美術科

染織

TEXTILES

布を生かし、自分を生かす技を、
染と織の両方から学ぶ。

「布と生きる」「布は生きる」。
伝統の地、京都で多彩な染織技法を基礎から習得。
布を生かし、自分を生かす力を身につけます。

コースの特長

01 「染」と「織」の両方を学べる。

「染」と「織」両方の基礎を学んだのち、自分の深めたい技法を選択。卒業後の活動につながる卒業制作に取り組みます。

02 総合的な力をつける。

染めや織りの技法を駆使するには、魅力的なモチーフを描くこと、色彩構成の知識を得ることが必要。それらの基本をいちから丁寧に身につけられるカリキュラムを用意しています。

03 多様な染織世界から、自分だけの表現を発見。

幅広い学びを通して、生活を彩るテキスタイルや自己表現としての作品制作など、多様な染織世界を体感。そこから、新しいものの見方、自分だけの表現方法を見つけだします。

京都+スクーリングまたは東京+スクーリング、京都のみのスクーリングまたはオンラインのみのスクーリング受講で卒業可
  • ※遠隔のみで卒業の場合、受講日程が限定されることがあります。
  • ※テキスト科目の課題提出は郵送指定となることもあります。
  • 染織用品

学びの4つのステップ

STEP1

素材、技法に手で触れ、
染織の可能性を感じとる。
まずは生活の中の布や身近な染料を知り、人と染織との関わりを考えます。「染」と「織」の基本的技法を学ぶとともに、造形の基礎となる「物を見て描く方法」を習得し、つくる楽しさを実感。布や糸の感触、染まる感覚など、手を通して染織表現の可能性を発見します。

藍色絞りの浴衣 スクーリング科目例/藍色絞りの浴衣を染める

STEP2

基本の技術を身につけながら、
染めること、織ることを理解する。
ひきつづき、基本的な技術を学習しながら、染技法、織技法が発展してきた歴史を知り、装うことや生活を彩ることに込める人の心を考えます。また、「色彩」や「構成」を理論的に学び、作品制作の基礎としていきます。

絣の布を織る スクーリング科目例 / 絣の布を織る「経絣(たてがすり)」の方法を知り、整経(せいけい:たて糸作り)、防染(ぼうせん)、染色、織り上げまでを学びます。

STEP3

深めていきたい技法を選び、
自分自身の方向性を見つける。
「蠟染」「友禅のふくさを染める」「綴織の壁掛を織る」「絹を知る」の中から2科目を選択し、理解を深めます。また、「フェルトメイキング」「スクリーンプリントの手ぬぐいを染める」などの選択科目を履修し、自分と染織との関わりを考えながら、表現の幅を広げていきます。

自由作品 スクーリング科目例 / 自由作品これまで学んできたことを生かし、自由作品に挑戦。テーマの設定、技法の選択、素材の吟味など、すべて自分の手で行います。

STEP4

テーマ設定から作品完成まで、自分にとっての染・織をかたちにする。
1年をかけて、じっくりと卒業制作に取り組みます。発想から仕上げまで計画的に制作をすすめ、卒業後の活動の土台を築きます。自分にとっての「染」「織」をかたちにすること、美しい仕上げ方や効果的な展示方法など、作品の見せ方までを学びます。

前期制作 スクーリング科目例 / 前期制作4年間の集大成として、各自設定したテーマにもとづいて作品制作を行います。

入学~卒業までのステップ

4年間で学ぶことがら

1年間の学習ペース

【1年次入学】専門教育科目の1年間の履修スケジュール例

【3年次入学】専門教育科目の2年間の履修スケジュール例

学びの時間割

時間割

加藤さん(1年次入学)の単位修得例

1年目
24単位(T15/S9)
2〜3年目
63単位(T25/S14/WS24)
4〜5年目
38単位(T14/S10/WS8/GS6)
  • Tテキスト科目
  • Sスクーリング科目
  • WSwebスクーリング科目
  • GS藝術学舎科目

事前課題にじっくり取り組むため、シラバスをよく読み、不明な点は質問することを心がけるようになりました。(図:在学時の1日/平日)

