PHOTO

PHOTO

芸術学コース

  • HOME
  • 芸術学コース 記事一覧
  • 【芸術学コース】「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」(東京国立近代美術館にて)を観て思うこと

2026年01月26日

【芸術学コース】「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」(東京国立近代美術館にて)を観て思うこと

みなさん、こんにちは。業務担当非常勤講師の松田佳子です。
このブログが掲載される頃は、お正月休みと1月の連休も過ぎ、日常生活のリズムを取り戻してこられる時期かと思いますが、いかがお過ごしですか。
私は、咋年末東京国立近代美術館で開催されている「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」を観てきましたので、感じたことをご紹介しようと思います。

「アンチ・アクション」とは聞きなれない言葉ですが、近代美術、フェミニズム美術、ジェンダー理論を専門としている中嶋泉氏が著書『アンチ・アクション 日本戦後絵画と女性の画家』(ブリュッケ、2019年)を著す際、「日本では男性の美術家を中心に語られてきた「アンフォルメル絵画」や「アクション・ペインティング」に対し、女性の美術家たちの反応や応答、異なる制作による挑戦を論じるために」(参考文献2. P8)考案された用語です。

戦後間もない日本美術界の中で、アンフォルメルは大きなムーブメントとなりました。
田中敦子や福島秀子らがその提唱者のミシェル・タピエに評価されたことをきっかけとして、女性の美術家の存在に注目が集まるようになりました。
それまでは男性の美術家優位であったところ、多くの男性の美術評論家から積極的に女性の美術家が語られ、また支援される環境にありました。

ところが、時代の潮流はアンフォルメルから、制作中の「行為」を重要視するアクション・ペインティングへと遷っていきます。
アクション・ペインティングでは、絵具を投げつけたり、絵具まみれになった裸体で描いたりする男性的なパワーが賞賛され、あれほど注目を浴びていた女性の美術家は美術史の周縁に置かれ、そのうちの何人かは語られなくなりました。

そんな時代に女性の美術家たちはどのように、この時代と対峙していたのか、この展覧会では、赤穴桂子、芥川(間所)紗織、榎本和子、江見絹子、草間彌生、白髪富士子、多田美波、田中敦子、田中田鶴子、田部光子、福島秀子、宮脇愛子、毛利眞美、山崎つる子の14人の作家を通して語られています。

福島秀子、《作品109》、1959年、高松市美術館



福島秀子(1927-1997)の作品の多くには、黒い輪が表されています。これは空缶などの縁を利用して捺されているそうです。上の作品では、無彩色の色面と印象的に広げられた赤の色面の対比、それぞれの筆致や絵具の垂れ、擦れの動きに心が掻き乱されそうになります。その中でたくさんの捺された黒い輪たちは、上から見た人の頭のようにも、何かの果実や種のようにも見えてきます。たくさんの輪は色の動きに呑まれて消え入りそうなものや、またその存在を留まるように抵抗しているかのようなものもあります。

 

毛利眞美、《裸婦(B)》、1957年、東京国立近代美術館蔵



毛利眞美(1926-2022)は、女性の内面を表現した作家です。この作品は女性の肉体をとても単純化した形にしながらも、たっぷりと含まれた絵具が女性の匂い立つような肉感性を感じさせます。そして背景の赤色が一色でありながらも複雑に刻まれた筆跡に、女性が置かれている環境が不穏であるようにさえ思えます。

 

多田美波 展示風景



多田美波(1924-2014)は、これらのようなアルミニウムの作品を多く制作しました。1950年後半から高度経済成長期に入って、工業が人々の生活の中に根ざしたものとなり、金属の美しさに多田も魅了されたのでしょうか。アルミニウムという無機的な素材でありながらも有機的な色や柔らかさを表現するために、作家はこの巨大な金属の塊とどのように格闘したのでしょうか。

 

田中敦子、《地獄門》、1965-69年、国立国際美術館蔵



田中敦子(1932-2005)の絵画の特徴は、円と線で構成されているところです。初期の作品《電気服》で使われた回線や電球から、この円と線で構成する絵画の着想が広がったともいわれています。線は糸のようで、円から発しているようにも、円に絡み合っているようにも見えます。私は円の糸車に絡み取られまいと糸が抵抗して収拾つかなってしまった、そんなとんでもなく混乱した状況を感じ取りました。この作品は縦が3mを超える大作ですが、このように巨大な画面からは作家のとてつもないエネルギーが表現されています。

 

白髪富士子、《白い板》、1955/1985年、兵庫県立美術館(山村コレクション)蔵



白髪富士子(1928-2015)は、アクション・ペインティングを語る上で欠かせない作家・白髪一雄の妻です。一雄の証言によると、全長10mほどの大きな板(出展作品は再制作で、当時よりも縮小されている)に格闘している姿を見かねた父の手助けを彼女は断り、どんなに時間がかかっても自分でやり通すことに意義を見出したそうです。非力な女性が大きな板に挑み、せっかくノコギリで綺麗に切り終えたその板を、わざと不規則な形に割った作品が上のものです。その割れ目が展示室の照明を浴びて、くっきりと光の筋となって現れた様子が印象的でした。

この展覧会の中で表出されている彼女たちの作品は、どれもが個性に満ちていました。
作品の大きさや筆致、手法などという痕跡の中に、制作中の力強い「行為」のパワーを感じ取ることができるものばかりでした。
アクション・ペインティングという男性性に見出される強靭な表現が脚光を浴びていた時代にあって、女性の美術家の表現はその対極にあるのではという認識は違っていたのだと感じました。
また本展では、女性の美術家を語る上で触れられがちな出産や家庭での苦労は敢えて言及しない姿勢が見受けられました。
それは確かにフェミニズム研究でも指摘される論点ではあります。
しかし男性の美術家もプライベートな出来事は当然作品にも反映され、作家や作品研究の中で、家族関係なども重要なファクターとして論じます。
女性であること、それにまつわる出来事や悩み、それは「女性だから」とクローズアップされるのではなく、また敢えて触れないということでもなく、ひとりの作家やひとつの作品を形成するひとつのファクターとして正しく注目されると良いのではと思いました。

この展覧会は、豊田市美術館(2025104日〜1130日)、東京国立近代美術館(20251216日〜202628日)、兵庫県立美術館(2026228日〜56日)の巡回展となっています。

※画像は、展覧会場にてすべて筆者撮影

 

参考文献
1.中嶋泉、『増補改訂 アンチ・アクション 日本戦後絵画と女性の画家』、筑摩書房、2025
2.豊田市美術館、東京国立近代美術館、兵庫県立美術館編『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』、青幻舎、2025
3.中嶋泉・成相肇・千葉真智子・江上ゆか、「別冊アンチ・アンチアクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦 114」(展覧会場配布資料)、東京国立近代美術館、2025
4.新畑(金澤) 清恵「福島秀子の批評とその作品スタンピングを手掛かりとして」、『2023年度 東京都現代美術館年報研究紀要 第26号』、公益財団法人 東京都歴史文化財団 東京都現代美術館、2023
5.TOKYO ART BEAT「いま、女性の美術家たちの表現を見直す意味とは? 「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」を企画した3館のキュレーターが語り合う」https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/antiaction-interview-2025102025110日アクセス)

 

芸術学コース|学科・コース紹介

大学パンフレット資料請求はこちらから

この記事をシェアする