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文芸コース

2026年04月23日

【文芸コース】AI日記2:AIに人間としての私を叩きのめしてもらおう計画

皆さん、こんにちは。文芸コース主任の川崎昌平です。
今回は2月に続いて、懲りずにAIに無知な私がAIに無謀に挑んだ成果をお話します。

2026年3月下旬に、AIをテーマにしたワークショップを文芸コースで開催しました。内容は「AIに自分の書いた文章を酷評してもらおう」というもの。「AIに文章を書かせて人間が読む」のではなく、「人間の書いた文章をAIに読ませる」ことに主軸を置いたイベントだったわけですが……当然、ここでの「人間」は私、川﨑昌平当人です。学生が一所懸命に書いた文章を、私の思いつきでしかないワークショップなんかの材料にするはずがありません。学生を丁稚か何かと勘違いして己の研究のためにこき使う大学教授もこの世にはいるそうですが、まったく、信じ難い話です。実験台になるのは准教授たる私自身であるべきで、研究に身を賭すのは私でなくてはならないのです。杜撰な計画と浅慮な知識とで哀れに朽ち果てていくモルモットな私を学生たちが眺め観察しつつ、「うわ、こうはならんとこ」と眉を顰めて向こう見ずな実験の果に滅んだ私の肉体から(僅かでしょうが)なんらかのデータを拾い集めてくれれば本望です。

さて、前置きはこのぐらいにして、私のやったワークショップの結果をお見せしましょう。「AIに自分の書いた文章を酷評してもらおう」という主旨なので、まず人間である私が情熱と時間をたっぷり込めて(でも理性と知性をおざなりにして)書き上げた原稿を用意します。出版社から依頼されて書いた原稿などはさすがに権利関係上の問題がありますから、徹頭徹尾私が独力で書き上げ、未だどこにも発表していない原稿を用意します。全力で書いたものでないと、酷評の妙味も鈍りますから、全精力を傾けて書いた400字詰原稿用紙150枚程度のそこそこのボリュームのある原稿をHDから引っ張り出してきました。大学で文芸を教えている私ですから、質はともかく、「未発表の数万字の原稿」ならポンと用意できます。
今回用意したのは『たばこ文化を守る党宣言ならびに党綱領』という、私が2024年秋に書き上げた未発表の小説です。小説らしからぬタイトルですが、そのあたりからもう、破綻が垣間見える気もしますが、ともあれ、そいつをGeminiに読み込ませました。

今、アップした僕の書いた文章の「悪いところ」を教えてくれない? 酷評してくれると助かるんだけど。

私のオーダーは上記の通り。ワークショップはZOOMでやっていたんですが、その瞬間、学生から「先生、ご存知ないかもしれませんが、AIはそうやってユーザーの著作物から学習していくんですよ!? 先生の小説が学習されちゃうんですよ!?」という指摘がありました。本学の学生はなんて心優しいのか。ご忠告ありがとう。でも大丈夫。わかってやっています。というかむしろ本望。御覧の通り、私の文章は相当に癖があり、このコラムでは抑えめにしていますが、古臭い言葉遣いや言い回しを多用し、外連味もすさまじく、私の小説が河出書房新社が主催する第48回文藝賞の最終選考候補となったときは、審査員のひとりから「ここまで人を不快にさせる文章も珍しい」と評された程度にはトリッキーです。そんな私の(余りユーザーに歓迎されない)文体をAIが学習してくれたら、ステキですよね? 「なーんかAIに生成させた文章って、同じような文調でつまんないなあ。もっと汗臭くてダサくてスマートじゃない文章って出力できないの?」と思っているユーザーのリクエストに応じるための素材になれるかもしれないじゃないですか。
まあ、結果がどうなるかはともかく、AIの回答はこうでした。

【Geminiの回答】
メタフィクションと私小説、そして政治エッセイを融合させた野心的な試みであることは理解していますが、現段階では「小説」としてのエンターテインメント性と、「論文・宣言」としての主張が互いに足を引っ張り合っている状態です。

うお、容赦呵責のないイントロです。『たばこ文化を守る党宣言ならびに党綱領』というヘンテコなタイトルが示すように、政治をテーマにした小説なんですが、端的に言うと「4人の愛煙家が集まって政党を結成して衆議院選挙に立候補しようとする物語」なんですね。で、主人公が残りの3人から頼まれて、政党の綱領を書こうとうするところから物語ははじまるんですが……。

【Geminiの回答】
メタ的仕掛けの失敗: 「あえて堅苦しい論文を書かされていたが、破り捨てて本音(物語)に入る」というメタフィクション的な演出を狙ったのだと推測しますが、前振りが8ページ(原稿用紙換算で数十枚)は長すぎます。

