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芸術学コース

2025年10月23日

【芸術学コース】棟方志功とロースかつ

みなさん、こんにちは。そして、はじめまして。今年度より、芸術学コースの業務担当非常勤講師として着任いたしました遠藤太良と申します。
専門は、日本近代の美学、美術史、そして文学です。これまでの研究では、昭和期の文芸批評家・思想家である保田與重郎を中心に、昭和期の文学と美術の交渉について考察してまいりました。今後は、保田が主導的な役割を果たした『日本浪曼派』や彼と関わりの深い民藝運動などを中心に扱いつつ、引き続き日本近代における文学と美術の関係について考察を深めていきたいと考えています。また、昨年度からは、日本のホテルにおける美術の活用についての研究にも着手しました。このあたりの変遷についても追々お話ししていければと思います。
これからどうぞよろしくお願いいたします!

突然ですが、みなさんは「勝烈庵」というお店をご存じでしょうか?関東にお住まいの方にはおなじみのお店かもしれませんね。このお店は横浜に本店を置く昭和2年創業の老舗のとんかつ屋さんです。かく言う私は、生まれてこの方関西在住ということもあり、知人の紹介で先日初めて伺いました。大変美味しいとんかつでしたし、付け合わせのシジミ汁も好みの感じで、とても素敵なひとときを過ごすことができました。(写真はこのときにいただいたロースかつです。下手な写真で恐縮ですが、それでも美味しそうでしょう笑)

さて、そんな勝烈庵ですが、このお店の魅力は美味しい揚げ物だけではありません。日本を代表する版画家である棟方志功の作品をたくさん見ることができます。なぜ、とんかつ屋さんに美術作品が展示されているのでしょう?ここからはこのことについてお話ししたいと思います。

まず、そもそもの棟方志功について。棟方は明治36年青森に生まれました。大正13年に上京、昭和11年には佐藤一英の詩を基にした大作《大和し美し》を国画展に出品、柳宗悦らの称賛をうけます。以後、柳が中心的な役割を担った民藝運動と関係を深め、また、文芸評論家保田與重郎をはじめとする文学者らとも親密に交流するなど、精力的な活動を展開していきます。そして、戦後である昭和30年にサンパウロ・ビエンナーレで版画部門最高賞を、翌31年にはヴェネチア・ビエンナーレで国際版画大賞を受賞するなど、敗戦後の日本にあっていち早く国際的な評価を獲得しました。まさに名実ともに日本を代表する芸術家の一人と言えるでしょう。
国内のみならず国際的にもこのように高い評価を獲得した棟方ですが、勝烈庵とのご縁は、戦後間もない昭和22年にまで遡ります。美術収集家でもあったこのお店の先々代のご当主が、民藝運動の中心人物であり棟方とも親しい関係にあった濱田庄司の窯元を訪れた際、近くの宿で棟方の作品を目にし深い感銘を受けました。その後、濱田より棟方を紹介されたことで両者に交流が生まれ、生涯にわたり親密な関係を築きました。ちなみに、棟方は上京した頃よりとんかつが大好きで、このお店の味もとても気に入っていたそうです。
現在の勝烈庵の作品群は、こうした両者の深い結びつきからうまれました。店名の看板は棟方が揮毫したものです。また、店内には、棟方の代表作でありヴェネチア・ビエンナーレの受賞作でもある《二菩薩釈迦十大弟子》の2作品が展示されています。さらに、版画作品だけでなく、横浜の景観などを描いた肉筆画も飾られています。棟方は今日でも大変人気が高く、版画作品は様々な場所で目にすることができますが、肉筆画を見る機会はそれほど多くないかもしれません。そのため、棟方の作品を鑑賞するうえでも、勝烈庵は貴重な場所だと言えるでしょう。
さらにいえば、棟方が深く関わった民藝運動とは、「日常の生活の中で使われる雑器に美を見いだす」運動でありました。ここには、美術館に飾られるような「芸術作品」だけを貴ぶ風潮への強い批判が込められています。また、そもそも、美術史を紐解けば明らかになるとおり、今日でいうところの「芸術」とはもともと「道具」のようなものでありました。この意味で、日常の中に美を見出す民藝運動は、「芸術作品」へと祭り上げられた「美なるもの」を本来の居場所である日常生活へ取り戻そうとする運動であったといえるでしょう。そして、いささか極端なことを述べるならば、日常的なお食事を楽しみながら肩肘張らずに作品を目にすることができる勝烈庵の在り様は、民藝運動に関わった棟方の姿に最も通じるものといえるかもしれません。

この勝烈庵の例からも分かるように、芸術とは必ずしも美術館に展示されているものではありません。日常の様々な空間に芸術はあふれています。そして、美学や美術史、芸術学など、芸術に関する学問を学ぶことで、日常に隠された芸術的なものごとに気づくことができるようになります。上にも書きましたとおり私は日本の近代が専門ですが、本学には日本の近世や西洋、アジアなど、様々なジャンルを専門とする教員が在籍しており、幅広い視点から芸術について学ぶことができます。ご興味を持たれた方はぜひ下記のリンクから詳細をご参照くださいませ。

主要参考文献
勝烈庵HP  https://katsuretsuan.co.jp/20251016日閲覧)
「棟方志功:生誕120年・棟方志功 横浜の「勝烈庵」と縁 目でも舌でも「本物」味わう」毎日新聞(朝刊)、神奈川版、20231124日、20面。

読書案内
石井頼子『言霊の人 棟方志功』里文出版、2015年。
志賀直邦『民藝の歴史』ちくま学芸文庫、2016年。
棟方志功『板極道(1964年)』中公文庫、2013年。

 

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