化遺産を守るためには、文化財保存の様々な知識が必要でもあります。歴史遺産コースでは、こうした知識を得るための授業もたくさん用意されています。これから秋から冬にかけて入学説明会や体験入学が開催されますので、ご関心がありましたら、ぜひそちらの解説ページもご覧ください!
https://www.kyoto-art.ac.jp/t/course/history/
「幕末土佐の天才絵師 絵金」
・サントリー美術館(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階)
・会期 2025年9月10日(水)~11月3日(月・祝)
・開館時間 10:00~18:00(金曜日は10:00~20:00)
・休館日 火曜日
(註1)「変色の屏風絵、修復し高知に 熊本市現代美術館、完全には戻らず…/熊本県」『朝日新聞』2017年04月19日朝刊, 熊本全県1地方, p31
歴史遺産コース|学科・コース紹介
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今年も各地の美術館、博物館で魅力的な特別展が開かれていますが、今回のテーマは地域で大切に守られてきた文化遺産である美術作品のお話です。
唐突ですが「絵金さん」という人物をご存じですか。
いま東京都港区の東京ミッドタウン内にあるサントリー美術館では「幕末土佐の天才絵師 絵金」という特別展が開かれています。
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2025_4/

そもそも「絵金」さんは1812(文化9)年、土佐藩城下の新市町(現・はりまや町2丁目)に髪結の息子として生まれました。幼い頃から画才があったそうで、江戸藩邸の御用絵師・前村洞和(または幕府御用絵師・狩野洞益)に師事し、その画力を高めたと言われます。
その後、林洞意(はやし とうい)の名を得て高知に帰郷、20歳にして土佐藩家老・桐間家の御用絵師となるのですが、のちに冤罪により城下所払いとなります。医家の嗣子となって弘瀬金藏を名乗り、叔母を頼って赤岡町(現・香南市)に定住したようです。
それ以後は「町絵師・金蔵」を名乗り、地元の農民や漁民に頼まれるがままに芝居絵(歌舞伎や浄瑠璃の芝居を二つ折りの屏風に描いた土佐独特の形式)や台提灯絵、絵馬、凧絵などを数多く描きました。人々から「絵金(エキン)」の愛称で親しまれ、1876(明治9)年に65歳で亡くなりました。
絵金さんの作品でのうち、幕末から明治初期に描いた猥雑、土俗的で血みどろの芝居絵は特に人気が高いもので、赤や緑色の鮮やかに色彩が殊のほか美しく、とても妖艶な雰囲気を醸し出しています。
赤岡では元々各家が屏風絵を所蔵しており、それらを「須留田八幡宮 神祭」や「土佐赤岡絵金祭り」(毎年7月)などで開陳し、蝋燭の燈でそれを眺めるという催しが毎年開かれてきました。
他にも高知県内の約10か所の神社で、屏風絵を絵馬台(台提灯)に飾る夏祭りが行われています。
そうした絵馬台や絵馬提灯などが、今回の展覧会では蝋燭による光の具合も含めて、展示室に忠実に再現されています。私や学生の皆さんも東京にいながら、まさに土佐の高知の夏祭りを、そして絵金さんの迫力ある絵を味わうことができました。

こうした絵画類を含めて、有機質の美術作品を保存していくうえでは、虫や菌類による被害を防ぐことがとても大切です。そのため「燻蒸(くんじょう)」という作業が美術館・博物館などでは、しばしば行われてきました。
しかし、この「絵金」さんの屏風が、その「燻蒸」によって緑色の部分が黒く変色するという事件が、15年ほど前に起きてしまったのです(註1)。
企画展示のために借り受けた美術館が、防虫処理を業者に委託した際に、十分な指示や確認を怠ったことが背景にあり、研究機関が美術品には使わないよう注意喚起しているリン化アルミニウムを含む薬剤を使用したことで、緑青の顔料に含まれる銅が酸化したと考えられています。
その後、様々な文化財の修理を手がける独立行政法人東京文化財研究所が協力し、約3千万円をかけて修復したものの、変色した部分は完全には元に戻りませんでした。
文化財を保存するための作業が棄損することにつながったことはとても残念ですが、これを契機として、絵金さんの作品を適切に保管し、継承していくための機運がさらに地元の方々のなかに生まれたことも事実です。
現在、民間財団の寄付やいわゆるクラウドファウンディングによって、損傷が認められる絵金さんの作品を修理するプロジェクトも行われています。
例えば赤岡に残る絵金作品は、「絵金蔵」と呼ばれる施設において、地元の有志によって結成された運営委員会の下で、適切な温湿度管理により保管され、それらを活用するための活動が行われています。
https://www.ekingura.com/about/index.html
地域で守られてきた「宝」といえる「絵金さん」の作品。ぜひお時間がありましたら、展覧会に足を運ばれて、その迫力を感じてみてはいかがでしょうか。
お話したように、こうした文化遺産を守るためには、文化財保存の様々な知識が必要でもあります。歴史遺産コースでは、こうした知識を得るための授業もたくさん用意されています。これから秋から冬にかけて入学説明会や体験入学が開催されますので、ご関心がありましたら、ぜひそちらの解説ページもご覧ください!
https://www.kyoto-art.ac.jp/t/course/history/
「幕末土佐の天才絵師 絵金」
・サントリー美術館(東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階)
・会期 2025年9月10日(水)~11月3日(月・祝)
・開館時間 10:00~18:00(金曜日は10:00~20:00)
・休館日 火曜日
(註1)「変色の屏風絵、修復し高知に 熊本市現代美術館、完全には戻らず…/熊本県」『朝日新聞』2017年04月19日朝刊, 熊本全県1地方, p31
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