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2023年03月27日
【書画コース】文房四宝、硯を愛でる(2)
1月の投稿に続き、今回は二種類の硯を取り上げたいと思います。
一つは、歙州硯(きゅうじゅうけん)。もう一つは土佐硯(とさすずり)についてです。
担当は書画研究室の奥田です。
どの硯をご紹介しようかと悩みましたが、今回は唐硯(中国産の硯)と和硯(日本産の硯)から一種類ずつ選ぶことにしました。唐硯のなかでも端渓硯(たんけいけん)、歙州硯(きゅうじゅうけん)、澄泥硯(ちょうでいけん)という硯は三大名硯といわれています。硯の王者とされる端渓と並び”端歙”と称されるように、歙州硯も優れた硯の一つです。
この三大名硯は書画コースのテキストからも学べますので、ご入学予定の方は楽しみにしていて下さいね。
宇野雪村著『文房古玩辞典』の歙州硯について確認しますと「江西省婺源から安徽省歙県にかけての山脈から産出する」と記されています。中国・安徽省南端にある歙県の龍尾山から採取された石を龍尾石といい、この広くて地域をまたぐ山岳一帯からは他にも羅紋石や眉子石といった硯石が採掘されていました。比較的シンプルな見ためも多く、その理由は粘板岩のため剥離しやすいためと考えられます。写真は大型硯でかつ鑑賞優位のためこのような彫刻なのかと思います。また、石によって個体差はありますが、蒼黒色や青碧色などが多いことも特徴です。
そのため歙州硯は地味に思われるかもしれませんが、写真の眉子紋のように硯面には多様な紋様が見られます。他にも、例えば龍尾系のものには金星・銀星というまるで星を散りばめたような金色・銀色の砂子を含むデザイン性の高い歙州硯もあります。ただしそれにより磨墨を少し妨げてしまうようです。
地下資源保護のため今は原石の採掘は行われていませんので、このような硯を求めることは難しい状況です。しかし、学びを得ることで美術館などの書画作品をご鑑賞される際に、時代や作風などからどんな硯(他にも筆や墨、紙、文鎮などの書画小物)を使ったのか考えを巡らせることは豊かな思考力を育むのではないでしょうか。
◎土佐硯
こちらの写真は数年前に土佐硯の製硯師から研究用に譲り受けた硯板です。硯の海などと呼ばれる部分がなくあまり馴染みのないフォルムかもしれませんね。私は磨りやすさやメンテナンスのしやすさから硯板も好んで使っています。硯板の素朴なところも魅力を感じます。
土佐硯の原産地は高知県三原村にある伊崎畑山です。原料となる石は、約6千万年前の中世代白亜紀層の黒色粘板岩といわれています。鋒鋩(ほうぼう)がほどよく混入・蜜立し、青黒くてかたい石質です。特殊な銅粉を含んでいます。墨おりもよく、麗しい墨色を得られるといわれます。私も墨を磨ってみましたが確かに墨おりもよく、墨を磨ると引き締まった硯面に墨が吸い付くような感覚がありました。
先ほど少し触れました中国の名硯・端渓にも劣らない日本製の硯の一つとして高く評価されています。約500年前に能書家であった関白・一条教房公がこの地で良質の硯石を見つけ永く愛用したといわれ、昭和41年に再発見されて以来、三原村の特産品となっています。2020年に製硯師の方にお会いすることができ、硯文化の普及や後継者の育成にも力を注がれていることを知りました。
それではこの硯板で少し墨を磨ってみましょう♪
墨は松煙墨、紙は棉料単宣の切れ端です。
使用した墨と紙の特性も相まって、とても美しい墨色になっているかと思います。普通濃度ではマットな質感でやや白っぽさを感じる墨色に見えることで線に軽さも感じます。淡墨から超淡墨では、基線(筆の通った跡)も十分に残しながら、ふわっとやさしく広がるニジミが線の余韻を引き立てています。
書画コースの応用・発展的な学習に進むと、表現の目的に沿う筆墨硯紙を選ぶことで、さらには筆墨硯紙に代わる素材を見つけることで、独自性のある表現を生む一助になるのではないでしょうか。
在学生の課題を拝見していますと、書画とは異なるそれぞれの経験や知識、趣味を活かしながら、素材と表現を創意工夫されており卒業制作が今から楽しみです。
さて、書画コースもこの4月で2年目を迎えます \ 祝 /
2023年度も書画研究室では、書や水墨画に関する魅力を多様な切り口からお届けできるように努めます!引き続き、KUAブログもぜひご覧下さい。
〈参考資料〉
・宇野雪村【1993】『文房古玩辞典』柏美術出版株式会社
・上村和堂【1977】『筆・墨・硯・紙』理工学社
・松尾和幸【1979】『日本の伝統工芸品 文房四宝集 筆・墨・硯・紙』松栄出版株式会社
・高知市ホームページ『土佐硯(土佐の手作り工芸品)』 https://www.city.kochi.kochi.jp/site/tosa-kogei/tosanotezukuri-tosasuzuri.html(2023/3/18)
・株式会社墨運堂 墨の資料館
