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和の伝統文化コース

2020年09月15日

【和の伝統文化コース】九月、重陽の節句 ー『菊』の話ー

9月の和の伝統文化コースブログは井上治教員から、菊にまつわるお話です。

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秋の花と言えば何を思い浮かべるでしょうか。
金木犀やコスモス、「秋の七草」の萩や女郎花(おみなえし)など、秋を彩る花はいろいろ挙げることができますが、菊はその代表的存在でしょう。菊花展で目にするような大菊から野に咲く小さな菊まで、菊の花は古来ひとびとに愛されてきました。

今月九日は重陽でした。重陽は「菊の節句」とも呼ばれるように菊とは深い縁があります。古代中国では菊酒が飲まれましたし、日本の平安貴族の間でも菊花に綿を乗せその露で体を拭う「着せ綿」という優雅な風習があったようです。いずれも健康や長寿の願いが託されていたように、菊には神聖な力が宿ると考えられてきました。

いけばなの発祥伝説にも菊にまつわる話があります。
平安時代の初め、嵯峨天皇が嵯峨大沢池にある菊ヶ島の菊を手折って殿上の花瓶に挿されたところ素晴らしい形になったので、今後花を生ける者はこれを範としなさいと宣ったという話です。天皇家の紋章として菊が盛んに用いられるようになったのは中世以降ですが、御製漢詩に菊花を題材としたものが多くあるように嵯峨天皇はとくに菊を好まれたようです。

大沢池の菊ヶ島



いけばなの世界では菊を生ける場合のしきたりが多くありますが、必ずしも一様ではありません。
中世の花伝書にも、重陽には「白菊をまるく立て」とするものもあれば、「黄なる菊を立べし」というものもあります。また五行思想になぞらえて五色(白黄赤青黒)の菊を用いる生け方もあります。江戸時代の花道書には、上から白菊、黄菊、赤菊の順に生け、青は葉で黒は水で表現するとあります。黒が水なのは、五行思想において北・黒・玄武・水といった要素が対応しているからです。

「五色の菊」(嵯峨御所華道総司所『伝統を生ける』より)



園芸の世界に目を向けると、江戸時代の正徳年間(1711~16)を中心に菊が大流行しました。
『花壇養菊集』をはじめ、菊専門の書籍もいくつか現れています。また伊勢菊、肥後菊、江戸菊など、日本各地で特色のある菊が栽培されました。冒頭で触れた嵯峨の地にも、嵯峨菊という古典菊があります。
今年も11月に嵯峨大覚寺で「嵯峨菊展」がありますので、興味のある方はぜひご覧になってください。

大覚寺の嵯峨菊



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