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2019年12月12日
【歴史遺産コース】「文化財の修理を学ぶ」
みなさん、こんにちは。歴史遺産コースの石神です。
近年は、毎年のように災害が発生し、人的な被害だけではなく、数多くの文化遺産も被災しています。台風19号により、収蔵作品の大半が被害を受けた神奈川県川崎市の市民ミュージアムの事例は、記憶に新しいところかと思います。
歴史遺産コースでは、こうした文化遺産の保存や修理の方法について学ぶ科目があります。
本日は、先日行われた「歴史遺産Ⅱ-2 文化遺産学特論」の授業をご紹介いたします。
この講義では、日本の文化財の多数を占める有機質の文化財に注目し、その「修理」を実際に担当されている方を講師にお迎えして、具体的な修理技法について学びます。
東京の講義では、1日目は文化財全般の修理の意義や仏像彫刻について、2日目は装潢(そうこう)文化財、いわゆる紙の文化財について学びます。なお、京都では、染織や膠(にかわ)、漆工芸品の講義が行われます。
さて今回は、東京の2日目、紙の文化財の修理の講義をご紹介したいと思います。
掛軸や絵巻物(巻子・かんす)といった、書画に関わるものや屏風絵などがありますが、地域に残る古文書(ふすまの下張りなどにも残っていることがあります)なども「紙の文化財」です。
紙というと「和紙」を想像されるかもしれませんが、実は「和紙」とひとくくりにするのは誤りで、越前紙や美濃紙など産地や材料によって性質に大きな違いがあります。
紙の文化財の修理では、そうした素材の違いや損害の程度をふまえて、実際の作業を行なっていきます。
たとえば、この授業では、虫損などによって穴が開いてしまった古文書を再び読むことができるようにする「裏打ち」という修理作業を実際に体験しています。
「裏打ち」とは、掛軸や巻子などに仕立てる前に、本紙(ほんし)と呼ばれる絵や書の書かれた紙をより丈夫にするために、紙を重ねて貼る作業のことを指しますが、虫損や破損した古文書なども「裏打ち」が施されます。
紙を本紙の裏に貼るというと、単純な作業のようですが、実は案外難しいものです。
写真は紙を裏打ちした後で本紙と裏打ち紙を馴染ませるための刷毛ですが、1本がウン万円という大変高価なものです。これはプロの装潢師である、講師の君嶋先生がお持ちになったもの。
君嶋先生は数多くの装潢文化財の修復に携わられてきた方で、その先生から丁寧な指導をして頂けるのは、とても貴重な体験です。
こちらの写真は、学生さんが糊を漉している様子です。糊は小麦でんぷん糊といって、小麦のでんぷん成分をもとに作られた糊です。それをさらにきめ細かい性質にするために、漉しています。
そしてご指導頂いた内容を踏まえて、学生さんが、本紙(今回は先生がお持ちになった明治時代の教科書)に霧吹きして紙を湿らせ、裏打ち紙に糊をハケで塗布したりするのですが、最初は思うように行かず、悪戦苦闘していました。
しかし、次第に慣れてきて、みなさん美しい裏打ちを完成されていました。
こうした「裏打ち」体験は実生活のなかで行うことはなかなかありませんが、冒頭で述べたように各地で災害が頻発するなかで、文化財のレスキュー活動は身近な課題となりつつあります。
本コースで学んだ卒業生や在学生が、こうした文化財レスキューに参加される機会も増えており、以前のブログでは茨城県常総市での事例をご紹介しました。
【歴史遺産コース】常総市水損文書復旧活動
今回の台風19号の被災地である長野県長野市でも、現在レスキュー活動に参加されている方がおられます。
現在、長野市立博物館では、台風19号により被災した資料の保全活動を進めています。
https://www.city.nagano.nagano.jp/museum/info/2019_19.html
この活動のボランティアとして、歴史遺産コースの卒業生が参加しています。本コースで学んだ知識を活かして、こうした社会への貢献をされる姿にとても心打たれます。
今回ご紹介した授業のように、文化財の特質や修理の方法について学び、身近な文化財の「手当て」をお手伝い頂ける方がふえてくれれば、きっと日本の文化財の未来も、明るいものとなるのではないかと思っています。
ぜひ身近な文化遺産を守る活動に関心を持っていただき、少しでも多くの文化遺産が救われることを祈りたいと思います。
