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日本画コース

2021年09月29日

【日本画コース】素材編② ~イタボガキから生まれる白、胡粉と水干絵具~

こんにちは、日本画コース業務担当非常勤講師の山本雄教です!
今回の記事では、日本画に欠かすことのできない「胡粉」と「水干絵具」について紹介させていただきます。

前回の岩絵具編はこちら

【日本画コース】素材編①~天然の鉱物を砕いて作る、岩絵具~

胡粉の原料


まずは早速ですがこちらの写真を見ていただきたいと思います↓
また岩絵具のときのように何かの鉱石でしょうか?
正解は…
胡粉の元となる、イタボガキの貝殻でした! 十年以上乾燥し風化したものになります。
このゴツゴツした貝殻から、美しい日本画の白色である胡粉が生まれるのです。

胡粉の歴史


胡粉とイタボガキ



もともと「胡粉」という名称は中国西域から輸入される白い鉛成分の顔料「鉛白」をさしていました。鎌倉時代から室町時代にかけて次第に白色顔料には「鉛白」から貝殻を砕いた顔料が使われるようになり、これを「胡粉」と呼ぶようになります。
現在ではイタボガキなどから作られる主成分が炭酸カルシウムの貝殻胡粉のことを主にさしています。

美味しそうな生ガキ(イタボガキではありません)。実際のイタボガキはとても美味しいそうです。
ただし現在は数がかなり減っているそうで、幻の牡蠣とも呼ばれているそうな…心配です。



胡粉の用途
その用途は白色の絵具としてだけではなく、下地塗りや、墨や染料と混ぜて(これを具にするといいます)使用したりもします。古くから使われている日本画材料の中でも、胡粉は重要な顔料の一つです。

下地として全体に胡粉を塗っている様子。
下地として塗ることで、絵具の発色をよくしたり、紙をコーティングすることで劣化を防ぐ効果などがあります。



 

こちらは花弁を胡粉で描きおこした状態。



以前本校の学長も務めておられた日本画家の千住博先生の代表作である≪ウォーターフォール≫の白色も胡粉が使われています。
下地から描きおこし、仕上げに至るまで、日本画制作のあらゆる場面で胡粉は活躍します

 



 

胡粉の種類


さて、いざ胡粉を使ってみようと画材屋さんに行ってみると、いくつか種類があり、どれを買えばいいのか迷われるかもしれません。

こちらはナカガワ胡粉さんのもので、右から「金鳳」「白寿」「白雪」。
いずれも素敵な名前ですので見ただけではすぐに分かりませんが、使用されているイタボガキの部位によって等級が分かれています。
「金鳳」が最上級で主に仕上げに使用。「白寿」は仕上げ、下地にいずれにも使用。「白雪」は主に下地に使用というのが私の印象です。
迷われた際は、まずは仕上げにも下地にも使用できる「白寿」の購入をおすすめします。
「粉」と書かれたシールが貼られているものは、元々粉末状になっていて乳鉢で擂らなくてもいいのでちょっと楽ちんです。

「盛上」と書かれているものは、その名の通り絵具を盛り上げる表現に使用します。通常の胡粉のような下地などの使用にはあまり向きませんのでご注意を。

日本画以外でも使われる胡粉


胡粉が使用されるのは、日本画だけではありません。ここではその一例を紹介します。
日本を代表する画家である藤田嗣治の「乳白色の肌」といわれる独自の表現にも、胡粉と同じ炭酸カルシウムが使われています。



雛人形などのお顔にも、胡粉が何層も重ねられています。伏見人形も胡粉で下塗りした上から彩色されています。
日本画に限らず、胡粉の美しさは日本の様々な文化の中に根付いています。


水干絵具


並んだ水干絵具。美しい…。



胡粉からの流れで最後は水干絵具を紹介させていただきます。白色からいきなりカラフルになりましたが、胡粉と水干絵具は切っても切り離せない関係なのです。

お皿に出した胡粉と水干絵具。



右が胡粉で左が緑色の水干ですが、似たようなフレーク状の形をしています。
それもそのはずで、胡粉も水干絵具の一種であり、多くの水干絵具は胡粉を染料で染めることで作られているのです。 (先ほどのナカガワ胡粉の箱を見ていただたくと、蓋のところに「水飛胡粉」と表記されています)

水干絵具は水簸絵具の当て字で、水飛とも書きます。天然のものは土や貝殻を砕いたものを水簸精製で不純物を取り除いて顔料としたもので、土から精製された絵具は泥絵具とも言います。
前述したように、胡粉などの白い水干絵具を染料で染めて顔料としたものも水干絵具と呼ばれていて、粒子が岩絵具より細かく水干絵具同士混色も可能なので、自由な色彩を作り出すことができます。

画面全体に水干絵具を塗っている様子。



基本的な使い方としては、岩絵具に入る前の全体に色を付けていく段階で使用することが多いです。この辺りの制作の流れについては、佐竹先生の書かれた記事をぜひご覧下さい。

【日本画コース】日本画の世界へようこそ!はじめの第一歩


作家さんによっては、なかには岩絵具を使わず水干絵具で完成させるという方もおられます。

余談ですが、最近展覧会で水干絵具で描かれた作品とアクリル絵具で描かれた作品が並んで展示されている場面を見る機会があり、その際にあきらかに水干絵具で描かれた作品の方が発色が良く、改めて水干絵具の魅力に気づかされたという体験がありました。※あくまでも個人の感想ですが。。
ちなみにこちらの水干絵具は京都の「彩雲堂」さんによるもの。独自の製法で絵具を作られており、日本画を描く人間にとっては欠かせないお店です。

以上、今回は胡粉と水干絵具について紹介させていただきました。
また次回もどうぞお楽しみに!

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