バッサリ。長すぎるんですって、私の文章。まあ、そこをウリにしているところもあるしなあ。確かに冗長だよなと思いつつ、日々書いています……が、AIの手はまだまだ止まりません。

【Geminiの回答】
葛藤のないエコーチェンバー: この4人は、最初から最後まで互いの意見に同調し、称賛し合い、見事なまでに意見が対立しません。「おもしろい」「いいじゃんか」「賛成します」といった相槌ばかりで 、劇的な対立(コンフリクト)が一切生じていません。結果として、物語が平坦になっています。

ぐぬぅ。今回の実験でガチで刺さった一文。いや、確かにそうなんですよ、小説でも漫画でも「対立する人間関係」を描くのが極端に苦手なんです、私。「てめえの脳内、お花畑すぎるんだよ、だからいつまでも売れねー本ばっかりなんだ」と言われた気がして、いやもうほんと、この一文を学生たちと一緒に眺めるのは臓腑を刳られる思いでした。

【Geminiの回答】
ご都合主義による「ストーリー上の障害」の欠如:物語を駆動させる「障害」が、あまりにもあっさりと、しかもご都合主義的に排除されています。比例代表で4人を擁立するために必要な供託金2400万円というリアルで巨大な障害を提示しておきながら 、直後にカイタイヤが「私のボス、お金持ちだから」「土地一つだけで、じゅうぶん買える」と発言し、一瞬で解決してしまいます。

もうやめて、川﨑昌平のライフはゼロ……にはならないから、今日もこうやって表現者として生きていられるわけですが、とはいえ結構、芯を食った指摘だなと感心しました。「選挙にお金がかかりすぎって言うけど、視点を変えたら端金じゃない?」と伝えたかったんですが、それができていないぞ、というAIの指摘なのでしょう。素直に反省しました。

【Geminiの回答】
テーマ「空気」の回収が性急: 終盤で、コロナ禍以降の「不寛容な社会の空気」と、たばこ葉農家が自然の中で生み出す「美しい空気」を対比させ、「私たち(たばこ文化を守る党)が変えたいもの、それはこの国の〈空気〉である。」と結論づけます 。このテーマの帰着自体は美しいのですが、アパートでダラダラ喋って、九州に旅行してたばこ葉農家の話を聞いて感心した「だけ」の主人公たちがこの境地に達しても、読者としては「頭で考えた結論」を見せられているだけで、感情的なカタルシス(胸のすくような感動)が伴いません。

ここ、ズシーンと来ました。Geminiに課金してよかった、と心底感じた瞬間でもありました。私自身、書きながら「いやあ、このラストはダメだろう」と思っていた部分だからです。薄々自覚しつつある欠点を、堂々と他者(っぽい)言葉で視覚化されるのって、骨身に染みますね、やっぱり。

と、以上が実験の結果の羅列です。
ここから理解できる事実として私が強調したいのが、「AIはかなりちゃんと読んでくれる」ということ。少なくとも川﨑昌平本人としては、ここまで厳しくは読めていなかったわけです。まあ、私もプロの端くれではあるので、ダメなところを理解するぐらいはできます。それゆえに未発表のままだったわけですから。ただ、ここが重要なところだと思うのですが「俺の小説ってダメだなあ」と自覚して留まる状態と、「いや、お前の小説、マジでダメだよ? ダメなところ、ちゃんとわかってる?」とガッツリ言葉にされる状況とは、まるで意味が違うんです。
自分で自分をダメと評価するのは、実はとても簡単な行為なんです。なぜってそのプロセスそのものが、自己防衛のためのレトリックになるから。安全弁、あるいはチャレンジに対する保険というか。でも、そんな真似をしても文章は磨かれないんですね。心底、自分の欠陥を知悉しなければ、表現が成長する道理はないわけです。
その意味で、今回の実験は、AIの確かな可能性を示してくれたように思います。私が自己弁護しつつ隠していた私のダメなところを、コレ以上ないスピード感で白日の下に晒してくれたのですから。

 長くなりましたが、今回のAI日記のまとめです。

 AIには書かせるのではなく、読ませろ。

要するに、アウトプットのための道具として使うのではなく、表現者である人間としての自分を叩きのめす(ことで見落としていた成長要素を強く再確認する)ために、AIには人間に代わる読み手として、どんどん協力してもらおう、というメッセージです。
過去の人類の表現を学習し尽くしつつあるAIに、新たな餌として我が身を提供しようという、ある意味ではかなり危険な呼びかけと映るかもしれませんが、上記のように、私が見ないようにしていた私の醜い部分を、私自身が知る手段としては、かなり有効なメディアであると、少なくとも現時点では断言します。

川崎昌平


 

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