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文芸コース

2019年08月02日

【文芸コース】「新聞記者はこんな感じで作家にインタビューする」

みなさん、こんにちは。文芸コース教員の伊藤譲治です。

私の本業は新聞記者で、30年以上、この仕事に携わっています。部署としていちばん長いのは、文芸や出版、映画、放送などを扱う文化部です。作家にインタビューする場合、どんな状況で進むのか。実例に即して、原稿完成までを再現してみます。

たとえば、こんな感じです。

芥川賞を受賞し、全国紙で連載小説も執筆する中堅作家のAさんが、大手出版社から新作短編集を出したケースです。出版社は新刊を出す場合、装幀を簡略化した見本版を事前に作成し、各新聞社の担当部署に送ってきます(朝日新聞や読売新聞は文化部、毎日新聞は学芸部になります)。その見本版に目を通して、作家にインタビューするかどうかを決めます。

では、インタビューしたいと思ったら、どうするか。見本版にはたいてい、担当編集者の「熱いメッセージ」がつづられたあいさつ状が添えられています。あいさつ状に書かれた担当編集者の連絡先に電話し、作家とのスケジュール調整をしてもらう、というのが一般的な流れだと思います。もちろん、作家と個人的に親しければ直接電話し、インタビューの日時を決めることもできます。

新刊がらみであれば、インタビューは出版社内の会議室などで行われることがほとんどです。インタビュー時間は1時間とってもらうようにしています。経験則ですが、1対1のインタビューは1時間を超えるとダレるし、3040分ぐらいだと、肝心なことが聞けず、なんとなく消化不良を起こしてしまうことが多いよう感じます。

さて、インタビューにはどう対処するか。正確な記事を書くことなどを考え、ICレコーダーは2台持っていきます。1台はさまざまな機能がある比較的高性能なもの、もう1台はリスクヘッジ(危機回避)用のもので、録音さえできればいい安価なものを使っています。かつてカセットテープレコーダーを使っていたころ、録音に失敗し、真っ青になったことが2回あります(1回は高名な病理学史の教授、もう1回はキー局の女子アナウンサーのインタビューです。内容を必死になって思い出し、なんとか切り抜けました)。そんな苦い経験があったので、万が一の場合に備え、ICレコーダーは2台持っていくようにしています。

メモはどうとるのか。ノートの使い方ですが、私の場合は次のようにしています。B5判の大学ノートの左ページに質問事項などを書いておき、右ページは空けておく、です。質問に対する答えを空いた右ページに書き込むとともに、話を聞いている間に浮かんできた疑問や相手の印象なども右ページに書き込んでいきます。文章として長々と書くのではなく、キーワードやフレーズを走り書きするようなイメージです。ノンフィクションライター・野村進さんの『調べる技術・書く技術』(講談社現代新書)を読んでいたら、ほぼ同じようなノートの使い方をしていました。ちなみに、取材では、どんな大御所作家であっても相手を「先生」と呼んだりはしません。

インタビュー後は、ICレコーダーを再生し、一字一句正確に自分で文字起こしします。1時間のインタビューであれば、だいたい3~4倍の時間がかかります。文字起こししたインタビューは印刷して重要な発言にマーカーで線を引き、ノートと突き合わせてインタビュー原稿を完成させていきます。紙面の編集責任者であるデスクの要求に応じて、原稿を長くしたり短くしたりしますが、ここは記者の腕の見せどころです。

個人的なインタビュー方法とノートのとり方などについて書いてきましたが、何かの参考になれば幸いです。

 

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