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2025年11月04日
【通信制大学院】文芸領域教員コラム「円滑さから離れた贅沢な言葉へ」 (佐藤 述人)

文芸領域への入学を検討されている「作家志望者」「制作志望者」に向けて、本領域の教員がコラムをお届けします。
今回は作家の佐藤 述人さんのコラムをご紹介します。

【佐藤 述人】(さいとう・じゅっと)
作家。1995年、東京生まれ。2018年に小説「ツキヒツジの夜になる」で第24回三田文学新人賞を受賞。他作品に「墓と園と植物の動き」(『江古田文学』)、「つくねの内訳」(『三田文學』)など。論説に「越境による境界」(『江古田文学』)など。
円滑さから離れた贅沢な言葉へ
多くの人々が日常的に、物事を円滑に進めるために調整された言葉を用いるよう、社会や所属組織から求められているだろうと思います。あるいは明確に求められておらずとも、いわば自主規制的に、調整して有限化された言葉を用いて日常をやり過ごしているのだろうと思います。もちろんこれを書いている僕にしてもそうです。
なるべく奇異に思われず、なるべく相手を不快にさせず、そして何に対しても水を差さないように調整された言葉は物事を円滑に進めます。そしてその円滑さは利益に直結するでしょう。ビジネス上の取引を成功させるかもしれないし、めんどうごとを回避させるかもしれないし、出世を早めるかもしれない。その意味でそれらは実利的で有用です。ということは、逆から示せば僕らはふだん、実利的で有用な振る舞いを求められ、そのような言葉の使いかたを要請される場面が多い暮らしをしているのだと言えるでしょう。
ところが、文芸の言葉にはそのような有用性がほとんどないと言っていい(と少なくとも僕は考えます)。眼前の対象や自らの思考を、円滑さのために調整して有限化したものが実利的で有用な収まりのいい言葉です。ある種の型によって対象や思考は有限な範囲に押し込められて加工され、同じ型の内側での円滑さが担保されるわけです。しかし実際のところ、あらゆる対象は際限のない多様さを湛えて無限であり、すべての思考は本人でさえ隅々まで知ることのできない無限の論理と経緯を背後に具えているはずです。文芸の言葉を僕は、その無限に対して誠実に紡がれるものだと考えます。あるいはその誠実さを奇異なものとして貶めたり不快に思ったりしない寛容さと共にあるものだと考えます。
すべての時間とコストが効率性と有用性に換算できてしまい、型の内側での価値として勘定できていしまうこの社会では、気づけば円滑さの度合いで測られた言葉ばかりで日々の語彙を埋めがちだということもあり得ることと思います。有用性の高い調整された言葉以外に気を配る暇がなくなるという事態も容易に想像できます。それは言葉の使いかたすら換算あるいは勘定せねばならない事態とも言えるでしょう。その社会のなかで、有用さに縛られずに、無理な有限化を免れて誠実さと寛容さのことだけを考えて言葉を紡げる時間を確保でき、その技術を磨ける環境を足場にできること、僕は大学で文芸に向き合う場に身を置くことをそういうものだと考えています。そしてこれはとても贅沢なことだと思われます。円滑さに縛られることなく対象と思考の無限の多様さに向き合える時間と技術、それはすなわちこの世界と自己に対して換算と勘定を抜きに素直に対峙できる時間と技術でもあります。それを得られる豊かさこそが、僕が知る文芸を磨くことの魅力です。
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説明会情報
【2025年11月13日(木) 19:00-20:30】
「文芸領域=『クリエイティブ・ライティング』 ~その新しい可能性~」
大学院で、それも通信教育(完全オンライン)で、広義の「文芸」分野について、専門的に学び、創作や制作に深く打ち込める、本学大学院「文芸領域」。2023年度創設から現在に至るまで多くの優れた学生が学びと創作に打ち込み、昨年度、初の修了生を輩出しました。 これまでは、小説など物語創作、また編集制作など、ことばの表現の各ジャンルを専門的なレベルまで深めて学ぶという特性がありました。 次年度からは、既存の「文芸」ジャンルを今一度「ことばの表現」全般ととらえ直して、新しいゼミ指導体制、「クリエイティブ・ライティング」ゼミがスタートします。 従来の小説や物語の創作、編集制作といったわたしたちの専門ジャンルをより高め、深めるのみならず、専門性の「垣根」をなるべく取り払い、学生のみなさんが在学中に多様なジャンルに触れ、さまざまな学びと創作・制作を深化させられる新たな仕組みとなります。 非フィクション系の多様なテクストを社会に向け、SNSなどを通じて発信を行いたい、けれどそのために何をどうすればよいのか、とお悩みの方々にとっても、意義ある学びの場となるよう、力を尽くします。
登壇者一覧)
■指導担当者
⁕山本隆博(コピーライター・「クリエイティブライティング」ゼミ指導教員) ⁕あわいゆき(書評家・非常勤講師) ⁕新保博久(ミステリ評論家・非常勤講師)⁕石戸谷直紀(編集者・非常勤講師)
司会進行)
⁕辻井南青紀(作家・文芸領域長・「クリエイティブライティング」ゼミ指導教員)
↓説明会の参加申し込みは文芸領域ページ内「説明会情報」から!
▼京都芸術大学大学院(通信教育)webサイト 文芸領域ページ

入学すると、一学年にひとつの「クリエイティブライティング・ゼミ」に入り、その中にある3つの専門性の高い指導グループのうちのどれかに所属します。
●クリエイティブライティング・ゼミ
小説などの物語創作や評論、エッセイ、コラムなどのテクスト、あるいは社会に向けて自身の思いを発信する活動など、さまざまなジャンルを横断的に学び、実践できる仕組みがあります。学びと創作の取り組みを可能な限り自由にするために、前期や後期など期ごとにゼミ内グループを移動することも出来ます。特定の分野やジャンルのみならず、大学院の二年間のうちにいろいろなことばの表現に触れ、実力をつけることが出来る機会があります。
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