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2026年07月31日
【書画コース】特別講義「水墨画を楽しむ7つのとびら」in茨城県近代美術館
みなさん、こんにちは。書画研究室の松岡です。
祇園祭で賑わう京都は猛暑日です。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
6月6日(土)、2026年度第1回目となる書画コースの特別講義をオンラインで開催しました。茨城県近代美術館で開催されていた「富山県水墨美術館コレクション 水墨画を楽しむ7つのとびら-富岡鉄斎、竹内栖鳳、横山大観から加山又造へ」(会期:2026年4月25日~6月21日終了)を担当されていた主任学芸員の髙田紫帆さんを講師にお迎えし、水墨画の魅力について解説いただきました。

富山県水墨美術館が誇るコレクションから、幕末〜現代の名品約70点を厳選した本展。髙田さんが鑑賞のための入り口として用意したのが「7つのとびら」でした。今回はその「とびら」を、講義でうかがったお話とともにご紹介します。
最初のとびらは「五感でイマジネーションをひらく」。
展示パネルに擬音語・擬態語を添え、作品から連想される音や手触り、匂い、温度までも想像してもらう、五感をはたらかせる鑑賞方法の提案です。
例に挙がったのが川端龍子の《寒雷》。黒々とした雲間を金泥の稲妻が走る画面に「ゴロゴロピッカーン!」という擬音語が添えられ、視覚だけでなく音や気配までも呼び起こす仕掛けになっていました。
もう一点が平福百穂の《獅子図》。体を起こし一歩踏み出すライオンと伏せるライオンの対を屏風に描いた作品で、たてがみやボディーの質感や量感を、筆致とたらしこみの技法で描き分けているとのこと。金地の上に浮かび上がるたてがみの一本一本に、獣の存在感がにじみ出ていて、水墨表現の幅広さを実感させられる一枚でした。
続くとびらは「文字と絵のコラボレーションを味わう」。水墨画には、賛(書)と画が一体となった作品が数多くあります。文字の内容や書風が、画面とどう呼応しているのか。それを読み解くと、鑑賞の解像度がぐっと上がるとのお話でした。
例に挙がったのが、「最後の文人画家」と称される富岡鉄斎の《四暢図》(1900年以降)。整髪、耳かき、くしゃみ、背中を掻く──4つの日常のささやかな快さを詠んだ詩と、それを体現する人物群像が描かれていて、思わず笑ってしまうような親しみやすさがあります。

「余白・切り取りの美学を考える」のとびらでは、竹内栖鳳の《烏図屏風》(1899年頃)が取り上げられました。描かれているのは、烏がとまる姿のみ。比較として示されたカミーユ・ピサロの《グラット=コックの丘からの眺め、ポントワーズ》(1878年)のように、西洋絵画が画面を埋め尽くすように描き込むのに対し、水墨画はシンプルなモチーフを起点に余白をつくり、観る側が自身の記憶と結びつけて絵を立ち上げていく。そんな鑑賞のあり方を教えていただきました。写生を重んじながら、最小限の筆致(省筆)で墨の含みや筆圧、掠れを複雑にコントロールする技は参考になります。
「背景を読み解く」のとびらで取り上げられたのは、菱田春草が東京美術学校を卒業して間もなく、初めて公の展覧会に発表したデビュー作《四季山水》(1896年)。四季の風景を四幅に描き分けた作品です。
観る者がその風景の前に実際に立っているかのような臨場感のある構図に、思わず「自然が近い日本人の感性ならでは」と引き込まれました。
