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歴史遺産コース

2019年06月15日

【歴史遺産コース】常総市水損文書復旧活動

歴史遺産学コースでは、「ものとこころ」という歴史遺産の二つの大事なあり方について、多方面から学ぶことをカリキュラムの根幹に据えています。具体的には、「もの」とは文化財など形あるものであり、「こころ」とは人々の営みとしての歴史、芸術、習俗、芸能など無形のものです。
私たちの歴史遺産は、この両面が揃ってこそ、その確かな意味を持ち、そして守り伝えられていく事になるのです。
こうした学びを重ねてきた歴史遺産コースの在学生(当時)らが、この歴史遺産に対する姿勢を、自らの活動として、実際に取り組んでくださった事例を、今回はご紹介したいと思います。

梅雨入りの時期を迎え、昨年7月の「西日本豪雨」の記憶が蘇り、今年こそ各地に甚大な雨の被害がないことを祈る思いですが、残念ながら、こうした大きな水害を及ぼす降雨が、近年相次いていることは事実です。じつは今回取り上げます活動は、その水害にかかわるものなのです。

2015年9月、広範囲に被害をもたらした「関東・東北豪雨」は、台風18号が東海地方へ上陸したのち、日本海へ抜け熱帯低気圧となったあと、太平洋上の台風17号の影響もあり、湿った暖かい空気が関東北部から東北南部に流れ込み、大豪雨となったものです。
9月9日から10日にかけての24時間雨量で栃木県日光市では550ミリに及ぶ雨量が観察されたのでした。そして茨城県南西部にある常総市は、鬼怒川の氾濫、堤防決壊により、市域のおよそ3分の1に及ぶ広範囲にわたっての浸水を引き起こし、建物流失、長期湛水といった甚大な被害を受けたのでした。

こうした水害の中で、じつは一般の方にはあまり知られていないと思いますが、文化財や史料類も水に浸かり、大きな被害を受けていたのです。この豪雨で常総市役所本庁建物も浸水し、なんと永年保存文書約8,000点が水損被害にあっていたのです。こうした文書は、常総市の歴史を語る史料として今後、さらに重要性を持つものである事は間違いありません。これが汚損し、失われてしまう事は、常総市の歴史の消失にもつながるものです。
災害直後からこうした文書の救出が行なわれましたが、写真でもおわかりいただけるように、じつに無惨な状態となっていたのです。

水損文書



こうした水損文書に対する「常総市水損行政文書」復旧活動に、ボランティアとして歴史遺産コース所属の学生有志8名の方々が、2016年11月から参加されてきたのです。常総市にご親戚があったことで、このことを知った代表の矢口秀夫さん(2016年入学)の呼びかけで、学年をまたいだ学友が賛同し、この活動を支えてこられたのです。

洗い作業



洗い作業



汚損した文献をきれいに洗い、水分を取って紙を平坦に戻すための台紙に挟んで乾かします。学生の皆さんは、まさに人の営み(こころ)を記録した文書(もの)を後世に残すための活動として、手弁当で常総市に通い、こうしたじつに地道な作業を繰り返されたのでした。

洗い作業後の乾燥



乾燥後の取り出し



こうして水損文書の復元作業が一段落を迎えました今春2月、以下のメンバーのもとに、常総市長からお礼状が届きました。



【常総市水損行政文書 復旧作業有志チーム】

●代表
矢口秀夫(2016年度入学)

●メンバー
大久保貴美(2017年度入学)
小島 理恵(2015年度入学、2018年度卒業、2019年度大学院入学)
櫻井 めぐみ(2017年度入学)
佐藤 桂子(2017年度入学)
祓川 圭介(2017年度入学)
益留 順子(2017年度入学)
三田 宇洋(2018年度入学)

この一連の活動報告を、研究室に寄せてくれた学生らは、また次のような今後への思いも抱いておられることを知りました。
今回の活動を通して、復旧活動の重要性はもちろん、地道な作業が求められ、人手と時間が必要であるにも関わらず、十分な費用確保は難しいこと等、多くの課題が具体的にみえてきました。また、我々の手が実際に役立つことを実感できる、非常に貴重な機会となりました。
このような機会に巡りあえたことに感謝しつつ、今後何ができるのかを歴史遺産の学びを通し、考え、実践していきたいと思います。
常総市では、繕い等の修復計画を持っており(時期未定)、再開の折には参加するのはもちろん、他の地域での各支援活動にも積極的に参加していきたいと考えています。

こうした現実の文化財などの復旧活動への貢献は、仕事と学業を両立させるだけでも超多忙な生活をしている通信教育部の学生にとって、どれほど難しいことであったかと推察します。しかし、それをも超えてこうした活動に突き動かされる思い、また実行力を、もし本コースの学びを原動力にしていただいたとしたら、研究室として、教員として、これに勝る喜びはありません。
また、同じ思いを共有する学友との出会い、学友同士の共同での活動が、さらにみなさんご自身の新しい扉を開けていくという、学生の皆さんのその眩しい姿に、私どもも感服するとともに、大いなる勇気をいただいたご報告でした。
ささやかなことでも、身近なところにある私たちの文化遺産に、目を向け、その維持保存に何が必要か、できることは何かを考えていくことを、学生の皆さんとともに続けていきたいと思っています。

 

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