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文芸コース

2020年10月14日

【文芸コース】補綴というクリエイティブ〜木ノ下歌舞伎『摂州合邦辻』

みなさま、こんにちは。文芸コースの教員、 安藤善隆です。

さて今日は演劇を通しておこなわれるクリエイティブついて少し触れてみたいと思います。
ふっとお手を止める機会があれば、少しリラックスした気分で読んでみてください。

人形浄瑠璃、歌舞伎の作品の中に『摂州合邦辻』(上下段6場)という作品があります。

才能と容姿に恵まれている大名の跡取り・俊徳丸。彼は異母兄弟の次郎丸から疎まれ、継母の玉手御前からは恋心を寄せられているのですが、病にかかり、許嫁・浅香姫も家督相続の権利も捨て、突然失踪します。そしてしばらくするとその変わり果てた姿が大阪・四天王寺に。そこで彼は社会の底辺で生きる人々の助けを得ながら身分と名前を隠して暮らしていました。

そこに現れるのが次郎丸、玉手、浅香と深い因縁を持つ合邦道心。さらに明かせぬ秘密を持ったまま消えていた玉手御前まで再び姿を見せ…。という内容です。
この作品、民間伝承『しんとく丸伝説』を下敷きに能の『弱法師』や説教節『しんとく丸』『愛護の若』の要素を合わせ脚色が施され、安永2年(1773年)の大阪で初演が行われました。
もしかするとみなさんの中にはこの物語のことを知っていらっしゃる方がいるかもしれませんね。

ロームシアター京都 レパートリーの創造 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』 2019年2月ロームシアター京都 サウスホールより(撮影:東直子)



そんな作品が昨年2月に木ノ下歌舞伎の木ノ下裕一さんと〝妙―ジカル〟という独創的な音楽劇を生み出した糸井幸之介さんの手によって木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』として上演され好評を博しました(因みに木ノ下さんは、本学出身。映像・舞台芸術学科卒業後、大学院芸術研究科修士課程を修了されています)。

『摂州合邦辻』をそのまま順を追って通し狂言として上演すると6時間を超えてしまいますが、監修・補綴・上演台本の木ノ下さんと演出・音楽・上演台本の糸井さんの手によって見事に古典が現代に再構築され(2時間15分に凝縮され)時空を超え、今の物語として私たちの心に響く作品が表出されました。

さて、少し話は変わりますが、木ノ下さんがおこなった「補綴」とは何をすることなのでしょうか。この漢字「ほてつ」(または、ほてい)と読みます。辞書で調べてみると「破れなどを繕いつづること。転じて手を加え不足などを補い、よくすること」(大辞泉)とあります。

木ノ下さんはこのように説明しています。

「〈補って綴る〉という読んで字の如く、テキストをカットしたり、書き換えたりすることでして、主にお芝居の世界では台本の作成作業(それも既存戯曲の再編集作業)を意味します。木ノ下歌舞伎では、毎回、公演ごとにこの〈補綴作業〉を行います。私たちの〈新解釈〉が最も上手く反映された台本になるように、演出家に合った台本になるように再編集したり、また、上演時間や役者の人数に合わせてカットしたりと、結構骨の折れる作業です

https://kinoshita-kabuki.org/

大変な作業ですが、これが舞台作品の土台となるわけです。

『摂州合邦辻』という作品を作りあげる為に、木ノ下さんは冒頭で述べた古典などに加え歌舞伎(中村歌右衛門や尾上梅幸、武智歌舞伎…)や文楽(豊竹山城少掾…)そして文学(折口信夫の小説『身徳丸』や評論『玉手御前の恋』、三島由紀夫の近代能楽集『弱法師』、中上健次……)、さらには現代劇(寺山修司、蜷川幸雄……)などの流れも押さえ、総体的にこの作品を掴み、「補綴」をおこないました。そして「『摂州合邦辻』及びそれを巡る様々な物語の集大成として幹の太い作品にしたい」と昨年、公演を前にインタビューをした時に語ってくれました。

http://kansai.pia.co.jp/stagepia/

木ノ下さんが語っているこの「補綴」という〝クリエイティブ〟。大学で学習する際のインプット・アウトプットするための方法論として、参考になるのではないかと思います。世界に対峙し、芸術の本質を掴もうとする時に必要なインプットとアウトプットについて……。

ロームシアター京都 レパートリーの創造 木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』 2019年2月ロームシアター京都 サウスホールより(撮影:東直子)



この作品、11月2日、3日にロームシアター京都での再演が決定しています。

再演にあたっておこなわれた先日の記者会見で木ノ下さんは「初演での家族というテーマに加え、古典が持つ神話性を顕在化させたい」、またコロナ禍の中「死生感を扱ったこの作品を今こそ上演すべき」と語っていらっしゃいました。

木ノ下さんによるさらなる「補綴」がほどこされ、糸井さんによる新曲の書き下ろしが加わり、初演の成果をさらに深化させ魅力を増すであろうこの作品。「補綴」というクリエイティブを頭の片隅に置いて観るのも良いかもしれません。ご興味のある方は足を運ばれてはいかがでしょうか。

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