加藤 陽子
加藤 陽子
群馬県在住
2020年度卒業

学費の目安

入学選考料 20,000円
入学金 30,000円
保険料 140円
授業料 327,000円 × 4年間 = 1,308,000円

卒業までの合計金額の目安(4年間)
1,646,140円~1,808,140円

入学選考料 20,000円
入学金 30,000円
保険料 140円
授業料 327,000円 × 2年間 = 654,000円

卒業までの合計金額の目安(2年間)
992,140円~1,064,140円

卒業後、通信制大学院 美術・工芸領域 工芸デザイン分野で
学びを深めることもできます。

大学、短期大学、専門学校等をすでに卒業している方は、京都芸術大学通信教育部(大学)染織コースに3年次編入学ができるため、最短2年間で専門分野の基礎を身に付けられます。大学入学から大学院修了まで、最短4年間で学ぶことができます。
また、通信教育部卒業生は大学院入学時に入学金10万円が免除されます。

  • 書類審査

    書類審査
    (大学等の卒業証明書など)

    最短2年

    3年次編入学の出願資格に
    該当しない方は最短4年(1年次入学)

    通信教育部
    染織コース

  • 書類審査

    書類審査
    (指定提出物など)

    最短2年

    大学院
    美術・工芸領域 工芸デザイン分野

  • 角帽

大学院 美術・工芸領域 工芸デザイン分野

教員メッセージ

久田多恵准教授

自分の可能性や社会につながる、
染織の糸をたどりませんか。

久田 多恵
HISADA Tae
准教授

愛知県出身。大学入学時より京都に移住。織を中心にニッティング、フェルティング、縫いなどの技法で繊維を素材とした作品制作発表を行う。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。2019年 The First Biennale of Natural Dyes(contemporary Art and DesignWorks)(中国国立シルク博物館)、2020年 久田多恵 織作品展 ギャラリーマロニエ(京都)、2021年 テキスタイルアート・ミニアチュール7-百花百宙(東京)、など数多くの展覧会に出品。

「sublimation」
絹/平織 H200×W580×D25cm 2009年
撮影:矢野誠

「sublimation」

このコースでは何を学べますか?
染織の可能性と自分の可能性。
染めることや織ることを通して自分の可能性を発見します。染織といっても壁に掛けるタピストリーから、コップの下に敷くコースター、衣服を彩る模様や色、絵画や彫刻のような自己表現までさまざまです。どのような染織をめざすか、いろいろな試みの中で見つけていきます。染織を通してまずは自分を知ること、次に自分の得意な方法で社会に発信することを考えます。授業では「染織の技術を基礎から丁寧に身につける」、「その技術を使ってどんなものを作るのかを考える」を両輪として学びます。染織は人間が生きていくための知恵の集積ですが、現代に生きる私たちは染織の技術がなくても困ることはありません。だからこそ「何のために何をつくるのか」考えることが大切です。
通信教育という点での配慮は?
自宅制作の基盤をつくる。
大学での対面授業のスクーリング科目と、自宅で取り組むテキスト科目をバランスよく組み合わせています。テキスト科目はもちろんのこと、スクーリング科目でも本学独自の学習用webサイト「airUマイページ」を活用し、動画教材の配信やweb上での課題提出等、対面授業に加え、より充実した授業を行なっています。2024年度はすべてのスクーリング科目でオンライン(遠隔授業)か対面授業かを選択できます。遠隔授業の方法に工夫をこらし、より受講しやすくしていきます。わからないことについての質問と回答は質問フォームやメールで随時対応しています。きめ細かい指導で作品制作と卒業までの履修をサポートします。パソコンが苦手な方も、練習会などのフォローがありますので安心してください。
どんな人に学んでもらいたいですか?
染織で社会と関わる人へ。
手で物を作る実感を得たい、知らなかった世界に踏み込みたい、美しい色やはっとする模様が好き、という人はぜひ入学を。卒業後は、染織を通して何らかのかたちで社会と関わっていってほしい。展覧会で発表するのも、実用品として売るのもいいと思います。卒業生の中にはギャラリーを開いた人もいます。教室を開く、テキスタイルデザイナーや研究者になるなど、夢は大きく持ってほしいですね。やってみて楽しいと思えることや没頭できることは、それだけで大きな才能です。ぜひ思い切って飛び込んでください。

髙橋実幸

髙橋 実幸
染織コース
'21年度卒業
東京都在住 35歳

子育て中

「あまり深く考えずに決めちゃって。でも、考え込んでいたら何もできないままだったかも」。本学に入学してから、転職、結婚、そして出産と、人生の転機をつづけさまに経験した髙橋さん。ちょうど着付け教室の受講が終わったところで、その代わりに、と軽い気持ちで飛び込んだという。「染織コースで、つくる側から着物に関わりたくて」。芸大に憧れたこともあったが、進路としては選べず、気づけば不向きな営業職に悩む日々。「入学して、もっとプライベートを大切にしたいという気持ちが強くなり、自分に合った事務職に転職したんです」。

