PHOTO

PHOTO

歴史遺産コース

  • HOME
  • 歴史遺産コース 記事一覧
  • 【歴史遺産コース】文化遺産を未来へつなぐこと−京都国立博物館・特別企画「文化財修理の最先端」レビュー−

2021年01月22日

【歴史遺産コース】文化遺産を未来へつなぐこと−京都国立博物館・特別企画「文化財修理の最先端」レビュー−

みなさん、こんにちは。歴史遺産コース専任教員の石神裕之です。

先日は日本海側を中心に大雪となり、社会生活にも様々な影響が出ましたが、お変わりなくお過ごしでしょうか。この一連の寒波で、京都瓜生山・望天館自慢の滝も凍りついていました。

凍りつく望天館の滝。2021年1月9日撮影。京都市中京区では氷点下4・1度の、2016年1月25日に並ぶ21世紀タイの最低気温を記録。


凍りつく望天館の滝。さて現在、新型コロナウイルス感染症対策のため、全国の主要な11都府県で緊急事態宣言が発令されています。不要不急の外出を控えられている方も多いかと思いますが、全国の博物館・美術館では、みなさんの学びの好奇心をくすぐる特別展が目白押しです。


今回は歴史遺産コースの学びにもつながる特別展示のご紹介として、京都国立博物館・平成知新館で行われている「文化財保存修理所開所40周年記念 特別企画 文化財修理の最先端」を取り上げたいと思います。

京都国立博物館[明治古都館(右)と平成知新館(左)]



明治古都館は1895(明治28)年10月竣工。宮内省内匠寮技師片山東熊(かたやまとうくま)設計。表門、札売場及び袖塀とともに1969(昭和44)年に国重要文化財に指定。平成知新館は2014(平成26)年竣工。谷口吉生設計。

みなさんは「文化財保存修理所」という名前を聞かれたことはありますか。

そもそも「文化財」と言う言葉は、1950年の文化財保護法の制定以後、社会的な認知を受けた言葉です。

それ以前は、古美術、古物といった捉え方が一般的であり、その修理は古代以来の伝統を引き継いだ彫刻や表具、漆工芸などの各種職人の手によって行われてきました。

しかし近代に入り、こうした修理を専業とする「技術者」の養成が急務となっていきます。

なかでも岡倉覚三(天心・1863〜1913)が開設した日本美術院(1898[明治31]年創立)はそうした養成機関の嚆矢です。

本学人間館入口の岡倉天心像 彫刻家・平櫛田中(1872〜1979)作。



とくに日本美術院第二部[1906(明治39)年、奈良・東大寺勧学院に開設]では、1897(明治30)年に制定された古社寺保存法などに基づき、数多くの国宝修理が行われました。
※現在の公益財団法人美術院については、以下のアドレスを参照。
http://www.bijyutsuin.or.jp/index.html

実はこの美術院をはじめ、七つの民間修理工房が現在活動しているのが、1980(昭和55)年7月に京都国立博物館に開設された文化財保存修理所なのです。

開設以来40年。これまでに博物館所蔵品はもとより全国各地の指定・未指定の文化財、約5,800件の修理に携わってきました。

今回の展示では修理を施された文化財のうち、特に厳選された52点(国宝は6点、重要文化財28点)が展示されています。

館所蔵品のほか京都市内の寺社が所蔵する文化財も多く、さすがは京博。どの文化財もどこかで見覚えのあるものばかりです。

早速いくつかご紹介しましょう。例えば、国指定重要文化財「騎馬武者像」(絹本着色 南北朝時代 14世紀 京都国立博物館所蔵)。

といわれて、すぐには思い出せない方も、足利尊氏像といえば「ああ!」と気づかれるでしょうか。

※画像は以下の京博あるいは「e国宝」のホームページをクリックしてご覧ください。
https://www.kyohaku.go.jp/jp/theme/floor2_3/2F-3_20201219.html
https://emuseum.nich.go.jp/detail?langId=&content_base_id=101003&content_part_id=000&content_pict_id=000

歴史の教科書などにも登場するこの肖像画は、尊氏のものとされてきましたが、近年では高師直(こうのもろなお)、あるいはその子、師詮(もろあきら)の像ではないかと言う説も出てきています。ちなみに上部の花押は尊氏の子、室町幕府第2代将軍義詮(よしあきら)のもの。

さて、この肖像画も経年の劣化が進み、表装の損傷も目立ってきたことから、1989年度に修理所内の民間工房において修理が行われました。

こうした軸装画の修理では、損傷の程度によりますが、裏打ちされている紙などの表装を解体して行う場合があります。

今回はその過程で、完成画では消されている「弓」の下書きと思われる墨線が発見されるなど、新たな貴重な知見が見出されました。

こうした修理中の発見は他にもあります。

例えば染織品の「御簾松文様小袖」(絹[白倫子地・絞・繍] 江戸時代 17世紀 京都国立博物館所蔵)を見てみましょう。
※画像は以下の京博のホームページをご覧ください。
https://www.kyohaku.go.jp/jp/theme/floor1_4/1F-4_20201219.html

小袖とは現在の着物の原型とも言われるものですが、これは豊麗な文様を持つ元禄小袖へと移り変わる時期の作例として貴重なものとされています。ちなみにこの小袖の所有者は、いわゆる「赤穂浪士」の一員として加わった小野寺十内に嫁いだ婦人との口伝もあるそうです。

