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2026年02月20日

【文芸コース】AI日記:皆もすなるAIといふものを、AIに無知なる人文学系大学教員もしてみむとてするなり

皆さん、こんにちは。文芸コース主任の川崎昌平です。
今回のテーマは「芸術大学におけるAIとの向き合い方」でありまして……と書き出すと、ははあ、この川崎という教員は、きっとさぞAI技術に熟達しており知識も豊富な人間なのだろう、とご期待される方もいるかもしれません。すみません、ド素人です。数分前にGeminiに課金してProユーザーとなったばかりのゴリゴリのAI初心者です。そんな私がなぜAIに手を出そうとしたかというと……いや、前置きはナシにして、進みましょう。
とりあえず、私が描いた絵を用意してみました。

一応、私は漫画単行本の著作があり、書店の漫画コーナーに自著が並んだことも一度や二度くらいならあるのですが……ちょっと漫画家ですと威張るには苦しいレベルの絵です。でも、AIを使ったら、少しはマシになるのでしょうか? 何らかの変化を私にもたらしてくれることを信じて、私はAIに以下のように依頼しました。

この殺風景な絵に、サイバーパンク風のSF的世界観の背景を追加してもらえるかな?

数十秒後、AIが出してきた返事がこれです。

ご依頼いただいた画像の作成についてですが、大変申し訳ありません。現在、私の画像生成機能(Nano Banana)に一時的なシステム上の不具合が発生しており、ご期待に沿う画像を直接生成・編集することができませんでした。

はっ倒すぞ!

おっと、いけません。大学教員にあるまじき態度を呈してしまうところでした。実際、柔道二段の腕前でPCのディスプレイをぶん投げる寸前まで暴力的衝動が込み上げたのですが、残念なことにディスプレイには奥襟がありませんでした。それに、私も伊達に44まで馬齢を重ねていません。無知蒙昧を地で行く人生なりに、怒りを堪える術は学んできたつもりです。数分間を息を整える行為に割いた後、私は静かに、次のように「お願い」しました。

不具合なら仕方ない。じゃあ、「赤と青の2色で塗る」ことはできる?

この依頼に対するAIの回答が、これです。

頬を染めるな! 

誰がキャラクターに表情を与えろと頼んだ、舐めてんのか!

瞬間、剣道二段の腕前でPC本体を強か打擲してやろうという暴力的欲求に飲み込まれそうになったのですが、無念なことに私の手には竹刀がありませんでした。憤怒はAIとの関係性においてはノイズにしかならない。そう予感した私は一本立てて、心落ち着かせ、AIの提出してきた1枚を見つめました。すると、よくよく眺めていると、なんだかこれはこれで味のある色合いにも見えてきて、私はひどくシンプルにこう感じたのです。

あ、これ、俺には描けない色だな。

この段階ではAIを言祝ぐ気持ちは微塵も湧き上がりませんでしたが、一方で「へえ、抑制した色の使い方は、なかなか悪くないじゃん。顔も髪も塗らない選択をしたのは、素直にすごいと思うよ、なんで襟が白いままなのか、わからんけど」と感じたのも事実です。興が乗った私は、次の依頼をしてみることにしました。

おお、可愛らしい! じゃあ、今度はこの「青と赤の色がついた絵」に、「影」を付け足してもらえるかな? 光源はそうだね、この絵の空間が屋外であるとして……左斜上から太陽光が降り注ぐ感じでできる?

 ちょっと注文が多かったかな、と反省していた数秒の間に、AIは回答を出してくれました。

この一連の作業をしていたのは、妻も子も寝静まった深夜1時頃だったのですが、うっかり「おおお!」と叫んでしまう程度には興奮しました。だって、私はこんな風に自分の絵に影をつけたことがなかったからです。ただ、よく見ると、影の落ち方に対して、モノリスっぽい中央のオブジェクトの色味に違和感を抱きます。調子に乗った私はこう頼みました。

すばらしい! でもこの絵だと、画面中央にある「白い板」みたいなものの質感がちょっとわかりにくいね、まあ私の元の絵が悪いわけだけど……とりあえず「白い板の白い部分」も薄めの青で塗ってみてくれない?