比較として紹介されたのが、同じ1896年の展覧会に出品された川端玉章の《雨後山水図》と山元春挙の《雪景山水図》。これらの山水画は、北宋の郭熙による山水画論を子の郭思が筆記・編纂した画論書『林泉高致(りんせんこうち)』が説く「三遠」──下から山頂を仰ぎ見る「高遠」、山の手前から後ろをのぞき込む「深遠」、近くの山から遠くの山を見渡す「平遠」──という伝統的な構図法を踏まえていました。一方で春草は、西洋由来の空気遠近法・透視図法も取り入れているとの解説も印象的でした。同時代の画家たちがそれぞれの遠近表現を模索していた様子がうかがえます。さらに興味深かったのが、明治30年前後に「風景画」という概念が日本に生まれたという指摘です。下から積み上げていく伝統的な山水画の構図と、西洋由来の空気遠近法・透視図法。近代以降の日本人の「世界の見方」そのものが変わっていったというお話でした。
「ディテールを探す」のとびらで印象に残ったのは、川合玉堂の《渓村雪霽図》(1925年頃)。風景画の巨匠と呼ばれた川合玉堂は、風景のなかに人物を小さく添える「添景(点景)」を好んで用いた作家だそうです。雪の中を歩く小さな人物は、俗世を離れた隠遁生活に憧れた文人の心を象徴し、鑑賞者がその世界に身を浸すための装置なのだとか。雪の白い部分は絵の具ではなく「描き残し」でできており、墨の濃淡だけで奥行きのある空間をつくり出している点にも驚かされました。
「あなたは一体だれですか?」のとびらは、水墨画に登場する、今では忘れられつつある東洋画題の人物やモチーフの正体に迫るコーナー。タイトルに答えが記されていても、現代の私たちには詳しく分からない場合がある、というのが出発点です。
橋本関雪の《瀟湘八景》(1916年頃)に添えられた「瀟湘八景って何?」、下村観山の《壽星》(1921-24年頃)に添えられた「壽星って誰?」という問いかけが象徴的でした。
なかでも盛り上がったのが篁牛人の《四睡の図》(1969年)。虎、そして禅僧・豊干(ぶかん)禅師と寒山・拾得が折り重なるように眠る、禅の境地を表した画題です。毛足の短い筆に墨をつけ、和紙がこすれるほど擦り込むように描き、墨のかすれた風合いを活かした「渇筆」という技法が用いられているとのこと。図案科出身の篁牛人らしい、デザイン性の高い構図も見どころでした。参考として、長沢芦雪や黙庵霊淵による古典的な「四睡図」もあわせて紹介され、同じ画題が時代を超えてどう描き継がれてきたかを比較できました。
最後のとびらは「筆遣いや墨の濃淡、にじみなど、多様な表現に目を向け、技法の裏に隠された作家の意図を感じ取る」がテーマ。小杉放菴の《漁翁図》(1940年代)や堅山南風の《富士越之龍》(1967年)といった作品を導入に、筆致そのものが語る表現の豊かさへと誘われました。

そして講義の締めくくりに紹介いただいたのが、戦後日本画を革新した加山又造による屏風《牡丹》(1979年)。高さ2.5メートルにも及ぶ大画面に、牡丹の量感とぐわっと咲き誇る勢いが表現されています。金地に墨を重ね、胡粉を盛り上げてから削り出すなど、技法を幾重にも重ねる工程や、屏風という構造を活かして花が咲き誇る空間を生み出している点は、学生のみなさんには勉強になったのではないでしょうか。
講義中、髙田先生ご自身が本当に楽しそうに、好きなものを好きだと語ってくださったのが素敵でした。その熱い想いは、学生の皆さんに伝わっていました。
いかがでしょうか。学芸員の視点から水墨画を語っていただく機会はなかなかありません。技法や表現だけでなく、「なぜその作品が選ばれ、どう展示されているのか」という舞台裏まで知ることができ、自分たちの制作を歴史の中に位置づけて見つめ直す、またとない時間になりました。
書画コースでは、こうした特別講義をはじめ、卒業生や在校生、講師による展覧会も盛んです。ぜひ、書画の世界に足を踏み入れ、多彩な学びと創作の魅力を体感してください!
次回のブログもお楽しみに!