歴史遺産コース|学科・コース紹介
過去の記事はこちら
近年は、毎年のように災害が発生し、人的な被害だけではなく、数多くの文化遺産も被災しています。台風19号により、収蔵作品の大半が被害を受けた神奈川県川崎市の市民ミュージアムの事例は、記憶に新しいところかと思います。
歴史遺産コースでは、こうした文化遺産の保存や修理の方法について学ぶ科目があります。
本日は、先日行われた「歴史遺産Ⅱ-2 文化遺産学特論」の授業をご紹介いたします。
この講義では、日本の文化財の多数を占める有機質の文化財に注目し、その「修理」を実際に担当されている方を講師にお迎えして、具体的な修理技法について学びます。
東京の講義では、1日目は文化財全般の修理の意義や仏像彫刻について、2日目は装潢(そうこう)文化財、いわゆる紙の文化財について学びます。なお、京都では、染織や膠(にかわ)、漆工芸品の講義が行われます。
さて今回は、東京の2日目、紙の文化財の修理の講義をご紹介したいと思います。
掛軸や絵巻物(巻子・かんす)といった、書画に関わるものや屏風絵などがありますが、地域に残る古文書(ふすまの下張りなどにも残っていることがあります)なども「紙の文化財」です。
紙というと「和紙」を想像されるかもしれませんが、実は「和紙」とひとくくりにするのは誤りで、越前紙や美濃紙など産地や材料によって性質に大きな違いがあります。
紙の文化財の修理では、そうした素材の違いや損害の程度をふまえて、実際の作業を行なっていきます。
たとえば、この授業では、虫損などによって穴が開いてしまった古文書を再び読むことができるようにする「裏打ち」という修理作業を実際に体験しています。
「裏打ち」とは、掛軸や巻子などに仕立てる前に、本紙(ほんし)と呼ばれる絵や書の書かれた紙をより丈夫にするために、紙を重ねて貼る作業のことを指しますが、虫損や破損した古文書なども「裏打ち」が施されます。
紙を本紙の裏に貼るというと、単純な作業のようですが、実は案外難しいものです。
写真は紙を裏打ちした後で本紙と裏打ち紙を馴染ませるための刷毛ですが、1本がウン万円という大変高価なものです。これはプロの装潢師である、講師の君嶋先生がお持ちになったもの。
君嶋先生は数多くの装潢文化財の修復に携わられてきた方で、その先生から丁寧な指導をして頂けるのは、とても貴重な体験です。
こちらの写真は、学生さんが糊を漉している様子です。糊は小麦でんぷん糊といって、小麦のでんぷん成分をもとに作られた糊です。それをさらにきめ細かい性質にするために、漉しています。
そしてご指導頂いた内容を踏まえて、学生さんが、本紙(今回は先生がお持ちになった明治時代の教科書)に霧吹きして紙を湿らせ、裏打ち紙に糊をハケで塗布したりするのですが、最初は思うように行かず、悪戦苦闘していました。
しかし、次第に慣れてきて、みなさん美しい裏打ちを完成されていました。
こうした「裏打ち」体験は実生活のなかで行うことはなかなかありませんが、冒頭で述べたように各地で災害が頻発するなかで、文化財のレスキュー活動は身近な課題となりつつあります。
本コースで学んだ卒業生や在学生が、こうした文化財レスキューに参加される機会も増えており、以前のブログでは茨城県常総市での事例をご紹介しました。
【歴史遺産コース】常総市水損文書復旧活動
今回の台風19号の被災地である長野県長野市でも、現在レスキュー活動に参加されている方がおられます。
現在、長野市立博物館では、台風19号により被災した資料の保全活動を進めています。
https://www.city.nagano.nagano.jp/museum/info/2019_19.html
この活動のボランティアとして、歴史遺産コースの卒業生が参加しています。本コースで学んだ知識を活かして、こうした社会への貢献をされる姿にとても心打たれます。
今回ご紹介した授業のように、文化財の特質や修理の方法について学び、身近な文化財の「手当て」をお手伝い頂ける方がふえてくれれば、きっと日本の文化財の未来も、明るいものとなるのではないかと思っています。
ぜひ身近な文化遺産を守る活動に関心を持っていただき、少しでも多くの文化遺産が救われることを祈りたいと思います。
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