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2025年12月24日
【染織コース】小名木陽一先生のこと

小名木先生と作品(『誰でもできる織りもの 現代の織り』至文堂より)
通信教育部染織コース開設にあたり二冊の教科書が作成されました。織物の教科書『染織演習[織]』の「緯絣と経絣」(よこがすりとたてがすり)、「絣の応用」という章を担当させていただくことになったのが小名木先生と私の出会いです。

最初の教科書二冊

「緯絣と経絣」

「絣の応用」
私の文章は手書き、写真はカメラマンが撮ってくださいました。教科書の作成に関われるなどめったにないことなので興味津々で大学に通いました。通信教育部開設の苦労話もいろいろお聞きしました。その時私は非常勤講師だったので創設にかかわる深いところの事情は知ることはありませんでしたが、相当な決意で臨まなければ実現し得なかったことは想像できます。

『誰でもできる織りもの 現代の織り』
通信染織コースの教科書より先にあったのが『誰でもできる織りもの 現代の織り』です。短期大学ではこの本が教科書として使われていました。

「はじめに ―織物前史」

「とにかく織ってみよう」
「はじめに ―織物前史」では織物に関わってきた経験からの視点で「やきものが先か 織物が先か」また「人類最初のメカニズム」織物の始まりについて語られています。次の章は「とにかく織ってみよう」で、板に釘を打ってたて糸を張り、綴織を織る方法が紹介されています。織物といえば織機に座ってパッタンパッタンと織るものと思っていた私には衝撃の内容でした。大掛かりな織機がなくても織物は誰にでもできる、ここに小名木先生の織物に対する考えが明確に表れています。

立体織の項1

立体織の項2
さまざまな織機を使った綴織や絣、着物の制作の章に続き、「立体織」について詳細に書かれています。織物は平らであっても実は立体です。たて糸の間をよこ糸が行き来しています。しかしほとんどは平らに織られます。先生は日本各地の藁でつくられた日用品である蓑、わらじ、ばんどり、雪沓などを見てまわったことをきっかけとして綴織を立体的に織り進める方法を考案されました。

作品集表紙

立体織1

立体織2

立体織3
立体的に織るという独自の方法に加え、そのモチーフとされた巨大な手や足、臓器などが目にも鮮やかな色で織られていて、当時目にした人がさぞ驚いたことだろうと想像できます。『誰でもできる織りもの 現代の織り』の表紙となった「裸の花嫁」は1973年発表とのことなので、私がその衝撃に出会ったのはかなり後のことです。

ギャラリーRAKU Quarterly Report表紙(当時あった学内ギャラリーの報告書)

ギャラリーRAKU Quarterly Report Voi.15より
立体織に続き「自立の試み」シリーズで、織物をささえなしに自立させる作品や、織られた立体が重力で大きくたわむ作品を発表されました。
小名木先生が退任されて数年後、初版第一刷発行から20年が過ぎた『染織演習[織]』が刷新されることになりました。コロナ禍で落ち着かない日々、私は教科書を再編する重積を担うこととなりました。計画は染、織でそれぞれ技術書と読み物を二冊発行するというものでした。

新しい教科書
技術書の方は『染織演習[織]』の内容を踏襲し、一部のみを変更して『はじめて学ぶ芸術の教科書 染織 織を学ぶ』として2020年に発行されました。読み物の方は『染織演習[織]』から一部の内容を移行し、残りは全て新しい章としました。この本の冒頭は「織物前史」としてぜひ小名木先生にご執筆いただきたいと考え、久しぶりに先生のご自宅を訪ねました。先生はいつも通りの朗らかな様子でお話しを聞いてくださり、書きたいことはあるのだけれど手術して退院したばかりなので体力がないと、やんわりお断りされました。織物前史・・・私には書けそうにないこの内容をどうすればいいのか、悩んだ末に染織αの編集長をされていた佐藤能史先生のアドバイスで尾関清子先生に編布(あんぎん)について書いていだだくことになりました。『はじめて学ぶ芸術の教科書 染織 織を知る』は2022年に何とか発行に漕ぎつけました。短大時代と四大時代に小名木先生が編集された二冊のお手本となる教科書がなければできないことでした。

織物前史の章
さて冒頭に「ある日のできごと」と書きました。こちらは『誰でもできる織りもの 現代の織り』の「むすび ―なぜ織物なのか」に書かれています。京都国立博物館で見た一枚の壁掛、その鮮烈な赤い色に出会ったことが織物に進むきっかけとなったとのことです。その文章はここでは再現できません。ぜひ本を手に取って読んでみてください。
小名木先生、ここまで私たちを導いてくださり本当にありがとうございました。
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