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2020年04月10日
【文芸コース】想像力とユーモアと深呼吸と

みなさん、こんにちは。文芸コース教員の安藤善隆です。本来なら春の陽気に心も弾む季節ではありますが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大で、「これから、私たちはどうなるんだろう」という先の見えない不安で世界が苛まれています。まずは、今この状況下で困難に立ち向かわれている全ての方に心よりお見舞い申し上げます。そして、社会に平穏な日常が1日でも早く戻ることを願っています。
このような状況にあるからこそ、大学で芸術を学ぶということはどういうことかを考える機会にし、そこで見つけた思考や問題意識を社会に還元するきっかけにしてもらえればと考えます。
でも、なかなか難しいですよね。だから皆さん、そのための第一歩として、もし、ふっとお手を止める機会があればこんな著者の本を読んで少し気分転換してみてください。
木山捷平。この作家のことを私は、評論家の坪内祐三さんから教えて頂きました(大変残念なことに坪内さんは今年の一月に急逝されました)。
坪内さんは、その著書『古くさいぞ私は』(晶文社 2000年)の中で、木山捷平たちのことを取り上げてこう述べます(「スタンレー鈴木のニッポン文学知ったかぶり」よりカルトを超えたウルトラ・マイナーは偉大なニッポン文学)

今回ワタシが取り上げた作家たちは、戦後日本文学史(この分け方も変だと思いますが)の中でワリを食った人たちです。「第一次戦後派」や「第三の新人」「内向の世代」、あるいは三島、大江といった大物たちの陰にかくれて、文学史の記述の上では、「…の同時代には○○という作家もいて××という佳品を残した」の一言ですまされてしまう人びと、要するにマイナー・ポエットたちです。
そう、「忘れられがちな」作家たち。
でも坪内さんは続いてこうも書きます。
しかし見方や切り口を変えれば、マイナーがメジャーに転化することだってありえます。
木山捷平は1904年(明治36年)に岡山県で生まれました。現在、郷里の笠原市が主催する「木山捷平短編文学賞」でその名前は残っていますが、なかなか読む機会の少ない作家ではあります。
その作風は平凡な庶民生活の悲哀を、ユーモアを交え、私小説や詩で描き出します。私的空間の中に、見事な世界観を創造するその作品性に私も魅せられました。
そんな彼の作品の中に「新編 日本の旅あちこち」(講談社文芸文庫、元版は昭和42年、永田書房)という北海道から九州まで、日本の津々浦々を巡った紀行文を29篇収めた随筆集があります。
庶民の生活の細部に目が届く観察眼の鋭さと描写の的確さは、木山の真骨頂でもあり、これらを記す事が、彼の詩や小説を昇華したに違いないと思わせる内容になっています。
その中でも私は特に「ふるさとの味」と題された章が大好きです(以前、あるエッセイを書いた時にも取り上げました)。昭和31年の新正月から旧正月まで郷里に滞在した際の〝マゼメシ〟に思いを馳せた文章。その〝マゼメシ〟を親戚の棟上げ式で8~9杯も平らげ、「捷平さんは東京で何を食っとるのだろう」と言われた記述などなど。自身もユーモラスな面を持ち合わせていた木山の姿がそこに浮かび上がります。


日本という国の豊かさ、そこに住む人々の静かな創造力。木山の庶民に対する優しい眼差しがそこを照らし出します。そして木山の文章を読むと、いつもほっとして、少しだけ勇気づけられます。何故ならそこにちょっとしたユーモアが入っているから……。
「こんな時……」色々なことに思いを馳せるその側で、少しだけ深呼吸して読んでみてください。文学の世界がもしかすると、あなたの心を和らげてくれるかもしれません(私にとっての木山のように)。文学はそんな可能性を持っています。そして同じ思いを持った人びとや、作家や、本たちが「寄り添って」くれるかもしれません。
在校生と新入生のみなさんも新学期をどのように迎えればいいのか、途方にくれることもあると思います。まずはairUキャンパスに表示される大学からの連絡・報告をしっかりと確認していただければと思います。教職員一同、少しでも皆さんに寄り添えれば思っていますので、どうぞ宜しくお願いします。
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