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芸術学コース

2021年01月25日

【芸術学コース】ちいさな大きな喜び

みなさん、こんにちは。芸術学コース教員の金子典正です。わたしは仏教美術を研究していることから、これまで仏像を所蔵している世界中の美術館・博物館、仏教が伝播したアジア各地の寺院や遺跡を訪れてきました。しかし、コロナ禍のために、それが今では全く不可能になってしまいました。本当に信じられないことです。また、いつ再開できるかも見通しがつかない状況にあります。そう思う時、自分のパソコンに入っているこれまで撮りためた現地の写真の大切さを改めて認識し、授業中はもちろんのこと、これから学ぼうとしている人にも楽しんでもらいたいといつも思っています。そこで今回の芸術学コースのブログでは、「ちいさな大きな喜び」と題して、いくつかの写真をご紹介します。

まず1枚目は、昨年2月下旬にインドの仏跡を巡った時の写真です。コロナ禍で日本人の入国が禁止される直前でした。場所はお釈迦さまが悟りを開いたブッダガヤの大菩提寺。写真左側が大精舎の建物で、右側に繁る大木が菩提樹です。そして大精舎と菩提樹の間の僅かなスペースが、金剛座と呼ばれるお釈迦さまが悟りを開いた場所です。菩提樹のまわりには静かに瞑想する僧侶の方や仏教信者の方が世界中からたくさん集まっていました。 この菩提樹はお釈迦さまが悟りを開いた菩提樹から育てられたものと言われています。記録によれば当初の菩提樹は5世紀頃に大精舎とともに失われてしまいました。そのため、それ以前に挿し木によって育てられたインド各地の菩提樹の子孫から再び挿し木によってブッダガヤの菩提樹が育てられていたそうですが、その後、スリランカの古都アヌラーダプラにある菩提樹の挿し木によって育てられたのが現在の菩提樹だと言われています。そして、そのアヌラーダプラの菩提樹こそが、お釈迦さまが悟りを開いた菩提樹の挿し木から育てられた樹齢二千年以上の菩提樹と伝えられています。その写真がこちらです。



2015年3月に現地を訪れました。画面中央左寄りに黄金の支柱に支えられた細い枝が左斜め上に伸びているのがお分かりになると思います。現地ではスリー・マハー菩提樹と呼ばれ、お釈迦さまが悟りを開いた菩提樹の挿し木から育てられた樹齢二千年以上の菩提樹だと伝えられています。記録によれば、お釈迦さまが入滅されて約百年後に現れたアショーカ王はインドを統一するとともに仏教に深く帰依したことから、インド各地に仏教が広がりました。さらに、その娘であるサンガミッターがブッダガヤの菩提樹の挿し木をアヌラーダプラにもたらし、それが大切に育て守られてきたのが、このスリー・マハー菩提樹です。そして、この挿し木によって育てられたのが現在のブッダガヤの菩提樹なのです。昨年末の大晦日の「ゆく年くる年」で延暦寺の不滅の法灯がとりあげられていましたが、大切なものは守り伝えられ、途絶えることがない証だといつも感じています。

次の1枚は、ロンドンの大英博物館に所蔵されているガンダーラ出土の2~3世紀頃の仏伝図浮彫です。2005年5月に撮影したものです。中央には樹下で右手を台座に触れんとする釈迦如来坐像の姿が彫られています。この手の形(印相)は降魔触地印というもので、お釈迦さまが悟りを開いた瞬間をあらわしています。魔王マーラが遣わした武器を持った魔衆が両側にあらわされていますが、ここで注目したいのが頭上の樹木の葉の形です。釈迦像頭部の両側の葉の形が分かりやすいと思いますが、ハート型をしていますよね。1枚目のブッダガヤの菩提樹の写真上部、中央右寄りに写っている菩提樹の葉の形と見比べてみてください。

そして、最後の1枚がスリランカのアヌラーダプラのスリー・マハー菩提樹の落ち葉の写真です。



こちらも同じ形をしています。同じ菩提樹ですから、当然と言えば当然なのですが、ガンダーラ出土の仏伝図浮彫が忠実に実物を再現しているのを実際に自分の眼で確かめられたのは、大きな喜びでした。研究にはほど遠いちいさな出来事ですが、こうしたことの積み重ねが大切なのだと最近では感じるようになってきました。2005年に大英博物館で写真を撮影した時は、葉の形には全く意識が届いていませんでした。しかし、その後、自分が知識を増やし、現地を訪れることを繰り返すなかで、ようやく意識が葉の形に向けられ、それを現地の本物で確認できたのは、このうえない大きな喜びでした。

美術史の研究は、作品をしっかり観察し、残された様々な資料と考え合わせて、真実へ辿り着こうとする学問です。たとえ小さな発見でも、それはあなたの人生を豊かにし、生きる活力を与えてくれます。いまあなたが興味を持っている芸術作品は何ですか?今のうちにしっかりと知識を身につけて準備を整え、いつか自由に海外旅行が出来るようになったら、大いに楽しんで欲しいと願っています。

 

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