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2025年10月17日
【文芸コース】文芸表現における「ポートフォリオ」って、どうつくればいいんだろう?

川﨑昌平のポートフォリオから。自作の同人誌について紹介している。
皆さん、こんにちは。文芸コース主任の川﨑昌平です。
芸大生の就職活動に切っても切り離せない存在である「ポートフォリオ」。デザインやファインアートを学んだ方のものであれば、イメージがしやすいですよね。自分のキャリアをベースにしつつ、つくった作品や構想などをビジュアルとともに紹介し、何を学んだか、どんなコンセプトで活動しているのか、将来的にどのようになりたいのか……そうした要素を見やすく読みやすくつくれば、よいポートフォリオができあがりそうです。
でも……文芸を学んだ人は、どんなポートフォリオをつくればいいんでしょう? 「文章にポートフォリオなんていらないよ、書いたものをそのまま読んでもらえばいいんだよ!」という意見があったとすれば、私も否定はしません。だってその人の作品を読まないと、その人がどんな文章を書く人なのか、どんな文芸表現を志しているのかなんて、わからないですから。
一方で、その態度はコミュニケーションデザインの観点からはちょっと損をしている気もします。「読まないとわからない」という事実は、とりもなおさず「読まれなかったらオシマイ」という意味でもあり、現代という状況を考えるといついかなるときも相手が「ほう、原稿用紙300枚の小説ですか。どれどれ読んでみますか……」となるとは限らない……というか、忙しい人ばかりですから、なかなかじっくり読んでもらえる機会なんて、そうはありません。
なんとか「全文を読まずとも、作者の性格やポテンシャルが伝わり、なおかつ興味を持ってもらえるような媒体」としてのポートフォリオがつくれないものかと考えて……つくってみました。

川﨑昌平のポートフォリオから。自著について紹介している。
とりあえずビジュアルはあったほうがいいかなあ、と思い、自室にホリゾントっぽいものを用意して、スマホでパシャっと撮影した画像に、私自身による解説を添えてみました……が、正直「だから何?」って感じになっちゃってますね。作者による制作秘話的なものを読まされたところで本の中身がわかるわけじゃないし、ページの半分以上を書影が占めていますが、そんなのAmazonのリンクを貼ればいいだけだし、よしんば写真を物撮りのプロに依頼したところで、きれいな書影があるだけで、そして装幀は私がやったわけでもないので、美しく見せたところで私のポートフォリオの価値を高めるわけではありません。

川﨑昌平のポートフォリオから。自作の漫画について紹介している。
仮に実際のページを読めるように掲載したところで、全部を紹介できるわけではありませんから、中途半端なイメージは拭えません。画像は断片であっても比較的全体像がわかりやすい作品を選んでポートフォリオに掲載したものですが、やっぱり「ふーん」以上の感想が抱けないように読めます。まあ、漫画なのでギリギリですが、作風などは伝わるといえないことはないのかもしれませんが……私の絵なので、伝わったところで相手が感心してくれるかというと……少々以上に疑わしいものがありますね。

川﨑昌平のポートフォリオから。自作の小説について紹介している。
文字だけの本だと、もうこれです。何にも伝わらない。何もわからないし、おもしろくもない。私自身、それは痛いほどに理解できたので、この本にまつわるエピソードを認めてみたりしたものの、別にそれはこの本自体には関係のない要素ですから、相手も何も思わないでしょう。完全に失敗していますね。

川﨑昌平のポートフォリオから。自著の翻訳書について紹介している。
このページも失敗。「自著が翻訳されました」しか読み取れません。どんな内容なのか、どんなふうに翻訳されたのか、そのトランスレーションにおいて表現性にどのような影響がもたらされたのか……何もわからない内容になっています。

川﨑昌平のポートフォリオから。自著の連載作品について紹介している。
つくっていて「全然ダメだな。ポートフォリオになってない」と薄々わかったので、このあたりではもう開き直って「ダメな俺も見せておこう」ぐらいに考えたのかもしれません。連載作品のページのスキャン画像です。ピンクの付箋は単行本刊行時に修正するためのメモです(トーン貼り忘れ)……と言いつつ、単行本化の作業をサボっているわけですから、このページを読んでも「ぶんか社さんに謝れよ」という感想しか抱けません。本当にごめんなさい。
という具合に、ポートフォリオをつくってみたものの、「文芸を学ぶ人は、こうやってポートフォリオをつくるといいよ!」というアドバイスができるような結果は手に入れられませんでした。長々書いておいて、申しわけありません。
無理やり意味を見出すとすれば「つくり続ける意欲と覚悟はある」ことを示せた、という部分ぐらいでしょうか。全体で80ページ弱になったのですが、著書はすべて掲載したものの、同人誌や未発表原稿などは相当選んでいます。私の同人誌を網羅したポートフォリオをつくろうとしたら、1ページ1冊としても、200ページを超えてしまったでしょうから。
ただ、色々と手を動かしてみて、「文芸表現におけるポートフォリオ」が目指すべき要素については、整理がついた気がしますので、以下、参考になるかわかりませんが、メモ代わりに置いておきます。
1:文章を読ませようとせず、作家性を読んでもらおう。
2:作品を読んでもらう前に、作者に興味を持ってもらおう。
3:でも自分語りはダメ。作品の「何がおもしろいのか」を記そう。
4:稚拙でよいからビジュアルは多少なりともあったほうがよい。
5:ポートフォリオで質は伝えるのは難しい。だから量をアピールしよう。
以上です。私なりの小さな結論ですが、どうがんばっても、文芸表現におけるポートフォリオで「作品をすべてを知ってもらう」のはムリだと私は思いました。でもだからこそ「作品に関心をもってもらう」ところを狙い、その上で「作者に興味をもってもらう」ことを目標にするのがよいのでは……と。
あるいは、文芸領域における就職活動という観点で考えると、出版社などを対象とするのであれば、ポートフォリオの存在を通して「編集できる(表現者と読者を接続できる)」という能力の一端を示すことができる意義は、小さくないのかなと思いました。自分という表現者をどうにかして読者につなげようとする意気込みを伝える媒体としての価値が、文芸表現におけるポートフォリオの唯一の可能性であるかもしれません。
長々と失礼しました。ご参考になれば幸いです。
文芸コース主任 川﨑昌平
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