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祇園祭で賑わう京都は猛暑日です。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
6月6日(土)、2026年度第1回目となる書画コースの特別講義をオンラインで開催しました。茨城県近代美術館で開催されていた「富山県水墨美術館コレクション 水墨画を楽しむ7つのとびら-富岡鉄斎、竹内栖鳳、横山大観から加山又造へ」(会期:2026年4月25日~6月21日終了)を担当されていた主任学芸員の髙田紫帆さんを講師にお迎えし、水墨画の魅力について解説いただきました。

富山県水墨美術館が誇るコレクションから、幕末〜現代の名品約70点を厳選した本展。髙田さんが鑑賞のための入り口として用意したのが「7つのとびら」でした。今回はその「とびら」を、講義でうかがったお話とともにご紹介します。目次
■五感でイマジネーションをひらく ― 川端龍子と平福百穂
最初のとびらは「五感でイマジネーションをひらく」。展示パネルに擬音語・擬態語を添え、作品から連想される音や手触り、匂い、温度までも想像してもらう、五感をはたらかせる鑑賞方法の提案です。
例に挙がったのが川端龍子の《寒雷》。黒々とした雲間を金泥の稲妻が走る画面に「ゴロゴロピッカーン!」という擬音語が添えられ、視覚だけでなく音や気配までも呼び起こす仕掛けになっていました。
もう一点が平福百穂の《獅子図》。体を起こし一歩踏み出すライオンと伏せるライオンの対を屏風に描いた作品で、たてがみやボディーの質感や量感を、筆致とたらしこみの技法で描き分けているとのこと。金地の上に浮かび上がるたてがみの一本一本に、獣の存在感がにじみ出ていて、水墨表現の幅広さを実感させられる一枚でした。■文字と絵が響き合う ― 富岡鉄斎の余技
続くとびらは「文字と絵のコラボレーションを味わう」。水墨画には、賛(書)と画が一体となった作品が数多くあります。文字の内容や書風が、画面とどう呼応しているのか。それを読み解くと、鑑賞の解像度がぐっと上がるとのお話でした。例に挙がったのが、「最後の文人画家」と称される富岡鉄斎の《四暢図》(1900年以降)。整髪、耳かき、くしゃみ、背中を掻く──4つの日常のささやかな快さを詠んだ詩と、それを体現する人物群像が描かれていて、思わず笑ってしまうような親しみやすさがあります。
■余白がつくる想像力 ― 竹内栖鳳と菱田春草

「余白・切り取りの美学を考える」のとびらでは、竹内栖鳳の《烏図屏風》(1899年頃)が取り上げられました。描かれているのは、烏がとまる姿のみ。比較として示されたカミーユ・ピサロの《グラット=コックの丘からの眺め、ポントワーズ》(1878年)のように、西洋絵画が画面を埋め尽くすように描き込むのに対し、水墨画はシンプルなモチーフを起点に余白をつくり、観る側が自身の記憶と結びつけて絵を立ち上げていく。そんな鑑賞のあり方を教えていただきました。写生を重んじながら、最小限の筆致(省筆)で墨の含みや筆圧、掠れを複雑にコントロールする技は参考になります。■背景を読み解く ― 菱田春草のデビュー作
「背景を読み解く」のとびらで取り上げられたのは、菱田春草が東京美術学校を卒業して間もなく、初めて公の展覧会に発表したデビュー作《四季山水》(1896年)。四季の風景を四幅に描き分けた作品です。観る者がその風景の前に実際に立っているかのような臨場感のある構図に、思わず「自然が近い日本人の感性ならでは」と引き込まれました。
