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芸術学コース

2023年11月06日

【芸術学コース】芸術学 vs コスパ/タイパ——芸術学は「役に立つ」?

  こんにちは。芸術学コース教員の江本です。

  突然ですが、みなさんは複数の選択肢の中から1つを選ぶ際、どのような基準で選択されますか?じっくり考えた上で決定する吟味派でしょうか。それとも直感を頼りに決める行動派でしょうか。

  大学への入学や専攻(芸術学を学ぶかどうか)の決定も、大きな決断の1つです。その際、現在や将来の自分にとって「役に立つ」かどうかが決め手となるかもしれません。また、昨今は「コスパ(費用対効果)」や「タイパ(時間対効果)」も重視されます。

  そこで今回は「役に立つ」、「コスパ/タイパ」をキーワードに芸術学を学ぶということについて考えてみたいと思います。なお、ここでは芸術学=芸術についての学びと単純化し、考えていくことにします。


「役に立つ」=特定の問題を解決するということ


  まず、ある学問が「役に立つ」とはどういうことかを整理しておきましょう。「役に立つ」学問としてイメージされるのは、医学や法律学、経済学や工学などではないでしょうか。これらは実学と呼ばれ、学んだ知識や技術が特定の職業に直結したり、研究成果が社会に具体的な形で還元されたりする可能性が高い学問です。これらの成果が私たちの暮らしを支えていることは容易にイメージできるでしょう。 

  つまり、「役に立つ」とは特定の問題を解決したり、目的を満たしたりする状態と言えます。たとえば、ハサミは紙などを切ることに役立ちますが、切ったものをつなげることには役立ちません。なかには幅広い問題に「役に立つ」ものもありますが、その状態が永久に続くとは限りません。最新の機器がそうであるように、時間の経過や状況に応じて古びてしまうもの、使用できなくなってしまうものもあるからです。 

芸術学を通して培われる基礎力


  では、芸術学は「役に立つ」のでしょうか。芸術学の学びにおいても様々な知識を修得し、必要な能力を磨いていきます。芸術学コースが用意しているのも、このような知識や能力を体系的に身につけることのできるカリキュラムです。たとえば、西洋、日本・東洋の美術史や芸術理論の基礎知識の他に、アカデミックに絵画を見る力やこれを言語化する力(ディスクリプション)などを身につけることができます。

  また、芸術学コースでは最終的に卒業研究に取り組み、成果物として卒業論文を提出します。そのため、先行研究や美術資料を収集し、丁寧に読み解く力も欠かせません。多くの方にとって「読む」とは文章の初めから終わりまで目を通し、書いている内容を理解するという認識でしょう。

  しかし、芸術学を含む人文学の学びでは、たった1行や1語の意味が問題解決の糸口となることが少なくありません。多くの文章を速く読み切るのではなく、限られた文章をじっくりと読み込む方法を学ぶ必要があります。そこで、スクーリング科目で美術史の概要や先行研究の内容、基礎的な読み方を学び、テキスト科目において実践するなど、研究に必要な能力を段階的に身につけることのできるカリキュラム構成となっています。

芸術学コースのカリキュラムStep1・2(https://www.kyoto-art.ac.jp/t/course/art/



  このような力は、芸術についての理解や思索を深める上で間違いなく「役に立つ」ものです。一方で、芸術の理解や思索に「だけ」役立つものかというと、そうではありません。芸術学コースで身につける能力とは、物事をじっくりと捉える力、あるいは感覚的なことを言語化し、他者と共有可能な形にする力でもあるからです。これらは芸術に限らず、感覚的なものや不確かなものについて理解を深め、問題解決の方法を探る基礎力とも言えます。

自ら問いを立て、答えを導き出せる人になる


  このように考えると、芸術学が何にいつ「役に立つ」のかは未知数です。学習の成果がすぐさま何かと結びつくこともあれば、芸術以外の思いがけない形や場所で力を発揮することもあります。事前に学びの効果を費用や時間で検証しにくいという意味では、芸術学を「コスパ」や「タイパ」で測ることは現実的ではないかもしれません。

  このことは逆に、学びの成果が比較的長期間、広範囲に影響を及ぼすことを意味してもいます。日々の食事や運動が私たちの身体を形づくっているように、すぐに答えの出ない問いにじっくりと向き合う力をつけること、深く考える力を養うことは自分自身を育むプロセスとも言えるでしょう。

  さらに重要なことに、大学では単に知識や能力を身につけるだけでなく、それをどのように使っていくのかを学ぶ場でもあります。つまり、自分自身の手で問いを立て、それに対する答えを導き出せるようになるのです。食事に例えるならば、単に他者から既成の栄養(知識)を与えられ続けるのではなく、自分自身の興味関心や目的(問い)に合わせて調理方法や味付け(情報収集や考察の方法)を工夫していけるようになることを意味します。身につけた知識は自分自身を養うだけでなく、時間をかけて周囲の人々にも影響を及ぼすことでしょう。

  もちろん、「コスパ」や「タイパ」で測れない以上、それなりの時間や労力はかかります。ですが、これらの力を惜しみなく磨いていけば、日々の経験の味わいやバリエーションが豊かになること間違いなしです。具体的な学びや魅力については、本ブログの他、体験入学や説明会などのイベントを通してお伝えしていきます。お気軽にご参加ください。

 

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芸術学コースでは芸術を理論と歴史の観点から学ぶことができます。授業の前半では理論的に学ぶとはどういうことか、「写真を見ること」を例に考えます。写真を通して見ているものとは何かを考えることを通して、身近な対象を理論的に捉えることに挑戦します。

授業の後半では「絵を読む」方法や意義について浮世絵を例に考えていきます。古典文学や演劇など様々な文化との関連を分析し、重層的に絵を見る楽しさを説明します。知ること、考えることによって広がるものの見方、面白さをぜひご体験ください。

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