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2025年11月20日
【書画コース】絵描き三昧 – 丹羽優太 襖絵公開 –
みなさん、こんにちは。書画研究室の松岡です。みなさまはいかがお過ごしでしょうか。
私は10月から個展・芸術祭・グループ展の同時期開催と12月東京・2月京都の展示のための制作でドタバタの日々でした。展覧会は嬉しいですが、自分の制作のペースをよく考えないとえらい目に合うなと身に沁みた次第です。
先日、私の友人で尊敬する絵描き、丹羽優太さんが手掛けた襖絵の公開があるとのことで訪問いたしました。
丹羽さんは京都芸術大学大学院ペインティング領域を修了。墨による表現を中心に日本絵画の文脈や技法・素材を踏まえつつ、人々の目には見えない厄災や、抗い難い力が「黒い何か」として象徴されてきた歴史に着目し、作品を制作されています。
また、数多くの受賞や直近では「くるり」の連続リリース第三弾「瀬戸の内」のジャケットを描くなど多方面で活躍されています。
2022年からは約三年間、光明院に住み込みで襖絵32面を描くプロジェクトが始動し、この春ついに完成しました。そして11/30まで初の一般公開がはじまりました。
絵描きとして襖絵を描く機会はめったにありません。これから書画を学ぶ方々、卒業制作に臨む方々の参考になればと思い、若き熱い絵描きの作品の一部をご紹介できればと思います。
■空間にうねり、満ちる力‐大鯰(おおなまず)
光明院の玄関から、丹羽さんがこれまで表現してきた災害や疫病を象徴するモチーフを描いた襖絵や衝立類の作品に導かれ、石庭 波心庭(はしんてい)を臨む。
さらに奥、階段を上がると東と西の二間があり、そこに異様な空間が現れます。
東の間には、空間全体には大きな滝と濁流が描かれ、岩や大鯰(おおなまず)などがうねりとなり、その巨大な流れの力が光明院の庭である波心庭(はしんてい)へと解き放たれる構成となっています。
まず現れるのは黒く巨大な大鯰。
その異様さと神々しさに心貫かれました。じっくり眺めているとしっとりとヌメリを感じるような墨の表現と挑戦的な赤い舌が目に止まります。
彼いわく、下地を工夫し、重量感のある黒になるよう墨で描いているそう。
でろっと出た舌は、若冲の鶏のトサカの表現に感動し影響を受けたそうで、筆で一点ずつ描いているそう。重量感のある黒と繊細に描かれた赤い舌との表現のコントラスト。さらにマチエールの効果もあるのでしょうが、鯰のヌメッとした肌感とボディーのある墨の表現は見事でした。そして、波の線は角がなく、抜けがあり、心地いい。
画面全体に散りばめられた岩は、まるで重森三玲のモダンな作庭と呼応するようで作者の遊び心を感じました。
一方には、牧谿や長谷川等伯も描いた松とテナガザル。ユーモラスに描かれたそれらも、寺院襖を描く意味を語りかけてくれるよう。・・・あまり書きすぎると楽しみがなくなりますので、このへんで。
■災いと向き合うこと‐虎狼絵(コロナマズ)と達磨大師
西の間には、丹羽さんの代表的なモチーフである「虎狼絵(コロナマズ)」(フィギュアにもなっていて可愛いです)竹林と筍、禅宗の祖・達磨大師が対峙するように描かれています。

九年の座禅の末に手足を失ったとされる達磨からは、近年のコロナ禍で悶えた私たちに「座して心を澄ませ、考えよ」と生き様を見せるよう。また、個人的にはコウモリの表現は可愛さと上手さ必見です。
さらに、一際目を引くのが、ガサッと力強く描かれたかすれた筆致。
筆一本では自分がイメージする線が描けず、毛の種類を吟味し、割り箸を用いて筆を連結させて連筆を自作したとのこと。(会場の紹介ボードに彼がそれで描いている写真がありますのでぜひ。)
表現のために画材を追求することの大切さを改めて感じました。
さらに見ていくと・・・おっと危ない、また書きすぎるのでこのへんで。
丹羽さんの絵画を見ていると、照明で照らさず、自然光のゆらぎの中で見るからか、画面に奥行きと湿度・ひかりを感じ、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』で書かれた日本家屋の光の調子を思い出しました。
そして、彼が向き合ってきた歴史や画題、現代を生きる私たちとのつながりと意味を問うてきた時間、思考の深さを感じます。我々、人間の視点から見れば災いであっても、自然の循環と作用であり、人はその内に身を委ね、生きる。そんな視座が込められているように感じます。
彼が「自身にとっても最大規模の作品となりました。京都のお寺の襖絵を描くことは、長年の夢であり、同時に大きな挑戦でもありました。」と語っているように、絵描きとしての勝負であり、その高揚と情熱、責任、不安、葛藤は、同じ作家を志す者として胸に刺さります。
その、生きることと創ることが一致した、彼の生き様が宿った作品であると私は思います。
同年代の作家として尊敬いたします。
ぜひ、同時代に生きる彼の水墨画の大作を御覧ください。きっと大きな学びとなります。人懐っこいニヤッとした笑顔で彼が出迎えてくれることでしょう。(在廊日であれば!)
さらに!!光明院の裏手にあります、Kaho Galleryさんにて個展「波心を遡行して」を開催中です。掛け軸や、屏風など、表具された小作品を中心に約10点の作品が展示されています。
光明院さんからも歩いて3分ほどで、とても素敵な空間での展示です。襖絵と合わせてぜひご覧ください。
【 アーティスト 】
丹羽優太 / Yuta Niwa
日本絵画の文脈や技法・素材を踏まえつつ、人々の目には見えない厄災や、抗い難い力が「黒い何か」として象徴されてきた歴史に着目し、作品を制作している。
2019年、京都芸術大学大学院ペインティング領域を首席で修了後、北京に留学。現在は京都を拠点に活動している。
近年の主な展覧会に、Biennale Jogjal8, Art Collaboration Kyoto 「Golden Fight of Gods黄金衆神之聞」、「キメラ流行記」、MIDTOWN AWARD2021、「なまずのこうみょう」やんばるアートフェスティバル 山原知新、アートアワード丸の内2019
HP|https://yutaniwa.com/
【 展覧会情報 】
▣光明院 特別拝観 – 丹羽優太 襖絵公開 –
会期|10月31日(金)〜11月30日(日)
時間|7:00〜17:00
会場|東福寺塔頭 光明院
HP|https://komyoin.jp/
▣「波心を遡行して」
会期|2025年11月12日(水)〜11月30日(日)
会場|Kaho Gallery(〒605-0981 京都府京都市東山区本町15丁目778−1)
時間|12:00〜17:00(月曜休廊)
在廊予定|11月16日(土)、23日(土)
HP|https://kahogallery.o.oo7.jp/kg/top.html
■おわりに
いかがでしょうか。新しい水墨画の襖絵はなかなか見ることができませんので貴重ですね。
書画コースでは特別講義をはじめ、卒業生や在校生、講師による展覧会も盛んです。
ぜひ、書画の世界に足を踏み入れ、多彩な学びと創作の魅力を体感してください!
次回のブログもお楽しみに!
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