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一つは、歙州硯(きゅうじゅうけん)。もう一つは土佐硯(とさすずり)についてです。
担当は書画研究室の奥田です。
どの硯をご紹介しようかと悩みましたが、今回は唐硯(中国産の硯)と和硯(日本産の硯)から一種類ずつ選ぶことにしました。唐硯のなかでも端渓硯(たんけいけん)、歙州硯(きゅうじゅうけん)、澄泥硯(ちょうでいけん)という硯は三大名硯といわれています。硯の王者とされる端渓と並び”端歙”と称されるように、歙州硯も優れた硯の一つです。
この三大名硯は書画コースのテキストからも学べますので、ご入学予定の方は楽しみにしていて下さいね。
◎歙州硯
宇野雪村著『文房古玩辞典』の歙州硯について確認しますと「江西省婺源から安徽省歙県にかけての山脈から産出する」と記されています。中国・安徽省南端にある歙県の龍尾山から採取された石を龍尾石といい、この広くて地域をまたぐ山岳一帯からは他にも羅紋石や眉子石といった硯石が採掘されていました。比較的シンプルな見ためも多く、その理由は粘板岩のため剥離しやすいためと考えられます。写真は大型硯でかつ鑑賞優位のためこのような彫刻なのかと思います。また、石によって個体差はありますが、蒼黒色や青碧色などが多いことも特徴です。
そのため歙州硯は地味に思われるかもしれませんが、写真の眉子紋のように硯面には多様な紋様が見られます。他にも、例えば龍尾系のものには金星・銀星というまるで星を散りばめたような金色・銀色の砂子を含むデザイン性の高い歙州硯もあります。ただしそれにより磨墨を少し妨げてしまうようです。
地下資源保護のため今は原石の採掘は行われていませんので、このような硯を求めることは難しい状況です。しかし、学びを得ることで美術館などの書画作品をご鑑賞される際に、時代や作風などからどんな硯(他にも筆や墨、紙、文鎮などの書画小物)を使ったのか考えを巡らせることは豊かな思考力を育むのではないでしょうか。
◎土佐硯
こちらの写真は数年前に土佐硯の製硯師から研究用に譲り受けた硯板です。硯の海などと呼ばれる部分がなくあまり馴染みのないフォルムかもしれませんね。私は磨りやすさやメンテナンスのしやすさから硯板も好んで使っています。硯板の素朴なところも魅力を感じます。
土佐硯の原産地は高知県三原村にある伊崎畑山です。原料となる石は、約6千万年前の中世代白亜紀層の黒色粘板岩といわれています。鋒鋩(ほうぼう)がほどよく混入・蜜立し、青黒くてかたい石質です。特殊な銅粉を含んでいます。墨おりもよく、麗しい墨色を得られるといわれます。私も墨を磨ってみましたが確かに墨おりもよく、墨を磨ると引き締まった硯面に墨が吸い付くような感覚がありました。
先ほど少し触れました中国の名硯・端渓にも劣らない日本製の硯の一つとして高く評価されています。約500年前に能書家であった関白・一条教房公がこの地で良質の硯石を見つけ永く愛用したといわれ、昭和41年に再発見されて以来、三原村の特産品となっています。2020年に製硯師の方にお会いすることができ、硯文化の普及や後継者の育成にも力を注がれていることを知りました。
それではこの硯板で少し墨を磨ってみましょう♪
墨は松煙墨、紙は棉料単宣の切れ端です。
使用した墨と紙の特性も相まって、とても美しい墨色になっているかと思います。普通濃度ではマットな質感でやや白っぽさを感じる墨色に見えることで線に軽さも感じます。淡墨から超淡墨では、基線(筆の通った跡)も十分に残しながら、ふわっとやさしく広がるニジミが線の余韻を引き立てています。
書画コースの応用・発展的な学習に進むと、表現の目的に沿う筆墨硯紙を選ぶことで、さらには筆墨硯紙に代わる素材を見つけることで、独自性のある表現を生む一助になるのではないでしょうか。
在学生の課題を拝見していますと、書画とは異なるそれぞれの経験や知識、趣味を活かしながら、素材と表現を創意工夫されており卒業制作が今から楽しみです。
さて、書画コースもこの4月で2年目を迎えます \ 祝 /
2023年度も書画研究室では、書や水墨画に関する魅力を多様な切り口からお届けできるように努めます!引き続き、KUAブログもぜひご覧下さい。
〈参考資料〉
・宇野雪村【1993】『文房古玩辞典』柏美術出版株式会社
・上村和堂【1977】『筆・墨・硯・紙』理工学社
・松尾和幸【1979】『日本の伝統工芸品 文房四宝集 筆・墨・硯・紙』松栄出版株式会社
・高知市ホームページ『土佐硯(土佐の手作り工芸品)』 https://www.city.kochi.kochi.jp/site/tosa-kogei/tosanotezukuri-tosasuzuri.html(2023/3/18)
・株式会社墨運堂 墨の資料館
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