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アートライティングコース

2019年11月08日

【アートライティングコース】「どれほど忙しくても、線を描く練習をしない日はなかった」 大プリーニウス(77年)

みなさん、こんにちは。アートライティングコースの教員、上村博です。秋の青空の下、みなさまいかがお過ごしでしょうか。空はあくまでも高く、青く、見上げているうちに、まだ少しだけ自分にも伸びしろがあるような気がしてきます。

冒頭に掲げたのは、古代ローマの軍人、行政官のガイウス・プリーニウス・セクンドゥスが著した浩瀚な『博物誌』(77)のなかに伝えられる古代ギリシャの画家アペレースの話です(35書、36章)。プリーニウスの書物は元のタイトル Naturae Historiae (諸々の自然の物語)のとおり、天文学、地学、生物学、植物学、鉱物学など多岐にわたる百科事典的なものです。その最後の部分で鉱物を扱う技術に触れる中で、プリーニウスにとってもすでに昔のギリシャの芸術家たちにも言及されます。そのおかげで後世に伝えられることになった逸話も多々あります。

ゼウクシス、パラシオスたちにまじってそこに取り上げられた画家にアペレースもいます。アペレースはアレクサンドロス大王の愛妾カンパスペーを描いたエピソードでも有名です。


上に掲げた画像は、アペレースの手になるものではありませんが、ローマ時代の壁画です。アペレースがカンパスペーをモデルに、「海から立ち上がるウェヌス(ヴィーナス)」を描いたと言われていることにちなんで、ポンペイで出土したウェヌスの画像をご覧にいれました。

さて、高名なアペレースはアレクサンドロスの註文をはじめ、さまざまな仕事を受け、多忙を極めました。しかし老年に至っても、暇を盗んでは絵の修練に励んだそうです。そのさまを表したのが上の言葉です。またそれはnulla dies sine linea(線なしの日はない)という、日々刻苦精進するさまを示すラテン語のことわざになって、その後長らく絵描きの標語としても使われました。19世紀末に設立されたニュー・ヨークの美術学校、アート・ステューデンツ・リーグの校章にもモットーとして描き込まれています。

京都は二条の喫茶店で本稿を書いていたところ、近くの席から年配のご婦人が声をかけられました。
私ね、最近頭のトレーニングをしようかと思って、パソコンを買いたいな、と思っていたら、あなたのそれ、使うてはるそれが目について、それ、おいくらぐらいするんですか、どこの機種です?
はあ、私もそれええかなと思てたんですわ。ほんで、あんた学校の先生してはんのん?うちの息子も教師でして、いま外国にいってますねん。え、息子にパソコンのこと聞け?
そんなん、バカにして教えてくれませんわ。でもね、こうやって指使うてパソコンすると、脳にええと言うでしょ。わたし、むかし珠算してましてん。え、ほんま、パソコンはソロバンみたいなもんですか。ほなやっぱりパソコンしよかな。ありがとうね、お忙しいところお引き留めして。あそこのお店に行ったら買えるんやろか。あ、あそこ携帯の会社なん?

好奇心溢れる方でした。頭が下がります。いや、頭を上げて、秋空を見て、日々精進しましょう。

 

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