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2026年02月19日
【芸術学コース】どう語ろうか、小村雪岱の仕事

小村雪岱「雪の朝」木版多色刷、1941年頃[*没後の刷り]、埼玉県立近代美術館蔵
現在、「密やかな美 小村雪岱のすべて」展が大阪のあべのハルカス美術館で開催されています(〜2026年3月1日)。
実は隠れファンが多いという「小村雪岱(こむら せったい)」の名を知ったのは比較的最近のことです。
2019〜21年に岐阜県現代陶芸美術館や東京の三井記念美術館等を巡回した「小村雪岱スタイル」展(以下、「スタイル」展と略)がきっかけでした。その時はあいにく直接鑑賞する時間が取れなかったため、図録のみ購入し、図版を眺めては気にかけていました。
2000年代に入って以降、その画業に対する再評価の機運が高まり、出版物の刊行や小規模な企画展は時折開かれていたようですが、本格的には、先の「スタイル」展に続き、今回が最も大規模な展覧会といえるでしょう。しかも大阪では初開催(!)ということで、前期展示の期間中に訪ねました。

2つの展覧会図録:『小村雪岱スタイル 江戸の粋から東京モダンへ』(2021年)、『密やかな美 小村雪岱のすべて』(2025年)
会場に入ってまず驚いたのは、手に取った出品リストの長さでした。「スタイル」展では、関連作品や、その作風に影響を受けた明治期の工芸や現代作家の作品を除くと、本人の作品は125点ほどでしたが、今回は下絵や細かな資料を含め、総数約700点。企画意図に「雪岱の全貌に迫る」とあるとおり、小村雪岱の仕事総ざらいといった印象です。図録も特筆もので、最新の論文はもちろん、現在に至るまでの関連文献目録もほぼ網羅されています。さあ、準備は整った、あとは思うがままに研究せよ、という声が聞こえてくるような充実ぶりです。
大正から昭和初期にかけて活躍した小村雪岱(1887−1940)の仕事は、肉筆・版画に始まり、書籍の装幀や挿絵、広告の意匠、舞台美術、映画の美術考証、髪型・着物・プロダクト(香水瓶など)のデザインまで幅広いメディア・領域にわたっていて、関心のある人にとって研究の切り口は無尽蔵と言えそうです。

小村雪岱「天神記」舞台装置原画、紙本着色、1937年1月、弥生美術館蔵

小村雪岱画、わかもと京団扇「新月」(右)と「そよ風」(左)木版、1939年、川越市立美術館蔵
たとえば、今回の展覧会と同様に、雪岱の画業を、書籍の装幀や挿絵で長年コンビを組んだ泉鏡花や邦枝完二ら小説家や編集者、あるいは親しい同業者であった松岡映丘や鏑木清方などとのつながりから再考することもできるでしょう。また、当時としては新しかった商業美術家・意匠家としての在り方を、印刷・出版史や、1920〜30年代の大衆文化、国内外の美術・デザインの潮流と絡めて論じるのもおもしろいと思います。

小村雪岱「おせん」木版、1941年頃[*没後の刷り]、埼玉県立近代美術館蔵
同時代にやはり装幀や挿絵、意匠(デザイン)で活躍した竹久夢二をはじめ、村山知義、柳瀬正夢、杉浦非水、恩地孝四郎、山名文夫等に比べると、取り上げられる機会の少なかった雪岱ですが、さらなる研究の広がりが予想され、美術史のテキストに名前が刻まれる日もそう遠くなさそうです。各作品を深く掘り下げるもよし、理屈抜きにただ味わうもよし。いずれにしろ、従来の“昭和の春信”といった常套句は一旦忘れて楽しみましょう。
「密やかな美 小村雪岱のすべて」展 今後の開催予定
開催中−2026年3月31日(日) あべのハルカス美術館
4月11日(土)−6月7日(日) 千葉市美術館
7月11日(土)−9月23日(水・祝) 埼玉県立近代美術館
写真は二番目を除き、すべて筆者が会場にて撮影
【参考】
西山純子ほか編『密やかな美 小村雪岱のすべて』毎日新聞社、2025年
原田治ほか編『意匠の天才 小村雪岱』新潮社、2016年
広瀬麻美編『小村雪岱スタイル 江戸の粋から東京モダンへ』浅野研究所、2021年
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