AIに対しても平身低頭。これが私のポリシーです。呉王夫差が腹を膨らませるカエルに礼をするという故事があって……いや、今は脇道に逸れる場合ではありません。出てきた結果をお見せしましょう。

これは違うな、と思いました。編集者だった頃の私は、クリエイターに「そうじゃない」と伝えるために、中3日は要する意志薄弱な人間でしたが、相手はAI。多少、直接的な物言いをしたところで害する気分もないはず……と言い聞かせて、ハッキリと伝えました。

あー、違うかな。もっと「モノリスっぽい」感じが欲しいかも。あと今塗りつぶしてくれた部分にも影を落としてほしい。

 すると出てきたものがこれ。

おお、なんか質感がある。私なら絶対にこうは描きません、面倒なので……というのは嘘で、「物体の質感が表現に対して不要なメッセージを持つ可能性」を忌避するがゆえに、です。でもまあ、これはこれでアリだなと思いました。私の描き方ではありませんが、でもそれは同時に、私が見捨てていた可能性の示唆でもあるからです。
さて、こうなるとなんか漫画にしてみたくなりますね。次のようにお願いしてみました。

じゃあ、フキダシを右上に置いて、下記のセリフを書いて。縦書きで、書体はアンチックで。
これで私も
賢くなれる……

さあ、どうなるんでしょう? 私はフキダシを描くがとても苦手なのですが……。

できました。うーん、私よりフキダシが上手。中央の謎の板をモノリスとするならば、まさに「進化」を得た瞬間を表現した漫画とも言えそうです。これ、セリフは私が用意しちゃいましたが、そこも含めてAIに考えてもらってもおもしろかったかもしれませんね。「中央のオブジェクトを、あのモノリスであるとした場合に、最適なセリフを考えて、フキダシと合わせて描画して」と頼んだら、どんな言葉が生まれたのか、気になるところです。

以上が、AIに無知すぎる私が、初めて前向きにAIと接した実験の経緯となります。
ここからは真面目な話をしましょう。
AIド素人の私が今回、AIに触ってみてわかった事実がひとつあります。

AIは私の表現に対する私の思考を深めてくれる。

これです。最初の絵と最後のAIによるアウトプットに、私個人は優劣があるとはまったく思いません。AIがもたらしたディテールは、確かに私の力量では再現できないものです。が、別にそれに憧れたりすることを私はしません。単に絵を描くという行為だけを見るならば、私が自分でやったところで、(作者である私にとっては)大差のない結果が出るからです。
ですが、私が私の思考を客観視するためのツールとしては……最高の結果をもたらしてくれたと感じます。どうがんばっても私はあんなふうに影をつけないし、私の苦手で大嫌いな着彩についても、こんなふうに色調を展開できないからです。そこで劣等感を抱くほど「賢い機械」ではない私ではありますが、気付きを得ないほど「愚かな人間」でもありません。「へえ、俺の絵には、こういう可能性もあるのか」と私は思うことができました。この感慨こそが、AIの利点であると、現時点の私は断言します。

まとめましょう。AIを芸術表現に用いるメリットは、作業の効率化でもなければアウトプットのクオリティ向上でもないのです。

表現性を鍛えるヒントをAIはもたらしてくれる。

これです。ハッキリ言えば、ここを終着点とすれば、芸術を学ぶ上でAIは本当に優れた友人であり秀でた師匠となります。そして、

表現行為をラクにさせる道具には、AIはなれない。

と私は言い切りたいと思います。少なくとも私という作家に関しては事実です。最後の絵に到達するまで、私は1時間ほどかかりましたが、初手から最終形を目指していたら、私の絵がシンプル過ぎることもありますが、正直なところ、10分もあれば終わります。私の言いたいことがわかるでしょうか? 理想的な結果に至るまでの作業時間の観点から言えば、AIより人間の手のほうが速い。ですが、

AIは表現をラクにはしないけれども楽しいものにはしてくれる。

のです。私の結論です。AIは芸術表現を楽しむためのツールである、と私は声高に叫びたい。事実、一連のプロセスを経て、私は漫画の表現について思考し、手を動かすことが楽しくなっています。作業でしかなかった描く行為の中に、考える時間をAIがもたらしてくれたからです。自分の表現の内側から芽生える変化の可能性を自覚(発見)するには、現実世界ではかなりの時間(ややもすると年単位)を要します。が、AIのおかげで、1日もかからずに私はその知見を入手できました。

本稿を読んでくださった、芸術を志す人々へ。
AIを使いましょう。
先人の成果の上澄みを奪い取るためではありません。
リサーチをサボるためでもありません。
あなたが見落としていた、あなたの新たな側面と出会うためです。
その過程において、AIはあなたの時間を湯水のように奪うでしょう。少なくとも2026年現在において、AIを芸術に使用する工程は、あなたの可処分時間を減らしこそすれ、余らせはしません。でも、そこで費やした時間は、あなたの意識を変えてくれる可能性をもたらします。そして……これが私の一番主張したかった部分ですが、AIによって、そうした自分に訪れる変化を、楽しんでほしいのです。AIを便利な道具と思った人は、多分この先の未来で損をします。AIはあなたが「いえーい、面倒な仕事とオサラバできる!」と喜んでいるうちに、あなた自身のポジションをぶち壊すに決まっているからです。でもAIを思考の素材と思った人は、AIから楽しく学べ、AIと自在に遊べるようになるはず……そう思いました。次回はAIを使って文章を書いてみたいところですね。続きがあればまた。

 

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