この修理ではやはり解体の過程で縫込み部分に墨書が発見され、小袖を製作した工房における製品管理の状況を示す記載であることがわかりました。史料の乏しい当時の小袖製作工房の記録として貴重なものといえます。

このように修理のなかで、いままで見えていなかったものが数多く発見され、その文化財の資料的価値がさらに高まることがあるのです。

この特別企画に連動して、1階漆工の展示スペースでも、修理された漆工品が展示されています(1階漆工「漆器を守り伝える―修復の成果―」)。

展示品の一つである重要文化財「牡丹唐草螺鈿経箱」(安土桃山-江戸時代 17世紀 京都・本法寺蔵)。
※京博のweb上では画像提示がないため、九州国立博物館で行われた展示情報を参照します。「第II章『修理』 つくろう・なおす 技とこころ」の末尾に説明があります。
https://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_s24.html

この経箱は本阿弥光悦(ほんあみこうえつ 1558~1637)の作とされるもので、美しい螺鈿の装飾が施された優品ですが、修理前の段階では経箱の蓋の側板部分が欠損し、蓋としての機能が失われていました。

実はこの「修理」方法が興味深いものです。

普通に考えれば、欠失した側板を新たに作り直して天板と接合し、蓋として使用できるようにすることが「修理」と思われるかもしれません。

しかし文化財の修理では、本体のいわば「ホンモノ」の部分と補修した部分はあくまでも「区別」する必要があり、この経箱の場合ですと、形態や大きさ、かみ合わせなどを丁寧に調査・検討したうえで、天板を載せる蓋状の「台」を作成しています。

あくまで「台」を製作することが修理であり、新たな側板を天板に接合して「蓋に戻す」ことは行わないのです。

なぜそこまで文化財の修理はこだわらなければならないのでしょうか。

こうした疑問も含めて、今回の京都国立博物館の企画展は様々な気づきを与えてくれる展示です。残り期間もわずかですが、お近くの方はぜひ展示をご覧いただければと思います。

図録とチラシ



遠方でご関心のある方も後日、図録で詳細な内容をご覧いただけます(京博のオンラインショップでも販売しています)。

そして文化財の修理や保存についてもっと知りたい、学びたい、と思われたら、文化遺産の保存や修理について充実した授業を用意している歴史遺産コースの門をぜひたたいてください。

こうした文化財修理の現場はとても特殊な技術を必要としており、なかなか一般の目に触れることはありません。また専門用語も特殊で、少し難しそうという印象があるかもしれません。

その理解のためには、何と言っても実際の修理に携わる技術者や研究者のお話を直接お聞きすることが不可欠です。

実は先日京都で行われた「歴史遺産II−2 文化財と保存修理」というスクーリング科目では、こうした文化財修理を専門としている先生(染織・建築彩色・漆工芸)にご出講いただいています。

今回取り上げた「御簾松文様小袖」については、京都国立博物館の山川暁先生が授業で扱われていました。そして本阿弥光悦の「牡丹唐草螺鈿経箱」を修理された漆芸家北村繁先生もこの授業にご出講いただいています。

東京の授業でも、仏像や装こう文化財(書跡・絵画など)の修理に携わっておられる先生が授業を担当しています。

東京における裏打ち実習授業



装こう文化財の修理をご専門とする君嶋隆幸先生。今年は写真のようにオンライン講義となりましたが、次年度は十分な感染対策を施した上で対面による講義を予定しています。

2019年度の裏打ち実習の様子



実際の裏打ち道具を用いて、学生自身が裏打ちを行ないます。

近年は各地で災害が頻発し文化財が被害にあったり、無住の寺社から仏像が盗難に遭うなど、文化財を取り巻く状況はとても厳しいものがあります。

また文化財修理の現場でも、人材育成や修理資材の調達において、課題が山積しています。

文化財修理とはいかなるものなのか、そして文化財を未来へどのようにつないでいけばよいのか。

その答えを知りたい方は、ぜひ歴史遺産コースで、私たちとともに学びを進めみてはいかがでしょうか。

心よりお待ちしております。

文化財保存修理所開所40周年記念 特別企画 文化財修理の最先端
【会場】京都国立博物館 平成知新館
【会期】2020(令和2)年12月19日(土) ~ 2021(令和3)年1月31日(日)

 

\NEWS!参加申込受付中/


1月は本コースの魅力や学びを深く知ることができるイベントがもりだくさん!出願を検討されている方はもちろん、「興味があってどんな雰囲気か知りたい!」という方も大歓迎です。インターネット環境があれば全国どこからでも参加ができるオンラインイベントなのでお気軽にご参加ください。

「オンライン入学説明会」開催日:1/31(日)


出願予定のコースの学び方についてもう少しリアルに知りたい!という方にはこちらへの参加がおすすめ。

通信教育部で学べる学科・コースごとに講義を担当する教員がカリキュラム説明を行います。スマホやパソコンなどインターネット環境があれば全国どこからでもライブ配信にご参加いただけます。参加者は「顔出し」「声出し」はありませんのでご安心ください。また、オンラインチャット機能で直接教員に質問や疑問点を相談することができます!

複数コースで出願を迷っている方はぜひどちらのコースの説明も参加して聞いてみてください。

▼詳細・お申込み(以下特設サイトにてコース毎にお申込ください。)



 

 

 

 

歴史遺産コース|学科・コース紹介
過去の記事はこちら

この記事をシェアする