時間にも気持ちにもゆとりが生まれ、「これで学びに集中できる」と思った矢先、こんどは結婚、妊娠で生活が激変。出産から半年で仕事に復帰したこともあり、「学びまではムリかも」と思いかけたとき、先生とZoomで面談する機会が。「家が手狭でテキスト課題を制作”できない“と相談したのに、”できるできる、やってみよう!“と即答されて」。その勢いに押され、言われるままリビングに板を敷き、おそるおそる布を染めてみたら、「あ、本当にできるもんだ、と」。「遠隔授業で、画面ごしにみんなと自宅制作したことも、支えになりました」。

こうして”家を作業場にする“用意は整ったものの、髙橋さんの場合、そこは育児の主戦場。作りかけた作品を蹴散らされ、締め切り前にぐずられ、「何をやってるんだろう」とため息をつく一方、新たな命に教えられたことも。「おくるみから子ども服へ。成長していく娘を見て、”ひとは布と生きる“という先生の言葉を実感しました」。卒業制作は、そんな娘との思い出を絵柄に染めたワンピース。「ミシンもほぼ初心者でしたが、大学ですっかり、悩む前にやってみるクセがつきました」とほほえむ髙橋さん。布とともに大きくなる娘とのくらしを彩りながら、自身もまた、新しい色へと変化していく。

井上待子

井上 待子
染織コース
'17年度卒業文芸コース
'14年度卒業

京都府在住 70歳

定年後

「”なにしてんの、まち子先生!“と大声で昔の教え子に呼びとめられちゃった。せっかくキャンパスでは経歴を隠していたのに」と苦笑する井上さん。高校の体育教員として担任や部活を受け持ち、ほぼ休みなしの37年間。「たいした趣味もないし、定年後は母の世話にあけくれよう」と思っていた矢先、その母が永眠。「これからは、好きにしていいよ」と言われた気がして、一念発起して本学の文芸コースへ。「そういえば若い頃、文学を学んでみたかったなと。最初は不安でしたけどね、クラスメイトが難しい本ばかり読んでいるので」。お堅い文章は最後まで性にあわなかったものの、気どらない語り口のエッセイが高く評価され、卒業研究では優秀賞に。「そこでいただいた自信や、尊敬する作家であり染織家の活躍に背中を押されて」新たに染織コースで、学生ライフを延長することになった。

「じつは七夕生まれで、”織姫“になるのが長年の夢だったんです」。織機の扱いは大体知っていたものの、下絵などの”絵を描く“作業は中学生以来。最初はまるで描けなかったのが、課題で日課のようにつづけるうち、少しずつかたちをつかめるようになったという。また、別の課題で感動したのが、身近な雑草から生まれる色の美しさ。「ちょうど卒業制作にさしかかったとき、かつて住んでいた団地が取り壊されると聞いて」父が植えてくれた笹で糸を染め、着物に仕立てようと決めた。

「笹の命を、家族の思い出を、色とかたちで残したいと思ったんです」。卒業後は小物ばかりつくっていたが、傘寿を迎える姉のため、こんどは自分ひとりの力だけで、着物を織りあげることに。「文芸コースの学びも組み合わせて、小説をモチーフにした着物づくりに挑戦してみます。いつか、手づくりのエッセイ本もつくってみたい」と、たくさんの予定を楽しそうに語ってくれた井上さん。文(ふみ)織姫の冒険は、これからもつづく。

新しい伝統×染織=

増田耕造

増田 耕造
染織コース(3年次編入学)
'19年度卒業 京都府在住54歳
増田耕造

台湾出身のクラスメイトが2名いたことから、新型コロナ拡大前は、台湾での卒業制作展を計画。「いつかなんとか実現できたら、と思います。あきらめたら終わりになってしまうので」。

染織フリーダム

「えっ、板や糸だけで、こんな柄を描けるの?」「タマネギから、こんなキレイな色が出るなんて」。とにかく最初はびっくりの連続だった増田さん。長年、手がけてきたグッズ商品の開発とは違う、伝統的なものづくりを学びたくて、未知の染織ワールドへ。「絞り染」や「天然染料」など、ひとつひとつの科目を学ぶごとに、その奥深さに引き込まれていった。「もちろん、もどかしい思いもたくさん味わいましたよ。つくりたい作品のイメージはあれこれ浮かんでくるのに、かたちにする技術が及ばなくて」。もともとマメな性格ではなかったが、少しでも納得できるものを、と取り組むうちに、めんどうな作業も自然と苦にならなくなったという。「とはいえ、何十年もつづけてきた人に技術でかなうわけがありません。だったらいっそ、他の人がやらないことをやってみたいと思ったんです」。

