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2025年01月27日
【文芸コース】「書き直す技術」を学ぶ場として

つい先日、文芸コースも入学説明会を実施しました。入学を検討している方、本学に興味を持ってくださった方に向けて、文芸コースについて私なりに説明することをしたわけですが……主任として文芸コースに着任して4年目となるわけですが、ようやく明確に「文芸コースでの学び」の特徴を言語化できるようになった手応えがあります。
それは……「書き直す技術」が学べること。
入学説明会でも声を大にして主張してしまいました。本学文芸コースの最大の特徴は「書き直し」を重視していることである、と。「書き直す技術」を学びの根幹として位置づけているのだ、と。
文章のテクニックを教えてくれる教育機関は、きっと他にもたくさんあるはずですし、本学文芸コースもそこを軽んじることはしません。その上で、本学文芸コースが他と違うところは……と考えると、やはりカリキュラムにおいて「書き直す」ことを徹底して求めるところなのだろうと感じます。
先々月のブログにも書きましたから、「書き直しの方法論」は繰り返しませんが、今回は「書き直しのメリット」を強く語らせてください。
「書き直す」ことをしないと、書き続けられないんです。表現を続けられないんです。一発で書いて、うまく書けて、それが評価されて、作品が多くの人に届けられて……というケースは決して珍しくありません。でも、私は編集者として、かなりの数の「一発屋」を見てきました。とても才能があり、おもしろい作品を書くことができるのに、それを継続できない……という方々を、幾人も知っているのです。
おそらくですが、そうした「すぐにデビューできたけれど、なかなか書き続けられないで消えてしまう人」は、自身を否定することができないのだと思います。それはまあ、そうですよね。自分のやり方を貫いて、自分の方法論が認められて、デビューしているんですから。
でも、逆に言えば自分の初手のやり方が認められてしまったからこそ、自分自身を否定できなくなっちゃうんです。人間、成長や変化のためには、「今までの自分」と決別しなければならない瞬間は、ままあります。あるいは「最初に成功した自分の方法論」を信じてしまうと、社会の変化、それにともなう読者の変化に、対応しきれなくなるのです。編集者として断言しますが、「消えていった新人」の方々は、才能や努力が不足していたから消えたのではないんです。どの方々も、才能も技術も優れていたのに……「自分を否定すること」をしなかったから、表現を継続できず、消えてしまったのです。
それを知っているから、私は文章表現を学ぶ人々に「書き直す」ことの重要性を強く訴え続けています。なぜって、ひどく簡単に言えば「書き直す」ためには、どうしたってどこかで自分自身を否定する必要性があるからです。「オモシロイと思ったけど、〇〇なタイプの読者は嫌がるかもしれない。その可能性を俺は見落としているんじゃないか?」とか「めっちゃ自信作ができたけど、一旦落ち着こう。この観点やこの結論なら、すでに過去の作品で似たような事例があるんじゃないか? 私がそれを未読で見落としているだけかもしれないぞ?」とか……自分を否定するための材料は、いくらでも用意できるはずなのです。でも、自分を正しいと思ってしまったら、そこを見落としてしまう。すると当然、書き直すことができないままで終わってしまうわけです。
本学文芸コースがひたすら「書き直し」を重視するのも、極論すれば「自分を否定し、表現の可能性を狭くしない」ための理論とテクニックを体得してほしいからなのです。もちろん、書いている最中は自分を信じるべきですよ? その段階で疑っていたら、書き終わることすらできなくなりますから。
でも、書き終わった瞬間は、自分を否定する視点を、一度でいいから持ってほしいと思います。それを少しやるだけで、ガラッと作品の結果が変わるからです。作品に客観性が生まれれば、作品を書き直すチャンスも浮上します。書き直す可能性を常に身近においておけば……ひどく簡単な理論ですが、「一度書いたものですら書き直せるようになる」わけです。過去の自分をブラッシュアップ、あるいは丸ごとガラッと変えるような書き直しが可能となるならば、自動的に「一発屋」で終わる可能性は消えます。だって、書き終わった後でも、再び筆を執る動機を自分自身で手に入れられるようになるのですから。
文芸コース主任 川﨑昌平



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