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空間演出デザインコース

2019年03月08日

【空間演出デザインコース】特別講義「一人ひとりに灯火(ともしび)を」

こんにちは、空デ・業務担当の矢野です。本年度もあっという間に残りわずかとなりましたね。

もうじき京都では3月10日(日)から卒業制作展が開催されます。今年も魅力ある力作が揃い踏みです。皆様是非とも足をお運びください。京都までは都合がつかない場合も、デザイン科WEB卒業制作展にてご覧いただけますので、以下のリンクをチェックしてくださいね。

2018年度 京都造形芸術大学(通信教育)卒業・修了制作展

 

今回は22日(土)に、東京・外苑キャンパスにて開催されました、空間演出デザインコース主催の公開特別講義「一人ひとりに灯火を」のご紹介です。

空間演出デザインコースのスクーリングやテキスト科目もご担当いただいている、設計事務所「TAIMATSU」の松尾宗則先生と松尾遥先生のお二人にご講演いただきました。



「ある時は、足元を照らし、行く先を指し示す、ある時は、場をあたため、仲間と知恵の集まる拠りどころとして、ささやかな灯火(ともしび)を、一人ひとりの心の中に、灯していく」

TAIMATSUのホームページを開くと、まずこちらのコンセプトに出会います。

今回は、この言葉通りに、出会った人々との心のつながりを重視し、建築家としての新たな役割を見出し、導きの灯となるようなお二人のプロジェクトをご紹介いただきました。



国内外で様々な空間プロジェクトに取り組んでおられるお二人には、今回のポスターにも使用されている、ガーナ共和国にて設計された小学校のプロジェクトを皮切りに、近作までのご紹介と、仕事のプロセスについてお話いただきました。



西アフリカ・ガーナ共和国。日本のアパレル会社が立ち上げたNPO法人からの依頼で始まったプロジェクトで、都市部から離れた湖畔の村に、子供達の学校・村の集会所を作るプロジェクトです。

ガーナでは教育の行き届かないエリアでは80の言語が入り乱れていて、水道もない地域では子供が朝晩に遠くの水場まで水を汲みにいくのが仕事となっているそうです。

施設は小学校、幼稚園、そこで住み込みで働く先生達のドミトリーというもの。支援で建てられる学校は私立のものが多い中、こちらは公立の学校だというお話でした。私立では、援助されることが当たり前となり、自立する力が育たないことが多く、地域と自分たちの力で学校を存続する力がつけられるようになってもらうための試みだとのことです。



西アフリカの激しい日差しと雨から守るために、松尾先生がたどり着いたのは、「大きな屋根とコンクリートで舗装された床」というテーマ

ガーナのこの村のような未発達の地域では、建築の要素のうちで、屋根の次には舗装された床がとても重要なファクターになります。流れてくる雨水や、舞う土埃から生活や衛生環境を守るためには、まず壁よりも舗装された床が必要だということです。私たちの暮らす日本では当たり前の、舗装された床のある環境すら手に入りづらい状況だということに驚かされました。

大きな屋根とそれを支える柱、日干しレンガの壁で覆われた教室同士はオープンなつながりを持ち、広々としたコンクリートの土間(テラス)を内包しています。学校としてだけではなく、村の人々の集会施設であるコミュニティ拠点としての機能も兼ね添えていました。



広大な平原で、敷地という概念はほぼなかったそうで、このあたりのどこに建ててもよいという夢のような条件ですが、逆に基準がないのも建てづらい、ということで、大きなマンゴーの樹をシンボルツリーとして基点と定め、そこから放射状に建物を配置するというプランが導き出されたそうです。屋根や床の形状もそれに合わせて作られているので、学校のどこにいても常にシンボルツリーが確認できて、それが広大な平原の中での心の拠り所のような役割も果たしているようです。

政情などの影響といった現地ならではの様々なトラブルもあり、工事は一筋縄には進まず、当初半年の予定が3年の歳月を経てようやく完成したそうです。

しかしこの地で、完成までたどり着けたことは、現地の人々、子供達の喜びもひとしおだったのではないでしょうか。

(完成写真はTAIMATSUのホームページで。)



次にご紹介いただいたのは、ビルの内装のリノベーションプロジェクトについてです。

一般的には、建物の主用途についてはオーナーの要望や、建築家が提案する等、あらかじめ決められた用途に向けて企画、設計を行ったのちに工事に取り掛かります。ところが、このビルのリノベーションプロジェクトでは、案が確定しないうちにも工事に取り掛かり、オーナーが現場を見ることによって浮かぶ新しいアイデアを促進していく方向で決断されました。

この方法に至った理由は、オーナーの「街に開かれた楽しい場所を作りたい」という思いから始まり、やってみたいという気持ちはあるがやるすべがないのでプロに依頼しようと思った経緯を、松尾先生が汲み取られたことにありました。

今までもレイアウトを決め切る前に様々な人に現場を見てもらっていると、あらかじめ用途を予定されていた場所が、必ずしもその通りに使われないことが発生するという経験から、この方法を選択されたそうです。松尾先生も既存の仕事の範疇にとらわれずに、人を生き生きとさせるためにはよいのではないかと、建築家の役割として、新しい可能性を見出されました。



オーナーと建築家の信頼関係あっての大胆なプロジェクトですが、工事を進めていく過程で、様々な人に見てもらい、レンタルできるキッチンスタジオとしての可能性を見出したそうです。

そして工事も進み、現在オーナーは屋上の開放的な空間を目にして、次はレンタルスタジオとしての運営を視野に検討されているそうです。

 

 



楽団座長家族のための、古い日本家屋のリノベーションプロジェクトの紹介では、

  • 1階は土足でいいので、リビングダイニングは土間のようなスペースにして、どこからでも出入りできるように、玄関はなくてもOK!

  • 20個の太鼓を置くスペースがほしい。

  • キッチンがあれば顔も洗えるので洗面所もとくにいらない。


といった、個性的なオーナー家族の依頼に対する、既存の枠にとらわれない、自分たちらしいスタイルの提案をご紹介いただきました。収納する太鼓の高さによって空間のカタチが決められていたのがとてもユニークでした。

 

今回の講演で、運営やコミュニケーションといった「場」を作ってきたいというニーズや、社会そのものとの関わり方、自らの仕事に対してどのようなスタンスで向き合うのか。といった問いに真正面から向かわれている姿を見せていただきました。

「自発的な場所であること」という言葉は、松尾先生が、ガーナに行った時に感じたことだそうですが、自分らしさに自信を持ち、踏み出す勇気を与えてくれる、力強い言葉の力を感じました。

松尾先生、これからのご活躍も楽しみにしています!

それでは、皆さんも、新年度張り切ってスタートしましょう!

 

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