そもそも染織コースを選んだきっかけは、本学の卒業制作展を訪れて「こんな多彩な技法があるんだ」と感心したから。さらに、学友らに誘われて足を運んだ京都市内の展示会で、ある作家の言葉に背中を押された。「染織という枠にとらわれないで、好きなものをつくればいい」。ならば自分は、遠くおよばない昔の人を真似るより、いまの時代らしいモノをつくってみよう。そう考えた増田さんが選んだのは、「布象嵌」と呼ばれる、まだ先人の少ない技法。完成させた卒業制作は、見た目は明るく楽しいけれど、ひとつひとつ染めあげた布を200以上も貼りあわせた、地道な努力の結晶だ。「現役の頃はいいかげんに仕上げていた成果物。ずいぶん遅くなったけれど、今度こそ、自分の最大限の力を出し尽くせました」。多彩な色と形の布が描き出すのは、課題を考えながら歩いていた近所の通り。まるで、自由な染織を鼓舞する旗のように、増田さんのリビングに、心の中に、色鮮やかに翻っている。

いちからつくる×染織=

C.Y

C.Y
染織コース(1年次入学)
'18年度卒業 東京都在住47歳
C.Y

染織作品はネットの他、セレクトショップでも販売。「作品をつくりつづけるためにも、買ってもらえるとうれしいです。ロゴやHPづくりに本職が役立ちました」。
セレクトショップのサイト
https://somenaya.amebaownd.com/

ゼロからの染織

「まさか自分が、着物一反を織ることになるなんて」。華やかな広告の世界で、その裏側を支えるデザイン業務に忙殺されてきた山口さん。「つねに新しいものが求められ、世代交代も早い業界。そろそろ〝仕事以外の何か〞を見つけよう、と思ったんです」。どうせなら、新しいことを本格的にやってみたい。そんな気持ちから選んだ染織は、これまでの生き方とは、ほとんど正反対の世界だった。「とくに織物は、何ヵ月もかけてつくりあげていきます。きちんと織物を織りあげるということは、入念な準備や計算が必要なんです」。ずっとスピード感や斬新さを追いかけてきた自分に、こんな途方もない作業ができるだろうか。不安を感じる間もなく、課題をこなしていった。

山口さんのように、ほとんどの同級生は初心者だった。未知の課題にオロオロする学生たちを前に、先生がかける言葉は「まあ、やってみなさい」。仕方なく、どうすれば上手くいくか、あれこれ試す。何度も失敗する。そのことが、〝自分で考える〞という経験をもたらす。「手法を習うだけなら、街の教室でもいいかもしれません。その先生のやり方を習うことになりますが」。自由に挑み、自分なりの答えを見つけられるから、さらに先へと進める。「以前の私なら、途中で嫌になっていたかもしれません。少しずつ、根気がついてきたのだと思います」。織る布が長くなるとともに、気力も技術も伸び、ついに卒業制作では13mもの着尺を織りあげた。

輝く絹糸で描きたかったのは、奄美の離島から帰るプロペラ機の窓から見た、360度ピンク色の空。「藝術学舎で出会った草木染めで、思いがけない自然の美しさを表現したかった」。卒業したいまは、「草木染め」のワークショップや販売に力を入れつつ、「織」ではとことん作品づくりを追求したいという山口さん。たぐりよせる糸の先は、無限の可能性につながっている。

自分らしさ×染織=

長谷川眞由美

長谷川 眞由美
染織コース(1年次編入学)
'17年度卒業 京都府在住61歳
長谷川眞由美

現在は秋のグループ展に向けて新作を制作中。「とにかく孤独な作業なので、皆との発表をはげみにつくったり、他のひとの作品を通して、自分とは違うものの見方にふれることが、とてもいい刺激になります」。

