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アートライティングコース

2019年08月28日

【アートライティングコース】「文章力を身につけるこつとか、教えてくれと聞かれますけど、答えは一つしかない。『本を読め』」(町田康)

こんにちは。アートライティングコース教員の大辻都です。

アートライティングコースは現在夏学期の真っ只中。通信教育部では多くのスクーリングが行われている季節ですが、ウェブだけですべての科目を履修できる本コースの学生は誰も登校する必要がありません。今日は実践的にライティングを学ぶ科目、「アートライティング演習」でどう授業を進めているかをお伝えしたいと思います。

春学期の「アートライティング演習1」ではディスクリプション(描写文)、開講中の「アートライティング演習2」では批評文を書くことが課題となり、各自文章に工夫を凝らし、腕を競っている最中です。講義は画面上でも受けられるかもしれないけれど、ライティングの実践を学ぶ演習にウェブだけで大丈夫なの? そう疑問に思われるかもしれません。そんな疑問を抱く方には、演習科目の学びが双方向的かつ充実したものとなるよう設けている「相互講評」の取り組みをご紹介しましょう。



春学期に行われた「演習1」を例にとってみます。授業のテーマとなっているディスクリプションとは、本来は視覚的な対象の記述を指します。描写とも訳され、対象であるモノ(風景や芸術作品など)をよく観察した上で「あるがまま」を心がけつつ言葉で表現していくことと言えばいいでしょうか。もちろん実在するモノと言葉は根本的に違うものですから、文章で「あるがまま」を再現するのは不可能です。そうであっても見事な描写文というのは、描かれた対象が目の前に現れるように、あるいは触れられるように感じられ、読むことの喜びをもたらしてくれるものです。

課題は「好んで使ってきた道具」そして「興味のある都市」についてそれぞれ800字ずつの描写文を書くことです。各自が書いた文章をいったんウェブ上にアップした後、数人のグループに分かれて互いの文章を講評します。学生は一回だけ課題を提出し、教員だけからコメントを受けるというシンプルな過程より手間はかかりますが、他人の文章を読み評価することはその人自身のライティングの力を確実に上げることからこの段階を設けました。ただし漫然と感想だけ述べ合うのでは生産的でないため、文章の構成はうまく行っているか、テーマや内容は充実しているかといった講評として触れた方がいいポイントをガイドラインとして用意しています。

自分で文章を書くのは簡単ではないけれど、他人の文章について意見を述べるのも同じぐらい難しいこと。じっさい入学して初めてこの講評の段階を体験した何人もがそう言っていました。特に春学期はお互い知らない同士ですから、誰もが緊張した様子で丁寧な挨拶から始めています。とりわけ人の文章の問題点を指摘するのは顔を見ながらでも難しいものですが、そこは大人の多い通信教育部生、相手への敬意を保ちつつ「ここのパラグラフは入れ替えると流れがいいのでは?」「この表現だと読み手に伝わってこない」といった率直な意見が交わされており、さすがと思いながら見守っていました。最後にまとめとして、教員からも全体講評を行います。このように複数の読み手のリアクションを受けた後、再度自分の文章に向き合い、練り直したものが最終的に提出されることになります。

  

現在開講中の「演習2」の課題は批評です。受講者は「映像と記憶」「文化としての食」「紙の本」「音楽をめぐって」の4つのテーマからひとつを選んで批評文を書くことになります。批評文においては、ある対象をめぐって書き手なりの見解を示したり価値判断をすることが必要です。その分、第一段階の描写よりハードルが高い課題と言えるかもしれません。そもそも批評とはどんな文章なのかわからないという学生の声も少なからずありました。論文のように形式上のルールがない分、これが批評という境界がなかなか定めにくいのも難しさのひとつでしょう。

批評であれ描写であれ、じっさい読んだことがなければイメージが掴みにくいのは当然です。真似をするのは目標ではありませんが、過去に誰かが書いたものを真剣に読んだ経験、他人のテキストが自分を通過した記憶はライティングをするうえでは必須だと思います。

以下は最近インタビューで読んだ小説家・町田康の言葉です。

「ときどき小説を書くこつとか、文章力を身につけるこつとか、教えてくれと聞かれますけど、答えは一つしかない。『本を読め』。どうやったらストーリーって思いつくんですか? 『本を読め』。どうやったら文章力は身につくのか? 『本を読め』。別に1万冊読む必要はなくて、10冊でも、100冊でもいいから深く読め。100回でも200回でも読めって」

書くために他人の文章を読むことはまわり道のようで近道。上の言葉は小説だけでなくあらゆるライティングに当てはまることだと私は感じています。

 

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