比較として紹介されたのが、同じ1896年の展覧会に出品された川端玉章の《雨後山水図》と山元春挙の《雪景山水図》。これらの山水画は、北宋の郭熙による山水画論を子の郭思が筆記・編纂した画論書『林泉高致(りんせんこうち)』が説く「三遠」──下から山頂を仰ぎ見る「高遠」、山の手前から後ろをのぞき込む「深遠」、近くの山から遠くの山を見渡す「平遠」──という伝統的な構図法を踏まえていました。一方で春草は、西洋由来の空気遠近法・透視図法も取り入れているとの解説も印象的でした。同時代の画家たちがそれぞれの遠近表現を模索していた様子がうかがえます。さらに興味深かったのが、明治30年前後に「風景画」という概念が日本に生まれたという指摘です。下から積み上げていく伝統的な山水画の構図と、西洋由来の空気遠近法・透視図法。近代以降の日本人の「世界の見方」そのものが変わっていったというお話でした。
■ディテールを探す ― 川合玉堂の雪景色
「ディテールを探す」のとびらで印象に残ったのは、川合玉堂の《渓村雪霽図》(1925年頃)。風景画の巨匠と呼ばれた川合玉堂は、風景のなかに人物を小さく添える「添景(点景)」を好んで用いた作家だそうです。雪の中を歩く小さな人物は、俗世を離れた隠遁生活に憧れた文人の心を象徴し、鑑賞者がその世界に身を浸すための装置なのだとか。雪の白い部分は絵の具ではなく「描き残し」でできており、墨の濃淡だけで奥行きのある空間をつくり出している点にも驚かされました。■あなたは一体だれですか? ― 橋本関雪・下村観山・篁牛人
「あなたは一体だれですか?」のとびらは、水墨画に登場する、今では忘れられつつある東洋画題の人物やモチーフの正体に迫るコーナー。タイトルに答えが記されていても、現代の私たちには詳しく分からない場合がある、というのが出発点です。橋本関雪の《瀟湘八景》(1916年頃)に添えられた「瀟湘八景って何?」、下村観山の《壽星》(1921-24年頃)に添えられた「壽星って誰?」という問いかけが象徴的でした。
なかでも盛り上がったのが篁牛人の《四睡の図》(1969年)。虎、そして禅僧・豊干(ぶかん)禅師と寒山・拾得が折り重なるように眠る、禅の境地を表した画題です。毛足の短い筆に墨をつけ、和紙がこすれるほど擦り込むように描き、墨のかすれた風合いを活かした「渇筆」という技法が用いられているとのこと。図案科出身の篁牛人らしい、デザイン性の高い構図も見どころでした。参考として、長沢芦雪や黙庵霊淵による古典的な「四睡図」もあわせて紹介され、同じ画題が時代を超えてどう描き継がれてきたかを比較できました。■筆の痕跡に注目 ― 加山又造の大屏風と展覧会の舞台裏
最後のとびらは「筆遣いや墨の濃淡、にじみなど、多様な表現に目を向け、技法の裏に隠された作家の意図を感じ取る」がテーマ。小杉放菴の《漁翁図》(1940年代)や堅山南風の《富士越之龍》(1967年)といった作品を導入に、筆致そのものが語る表現の豊かさへと誘われました。
そして講義の締めくくりに紹介いただいたのが、戦後日本画を革新した加山又造による屏風《牡丹》(1979年)。高さ2.5メートルにも及ぶ大画面に、牡丹の量感とぐわっと咲き誇る勢いが表現されています。金地に墨を重ね、胡粉を盛り上げてから削り出すなど、技法を幾重にも重ねる工程や、屏風という構造を活かして花が咲き誇る空間を生み出している点は、学生のみなさんには勉強になったのではないでしょうか。
講義中、髙田先生ご自身が本当に楽しそうに、好きなものを好きだと語ってくださったのが素敵でした。その熱い想いは、学生の皆さんに伝わっていました。
■おわりに
いかがでしょうか。学芸員の視点から水墨画を語っていただく機会はなかなかありません。技法や表現だけでなく、「なぜその作品が選ばれ、どう展示されているのか」という舞台裏まで知ることができ、自分たちの制作を歴史の中に位置づけて見つめ直す、またとない時間になりました。
書画コースでは、こうした特別講義をはじめ、卒業生や在校生、講師による展覧会も盛んです。ぜひ、書画の世界に足を踏み入れ、多彩な学びと創作の魅力を体感してください!
次回のブログもお楽しみに!
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