美しき実験

「大学って、教わるところじゃないんだ」というのが最初の感想。若い頃からものづくりが好きで、陶芸や織物の教室に通ったものの、どこか中途半端な気がしていた。「ちょうど仕事も先のことを考える時期で… 何度も説明会に足を運び、2年迷って入学を決めました」。
「色彩や構成、デッサンなど、ものづくりの基礎を学びたかった」という長谷川さん。入学後は、あえて苦手なデッサンのスクーリングを数多く受けた。「何も分からず見よう見まねで。染織の授業も同じですが、これまで通ってきた教室と違い、コツや要領を教わる場じゃないんですよね」。不安な気持ちを抱えつつ、とにかく試しては失敗を重ねる。その中からひとつひとつ、自分らしい表現を見つけていく。「私の場合、具象より抽象の方が、気持ちが入りやすい」。ただし、たどり着くまでの道のりは容易ではなかった。
「じつは1年目に、もう卒業制作の原点とは出会っていたんです」。たまたま実習棟で見かけた、通学生の絞り染作品。強く心惹かれつつも、「絞り染は簡単すぎる」というベテラン学友の何気ないひとことが、素直な想いを曇らせた。ならばと写実や型染をがんばっても、空回りするばかり。「行き詰まっていたとき、構想デッサンの授業で抽象画を描いたら、驚くほど自由に筆が動いたんです」。思いきって、心の向くままに幾何学模様と絞り染めを組み合わせたところ、試作で納得できるものができた。「それからは、染料や絞り方などを変えては実験の連続」。大変だけど楽しかった、と顔をほころばせる長谷川さん。「あるときは夏と冬の水温差に気がつかず大失敗。だけど、その変化もヒントになりました」。教われないから、自分で悩んで考える。だからこそ他に染まらない、自分だけの色かたちをつかめる。『うつろう』と名づけた卒業制作が映すのは、色の変化、自身の変化。そんな変化を楽しむ実験は、これからもつづいていく。

悔いのない人生×染織=

加藤緑

加藤 緑
染織コース(3年次編入学)
'16年度卒業 岐阜県在住63歳
加藤緑

卒業制作が学内にある春秋座で開催された都をどりに合わせて展示。「思いがけず、一般の方にも見てもらえる喜びを感じられました。これからも、自分が楽しんでいる姿や制作物を通して、絞り染の楽しさを多くの人と共有していきたいですね」。

生命の色を求めて

「私、京都にいきます!」と家族の前で入学宣言をしたのは、東北での震災が起きた年のこと。「あっという間に命を奪われた多くの人々。それぞれにやりたいことがあったはず…と考えると、じっとしていられなくて」。染織のいろんな技法を学んでみたい、という秘めた想いを実現する決心をした。「初めての主張じゃないかな。ずっと家を守ることが役目だと思ってきたので」。

かくして大学生となった加藤さん、課題との悪戦苦闘の日々がはじまった。「絞り染は趣味でやっていたけれど、ろう染、型染、シルクスクリーンプリントなど、技法が違えばまるで別モノ。すべてがゼロからのスタートです」。スクーリングのたびに「事件」が発生したという。しかし、未知の学びへの苦難は、無上の達成感や発見の喜びにもつながる。「未経験のデッサンにも苦心しましたが、合評で先生から、私の性格まで読み解くようなご指摘をいただき、人の内面が形になるんだと実感しました」。

慣れない作業、思い通りにならない布や色に翻弄されつつも、ひとつひとつの学びに打ち込んだ加藤さん。卒業制作にいたり、ある色をテーマとして選んだ。それは、緑。自分に名づけられた色。「昔からキライだったんですよ。名前も、色も。でも入学して、レポートなどで美術書を幅広く読むようになり」。ある本で知った。ゲーテの色彩論では、黄が光、青が闇、その両方を合わせて生じる緑は、生命の色であると。「自然界のものでは出にくい色なんです。それをあえて黄と青を染め重ねて、緑をつくりだそうと」。完成した作品には反省点もあるけれど、緑の多彩さを知り、何よりも緑色が大好きになったという。「卒業後も日々、コツコツ、チクチクを合い言葉に、手を動かしています」。白い布に、一瞬にして模様があらわれる瞬間が好き。自分で染めた布や作品で、生活の色を変えるのが楽しい。加藤さんの手からあふれだす色は、見る人の心まで鮮やかに包みこんでいく。

