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歴史遺産コース

2018年12月09日

【歴史遺産コース】文化財の手当てをする

みなさん、こんにちは。歴史遺産コースの石神です。

今年をふりかえると普段にも増して災害も多く、人的な被害はもとより、文化財にとっても受難の年でした。

歴史遺産コースでは、そうした文化財の保存や修理について学ぶ科目があります。

本日は、先日行われた「歴史遺産Ⅱ-2 文化遺産学特論」の授業をご紹介いたします。

 この講義では、日本の文化財の多数を占める有機質の文化財に注目し、その「修理」を実際に担当されている方を講師にお迎えして、具体的な修理技法について学びます。

 1日目は仏像彫刻、2日目は装潢(そうこう)文化財、いわゆる紙の文化財、そして3日目は漆器製品について学びます。

 

 ここでは、2日目の紙の文化財の修理の講義をご紹介したいと思います。

 

そもそも紙の文化財というと、どんなものを想像されるでしょうか。掛軸や絵巻物(巻子・かんす)など、書画に関わるものや屏風絵などがありますが、地域に残る古文書なども「紙の文化財」です。

 2011年の東日本大震災でも、津波により多くの古文書が水損し、文化財レスキューが行われて、多くの被災文化財がいまも修理されている途中です。

 こうした紙の文化財の修理は、その損害の程度によって方法は変ってきますが、分かりやすい被害では、虫損があります。穴が開いてしまった古文書を、再び読むことができるようにする修理の方法が「裏打ち」です。

 一般に「裏打ち」は、掛軸や巻子などに仕立てる前に、本紙(ほんし)と呼ばれる絵や書の書かれた紙をより丈夫にするために、紙を重ねて貼る作業のことを指しますが、虫損した古文書なども「裏打ち」が施されます。

 

今回は学生のみなさんに「裏打ち」体験を行っていただきました。紙を貼るというと、単純な作業に思われるかもしれませんが、案外難しいものです。

 

 本紙や裏打ち紙は湿らせたうえで貼り合わせますが、水分の含ませ方によって、紙の延び縮みが変わるため、張り合わせる紙の湿り具合が違うだけで、シワがあとでできたりします。

 

写真は紙に水分を与えるため、プロの装潢師職人が用いる霧吹きです。アイロンをしたり、植木に水を与えたりする霧吹きとは全く違って、木目細やかな霧がでます。

 

今回教えていただく、君嶋先生は数多くの装潢文化財の修復に携わられてきたまさにプロ。その先生から丁寧な指導をして頂けるのは、とても貴重な体験です。

 

さてご指導頂いた内容を踏まえて、学生さんが、実際に本紙(今回は先生がお持ちになった明治時代の教科書)に霧吹きして紙を延ばし、湿らせたり、裏打ち紙に糊をハケで塗布したりするのですが、最初は思うように行かず、悪戦苦闘していました。

 



しかし、次第に慣れてきて、みなさん美しい裏打ちを完成されていました。

 

ほかにも、1日目は仏像の修復工房の見学があり、3日目は実際の漆器製品をもとに修理工程を考えるワークショップなどを行います。

 

メディア等で見たり聞いたりすることはあっても、裏打ちをはじめとして、実際の修理作業を間近に見たり、実際に行うことは実生活の中ではなかなかないのではないでしょうか。

 今回の講義を通じて、文化財修理の手間や技術的な難易度など、文化財修理の実際の姿を肌で感じて頂けたのではないかと思います。

 文化財を伝えていくためには、こうした日々の努力が不可欠です。ちょっとした傷でも悪くなる前に、少しでも「手当て」を施すことで、その傷が癒えて回復することは、みなさんもご経験があると思います。

 これは文化財も同じです。こうした修理の方法を少しでも知っていただいて、身近な文化財の「手当て」をお手伝い頂ける方がふえてくれれば、きっと日本の文化財の未来も、明るいものとなるのではないかと思っています。

 

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