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2025年10月21日
【通信制大学院】文芸領域教員コラム「いまさら書こうとする人へ」(山本 隆博)

文芸領域への入学を検討されている「作家志望者」「制作志望者」に向けて、本領域の教員がコラムをお届けします。
今回はコピーライターの山本 隆博さんのコラムをご紹介します。

【山本 隆博】(やまもと・たかひろ)
家電メーカーのシャープにて、テレビコマーシャルなどマス広告の制作に従事した後、インターネットを流れ流れてSNS担当へ。ときに〝ゆるい〟と称される投稿でニュースになる日常に。フォロワー数は83万を超え、企業公式アカウントの中でも絶大な人気を誇る。シャープ退職後もアカウントは業務委託で担当し、企業コミュニケーションと広告の平和なあり方を模索している。主な受賞に第50回佐治敬三賞、2018年東京コピーライターズクラブ新人賞、2021年ACCブロンズなど。2019年「Forbes JAPAN トップインフルエンサー50人」に選ばれたことも。著書に『スマホ片手に、しんどい夜に。』(講談社)、おとなの週末webでコラム「家電としあわせ』など。
いまさら書こうとする人へ
昔、携帯電話の広告に携わっていたことがある。わざわざ携帯電話と書いたのは、その頃はまだスマホがなかったからだ。21世紀がはじまってまもなく、携帯電話にカメラがついた。特に要請したわけではないのに、とつぜん人類は電話で写真が撮れるようになったのだ。
カメラが付いた電話はおどろくほど売れた。私が勤める会社は携帯電話を作るメーカーでもあったので、すぐにすべての機種にカメラがついた。ライバルメーカーも同様である。広告もカメラ機能を喧伝しさえすれば歓迎され、写真をメールで送る「写メール」なんて言葉も広告から派生した。そしてあっという間に、あの独特のカシャーカシャーという音が街中で鳴るようになったのだ。
人間が生み出したモノが、ヒットやブームを巻き起こすことはよくある。人も企業もすべからく、自らが生み出したモノが多くの人に受け入れられることを願うわけで、今も昔もこの瞬間も、なにかがバズりヒットして、たくさんの人がそれにお金を投じたり愛着を注いだりしている。しかしごく稀にモノが普及の域を超え、人間の行為を変化させてしまうことがある。それを私は、携帯電話にカメラが付いた時に知った。カメラ付き携帯電話が「写真を撮る」という行為を一変させたのは、みなさんも知るとおりだろう。その後の10年ほどで写真は、カメラと技術を不在にし、とりあえず撮るものになり、自分を撮るものになり、脳の外部記憶装置となり、そしてあとからいくらでも加工できる表現へと変わってしまった。
カメラ付き携帯電話のことを思い出すと私は、その当時カメラや写真を志す人がアレをどう感じていたのだろうかと考える。自らが目指そうとする表現が行為ごと変節しようとする時、写真を志す人は「なぜ私は撮るのか」に向き合わざるをえなかったはずで、そこに思索や試行錯誤があったのではないか。その痕跡に、私はいまも興味がある。
なぜなら「文章を書くこと」が、いま同じ境遇にあるからだ。生成AIによって、だれでも、いつでも、いくらでも長く、「書かずに書ける」世界が、特に要請したわけでもないのにやってきた。その世界を前に、私たちは「なぜ書くのか」から目をそむけるわけにはいかないだろう。そんな時、なぜ撮るのかを考え続けた人たちの足跡は、ひとつの道標になるのではないかと予感している。そして同時に、写真という表現がまったくなくなっていない事実に、私はそっと安堵を覚えるのだ。
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説明会情報
【2025年10月29日(木)19:00~20:30】
文芸領域「ことばの表現」の新しい可能性
「ことばの表現」ジャンルは、人類最古のものに見えてその実、SNS隆盛の現代においては、もっとも新しくラディカルな可能性を持った手立てとなりつつあります。この世のほとんどあらゆるものを、きわめて精確に表現しうる。人間社会を根底から揺り動かす絶大な力に満ちている。それでいて、そのほんとうの起源がいまだにわかっておらず、大きな謎を秘めてもいます。
この神秘的で同時にきわめて現代的な「ことば」なるものの新たな可能性を掘り起こし、小説など広義の物語創作から、各種の批評、エッセイ、コラム、取材記事執筆、そしてSNSにおける発信など、多種多様なジャンルにおける「ことばの表現」の近未来を展望します。登壇するのは、気鋭の文芸評論家、小説家、そしてフォロワー数83万人のコピーライター。どうぞふるってご参加ください。よろしくお願いいたします。
登壇者一覧) ■指導担当者 *池田雄一(文芸評論家) *山本隆博(コピーライター)
司会進行) *辻井南青紀(作家/文芸領域長)
↓説明会の参加申し込みは文芸領域ページ内「説明会情報」から!
▼京都芸術大学大学院(通信教育)webサイト 文芸領域ページ
入学すると、一学年にひとつの「クリエイティブライティング・ゼミ」に入り、その中にある3つの専門性の高い指導グループのうちのどれかに所属します。
●クリエイティブライティング・ゼミ
小説などの物語創作や評論、エッセイ、コラムなどのテクスト、あるいは社会に向けて自身の思いを発信する活動など、さまざまなジャンルを横断的に学び、実践できる仕組みがあります。学びと創作の取り組みを可能な限り自由にするために、前期や後期など期ごとにゼミ内グループを移動することも出来ます。特定の分野やジャンルのみならず、大学院の二年間のうちにいろいろなことばの表現に触れ、実力をつけることが出来る機会があります。
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