作家志望×染織=

北岡悦子

北岡 悦子
染織コース(1年次入学)
'15年度卒業 大阪府在住40代
北岡悦子

「卒業生・修了生全国公募展には間に合いませんでしたが、卒業後の第一作が、駒ヶ根シルクミュージアムの「第9回現代手織物クラフト公募展」で奨励賞を受賞しました!」。

染織十色

北岡さんが卒業制作でつくった着物には、いろんな色が織り込まれている。「くちなし、茜、藍、えんじゅ。植物からこんな多彩な色が出るなんて、すごいですよね」。日本舞踊を習ったのが、着物への思いを深めたきっかけ。着付けや和裁を教わり、ついに〝糸から着物を織る〞原点をめざして本コースへ。「織る様子を間近で見て、こんなに忍耐強い作業ができるかな、と心配しました」。初めての体験に四苦八苦しながらも、自分の手から生まれる、形と色の面白さに魅了されていった。

「最初は、デザインなんて自分にはできない、と思っていたんですよ」。美術に深く関わったことがなく、絵を教わるのは学生時代以来。もちろんすぐには上達しないが、描いてみると、見慣れた花や野菜の思わぬ美しさに気づいた。また、天然染料の課題では、道ばたの草が出す鮮やかな色彩に感動。そうして見つけた形や色を、糸にのせて表現していく。「初めの頃にスクーリングで、先生に色の助言を求めたら、〝色決めは一番楽しいところなんだから、自分で決めなきゃ!〞と言われて。その通りだな、と今は思えますね」。

生来の凝り性も手伝って、気づけば予定より2年も長く在学。しかし、学んだすべてが制作の糧になるという。やがて迎えた卒業制作では、先生の厳しい指摘に落ち込みつつも奮起し、さまざまな色に染まる落日の海を完成。「達成感はあるけど、大変でした」と苦笑しながらも、すでに次作に取り組んでいる。「自宅作業は孤独な戦いだけど、失敗するたびに何かを学んで、強く、たくましくなれました」。表に出ない苦悩や悲しみ、喜びや感動まで、すべてが染みこんだ北岡さんの糸。その経糸と緯糸が織りなす色は、ときに予想をこえ、本人さえハッとする美しさを見せるという。「とにかく制作して、発表して、いつか人から依頼される作家になりたい」。北岡さんが布の上に織りあげた落日は、新たな夢へのあけぼのでもあった。

お稽古好き×染織=

大日方明美

大日方 明美
染織コース(1年次入学)
'14年度卒業 東京都在住 56歳
大日方明美

「せっかく社会人で学生という贅沢な身分になれたんだから、じっくり取り組みたい」と、在籍できる最長年数の9年かけて卒業。以後は大学院で、新たな技法や素材に挑戦中。

織り重ねる学び

ただの細い糸を、一本ずつ交互にくぐらせると、いつの間にか布になる。「そんな、積み重ねる感覚が好きなんです」と、織り機の前で微笑むのは大日方さん。しかし本学に来るまでは、染織の知識などまったくのゼロ。芸大は特別な人が行くもの、と思い込んでいた。「きっかけは、お茶のお稽古ですね。和装に気に入った着物がなくて、いっそ自分でつくってみようと」。

思いたったら吉日、と勢いよく入学。しかし初めての専門科目のスクーリングで、思わず手が止まった。「糸にも布にもふれず、スケッチブック片手に静物デッサンする授業だったんです。絵は高校以来でしたね」。じつは絵を描くのが苦手だった大日方さん。まずは鉛筆の持ち方から教わり、時間をかけて描き写すうち、少しずつ苦手意識が和らいでいった。「何より励まされたのは、先生からの言葉です。 〝ちゃんと見て、丁寧に取り組んでいますね〞というテキスト課題の添削が返ってくると、〝ああ、下手でもわかってもらえるんだ〞と嬉しくなって。次のやる気につながりました」。

初心者ならではの不安を受けとめてくれたのは、先生の言葉だけではない。カリキュラムの巧みさにも感心した。「2年次までは、自宅に織り機がなくても、簡単に用意できる棒や木枠だけで織れる課題になっているんです。その間に、基本的な仕組みをしっかり学べました」。少しずつ織り方や道具の種類を覚え、自分に合うものを見つけることで、自宅制作の場が整っていく。技術もまた同じだという。「最初のうちは、どうなるかと思っていましたが」。いきなり完成形をめざすのではなく、できることからやっていくうちに、自分でも思いがけない大作の下図を描け、作品に仕上げることができた。

「とはいえ、まだまだ勉強中です。知れ ば知るほど、未知の世界にふれ、また知 りたくなるのが染織ですから」と、目を 輝かせる大日方さん。ひとつ学びを重ねる たびに、その手は新しい答えをつかむ。糸から織りあげる布のように。

卒業生の声
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