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建築デザインコース

2026年09月03日

【建築デザインコース】近所の建物を調べてみる―増田友也の旧建部歯科医院を読み解く

みなさま、初めまして。
4月から業務担当非常勤講師を務めることになりました、藤井マナです。
私はこの4月に東京から京都へ引っ越してきました。
近所を歩いていたある日、最寄りのバス停から見える一軒の建物が気になり、近づいてみました。

歩道から見える外観



外壁には「建部歯科」と書かれた文字盤があり、「登録有形文化財」のプレートも取り付けられています。

ここから、この建物について調べてみることにしました。
そこで、まずは「建部歯科」とGoogleで検索してみました。
すると、1953年竣工の「旧建部歯科医院」という建物で、増田友也の設計であることが分かりました。また、住宅と歯科医院が一体となった「医院付き住宅」であることも分かりました。
増田友也は、京都大学で長年教鞭を執った建築家です。ここではその経歴について詳しく紹介することはしませんが、興味を持った方はぜひ調べてみてください。

さて、建物を実際に見てみると、周辺の建物に比べて医院付き住宅にしてはとてもコンパクトです。
「この小さな建物の中に、住宅と歯科医院がどうやって入っているのだろう?」
そう思い、平面図を見てみたくなりました。
ところが、Googleで検索しても、外観や内観の写真はいくつか見つかるものの、詳しい図面まではなかなか出てきません。
そこで、もう少し調べてみることにしました。

建築について調べるとき、Google検索はとても便利です。でも、詳しい図面や当時の設計意図まで知ろうとすると、検索だけでは分からないこともあります。
そこで、論文や図書などの学術情報を検索できるCiNii Researchで「旧建部歯科医院」と検索してみました。
ところが、何もヒットしません。
そこで、検索語を変えて「建部 増田友也」と検索してみると、一件の資料が見つかりました。
それが、『新住宅』1954年5月号に掲載された「診療室をもつ小住宅 建部邸 京都市下鴨」という記事です。
1953年に完成した建物について、その翌年に雑誌で紹介された資料でした。
さらに、この資料は国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧できることも分かりました。
無料の利用登録をして、さっそく誌面を見てみました。
外観写真、平面図、内観写真、そして、設計者である増田友也による「設計ノート」が掲載されていました。
設計ノートには設計者の意図が箇条書きになっています。
ここから、最初に見たときには分からなかった建物のことが、少しずつ見えてきました。
まず平面図を見てみます。

『新住宅』1954年5月号掲載平面図のトレース



図面には尺で寸法が記されています。例えば「7.20」「12.60」といった寸法があり、これは7尺2寸、12尺6寸を表しています。(1尺は303mmです。)
1階は約47㎡の小さな平面で、玄関、待合室、診療室、居間兼食事室、水回りなどが配置されています。
東側の正面玄関から進むと住居側の入口があり、右側にはルーバーのある壁に面した待合室があります。住居と医院で玄関を分けるのではなく、一つの玄関からそれぞれの空間へ分かれていく構成です。
さらに興味深いのは、トイレには二つ扉があり、住居側からも医院側からも使えるように配置されていることです。
診療室と居間兼食事室は引戸で仕切られています。完全に壁で分離するのではなく、必要に応じて行き来できる関係になっています。
さらに図面を見ると診療室部分が2階まで吹き抜けになっていることに気付きます。
2階の南側には寝室と子供室があり、それぞれ診療室部分の吹き抜けに面してルーバー状の建具があります。
図面を見ていると、単純に「住宅」と「歯科医院」を並べて配置したというよりも、二つの用途を一つの小さな建物の中でどのようにつなげるかを考えていることが分かります。
また、増田友也の「設計ノート」には、「断面計画は、住居の部分と、治療室との空間的差異に基づいた。」とあります。
さらに、「複合機能をもつ小住宅の空間的不等質を処理するのに『細部』にだけ頼ることを避けた。」と書かれています。
つまり、住宅と診療室という性格の異なる空間を、建具や仕上げなどの「細部」だけで区別するのではなく、断面そのものを変えることで、それぞれの空間の性格をつくろうとしていたと読むことができます。

建物を印象づけるルーバー



また、東面の外壁にはルーバーが取り付けられています。設計ノートには「袖壁の出と揃えてルーバーを取りつけた。―このルーバーは主として光の濾過を機能としている。」と書かれています。
外から見ると、このルーバーはとても目立ち、この建物を特徴づけるような重要な要素になっています。
さらに誌面を読み進めると、この細長いルーバーには「鋼弦コンクリート」が使われていることが分かりました。これは、現代で言う「プレストレストコンクリート」の当時の呼び名です。
建物を見ただけでは分からなかった材料や技術についても、当時の資料を読むことで知ることができます。
そうすると、今まで「デザイン」として見ていたものが、構造や内部の光のコントロールといった別の側面を持って見えてきます。
建築を見るということは、形を見るだけではなく、「なぜこうなっているのだろう?」と考えてみることなのかもしれません。

もしみなさんの身近にも、そんな建物があったら、少し立ち止まって見てみてください。
その疑問から図面や資料を探してみると、いつも歩いている街が、少し違って見えてくるかもしれません。

 

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