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2026年07月06日
【建築デザインコース】熊本地震震災ミュージアム KIOKUを訪れて ― 創造的復興を考える「道」としての建築
建築デザインコース業務担当非常勤の池田美月です。
前回の家入先生のブログに続くかたちになりますが、偶然にも私も先日、熊本を訪れる機会がありました。今回は私が訪れた熊本地震震災ミュージアム KIOKUについてご紹介したいと思います。
2016年4月に発生した熊本地震の直後、熊本県は「被災者の痛みを最小化すること」「元の姿に戻すだけではない創造的な復興を目指すこと」「復旧・復興を熊本のさらなる発展につなげること」という「復旧・復興の3原則」を掲げました。
そのなかでも特に印象的なのが、「元の姿に戻すだけではない創造的な復興を目指すこと」という考え方です。災害からの復興というと、失われたものを元通りに戻すことをイメージしがちですが、熊本では震災の経験を未来の価値へとつなげ、より良い地域や社会をつくることが目指されています。
今回訪れた熊本地震震災ミュージアム KIOKU は、「創造的復興」を考えるうえで、とても示唆的な場所でした。

阿蘇の山並みに呼応するような屋根の形
熊本地震震災ミュージアム KIOKUは、建築家ユニットo+hによって設計されました。建物は阿蘇の風景に静かに寄り添い、過度な記念碑性を持ちません。阿蘇の山並みに呼応するようにゆるやかにうねる屋根の下で、光や風、周囲の景色を取り込みながら、来館者がそれぞれの距離感で震災の記憶と向き合うための場がつくられています。
印象的だったのは、KIOKUの建築がそれ自体で完結した展示施設ではないことです。
建物の奥には、震災遺構である旧東海大学阿蘇キャンパス1号館と地表地震断層が残されています。実際に遺構を目の前にすると、その被害の大きさや地震のエネルギーに圧倒されます。

KIOKUを出て奥に進むと見えてくる旧東海大学阿蘇キャンパス1号館

震災遺構として、地震によって受けたダメージがそのまま保存された建物
KIOKUは、その強い体験へ来館者を直接導くのではなく、阿蘇の美しい自然の中をゆっくりと歩きながら、それぞれが震災について考え、自分なりに受け止めるための場になっているように感じられました。

震災遺構へと続く「道」のような建築
この場所を訪れる目的のひとつに、ONE PIECEのニコ・ロビン像があるという方も多いのかもしれません。私が訪れた日も、多くの方がロビン像の前で写真を撮っていました。
歴史を読み解き、失われたものを未来へ伝える役割を担う考古学者であるロビンが、この場所に立っていることにも象徴的な意味を感じました。

熊本県出身の漫画家・尾田栄一郎さんによる「ONE PIECE 熊本復興プロジェクト」の一環として設置されたニコ・ロビン像
私が訪れた際には、実際に熊本地震を経験された地域の方々がスタッフとして展示の案内をされていました。当時の状況や避難生活のこと、その後の地域の変化について、一つひとつ丁寧にお話ししてくださり、展示を見るだけでは得られない多くのことを教えていただきました。
パネルや映像から震災を学ぶことはできますが、実際にその場を経験した方の言葉には、それだけでは伝わらない重みがあります。震災を「出来事」として知るのではなく、一人ひとりの経験として受け止めることのできる、とても貴重な場所でした。
建築や展示は、記憶を保存するための器になることはできます。しかし、その記憶を本当の意味で未来へつないでいくのは、そこで語り継ぐ人々の存在なのかもしれません。

阿蘇の風景の中に静かに佇むKIOKU。震災の記憶と向き合い、未来について考える時間が、ゆっくりと流れていました。
熊本では、震災からの復興を「失われたものを元に戻すこと」ではなく、「震災の経験を未来の価値へ変えていくこと」と捉えていました。
建築を学ぶこともまた、建物の形を考えるだけではなく、社会の出来事や地域の記憶をどのように未来へつないでいくのかを考えることなのだと思います。
震災の記憶をどのように継承するのか。未来へ向かうことと、過去の出来事を忘れないことをどのように両立させるのか。その問いに対する明快な答えはありません。
だからこそKIOKUは、それぞれの人が震災について自分なりに考えるための「道」のような建築なのかもしれません。
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