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2021年05月24日
【文芸コース】文芸×音楽=<寓話>のコラボレーション
皆さんこんにちは。文芸コース教員の安藤善隆です。
まだまだ先行きの見えない不安に苛まれる日々ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。今日は<文芸>と<音楽>を繋ぐあるコンサートについて書いてみようと思います。
ロームシアター京都が、京都市交響楽団と「異分野のアーチストとのコラボレーションをする」シリーズを行っています。今年の1月にはロームシアター京都開館の5周年記念事業の一環として、京都市交響楽団×石橋義正パフォーマティブコンサート『火の鳥』が開催されました。
ダンスや新体操、映像、舞台美術などを融合させたオーケストラコンサートは斬新で、特にラベルの『ボレロ』をダンサーのアオイヤマダさんが椅子に座りながら踊り、そこにチュートリアルの徳井義実さんがヘアメイクするという設定で登場。二人の絶妙なユーモアと艶を紡ぎ出す世界は、残像を視認するサッカードディスプレイの視覚的効果と相まって圧巻でした。
そのシリーズの最新コンサートが『ねむらないひめたち』と題され6月に開催されます。今回は小説と音楽の持つ「物語性」でのコラボレーション。
新作書き下ろし短編小説を朗読し、そこに小説のイメージに合うオーケストラ楽曲を組み合わせ演奏されます。
このコンサートで京響を指揮するのは2009年に「世界が尊敬する日本人100人」(Newsweek Japan)にも選ばれ、TBSの情熱大陸でも取り上げられられた三ツ橋敬子さん。
小説は京都在住の作家・藤野可織さんが20000字の短編を約1ヶ月で書き下ろされました。2006年に『いやしい鳥』で第103回文學界新人賞、2013年には『爪と目』で第149回芥川賞を受賞され、近作『ピエタとトランジ〈完全版〉』『来世の記憶』などをはじめ、数多くの作品を発表し現実とファンタジーの世界を行き交う世界観は日本のみならず海外からも大きく評価されています。
そして朗読は映画『恋のしずく』で主演を務め、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』『青天を衝け』、ドラマ『知ってるワイフ』などに出演。映画『きみと、波にのれたら』では主演声優、ディズニーピクサー映画ではヒロイン声優を務め、今年の後期NHK連続テレビ小説ヒロイン役も決定している川栄李奈さん。
それぞれの分野で活躍する女性たちが顔を揃えています。
今回の企画はまず、「言葉とのコラボレーションができるかどうか」ということから始まったと記者会見でロームシアター京都音楽担当事業部長・柴田さんは話しておられました。その上で、作家の方に新作を書き下ろしてもらい、それに合うオーケストラ楽曲という構成が作られたそうです。
それでは内容を紹介してみましょう。
本公演の中心を担う「物語」=藤野さんが書かれた小説は、今よりほんの少し未来の日本が舞台になっています(因みにこの小説は文芸誌・新潮7月号に掲載されます)。そこでは、人が眠ってしまうという奇病が蔓延。父母とも「眠り」についてしまった、高層マンションに住む幼い姉妹が主人公です。彼女たちはどうこの世界を生き延びるのか……。
そんな「物語」が8つのパートに分けられ、<朗読→演奏>の順で音楽の中にある「物語」ともに展開されていきます。
では音楽は?というとフランスの作曲家の作品を中心に選曲されています。
「今回中心となる印象派学派と呼ばれるフランスの作曲家の作品には、古典的なものにはない多種多様な表現があります。それを藤野さんの作品と結べば、新たアドベンチャーが生まれるはず」と三ツ橋さん。
因みに予定演奏曲は:ラヴェル:組曲《クープランの墓》より「プレリュード」、「フォルラーヌ」・ストラヴィンスキー:バレエ《カルタ遊び》より抜粋・ラヴェル:《スペイン狂詩曲》より「夜への前奏曲」、「マラゲーニャ」・シベリウス:悲しきワルツ、ドビュッシー(管弦楽編曲):3つのジムノペディ第1番・ドビュッシー《夜想曲》より「雲」・ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ。
「眠ってしまう奇病という設定は今の<現実>に影響されています。『眠り姫』を下敷きにはしていますが、この物語を書き進むうちに、現実と『眠り姫』の物語がリンクしていきました。私としては、<眠るということは、いつか起きるということ>でもあると思っています」と藤野さんがそう語る物語は、まさに「現代の寓話」といってもいいでしょう。
人が人に何かを伝えようと思った時、実際に起こった「現実」そのままを伝えるよりも、「寓話」の方が伝わりやすかったりします。その「寓話」に仕掛けがあれば尚更のこと。
藤野さんが「言葉」で紡ぐ不可思議でミステリアスな作品性を、
川栄さんの透明感ある「声」で変換し、
フランス楽曲が持つ「音」の中を漂うような世界観と共に三ツ橋さん・京響が奏でる。
小説と音楽の物語性が響合い、さらに藤野・川栄・三ツ橋を三面鏡にように照らし出す『ねむらないひめたち』。
「小説を読ませて頂いて素晴らしい作品だと思いました。オーケストラの演奏を私も楽しみにしています。色々な方に楽しんでもらえると思います」という川栄さんの言葉がこのコンサートにさらに期待を抱かせてくれます。
ロームシアター京都で紡がれる2021年6月20日の「寓話」のコラボレーションを、今私は楽しみにしています。
*京都市交響楽団×藤野可織オーケストラストーリーコンサート
『ねむらないひめたち』
2021年6月20日(日)14:00 ロームシアター京都メインホール
文芸コース| 学科・コース紹介

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まだまだ先行きの見えない不安に苛まれる日々ですが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。今日は<文芸>と<音楽>を繋ぐあるコンサートについて書いてみようと思います。
ロームシアター京都が、京都市交響楽団と「異分野のアーチストとのコラボレーションをする」シリーズを行っています。今年の1月にはロームシアター京都開館の5周年記念事業の一環として、京都市交響楽団×石橋義正パフォーマティブコンサート『火の鳥』が開催されました。
ダンスや新体操、映像、舞台美術などを融合させたオーケストラコンサートは斬新で、特にラベルの『ボレロ』をダンサーのアオイヤマダさんが椅子に座りながら踊り、そこにチュートリアルの徳井義実さんがヘアメイクするという設定で登場。二人の絶妙なユーモアと艶を紡ぎ出す世界は、残像を視認するサッカードディスプレイの視覚的効果と相まって圧巻でした。
そのシリーズの最新コンサートが『ねむらないひめたち』と題され6月に開催されます。今回は小説と音楽の持つ「物語性」でのコラボレーション。
新作書き下ろし短編小説を朗読し、そこに小説のイメージに合うオーケストラ楽曲を組み合わせ演奏されます。
このコンサートで京響を指揮するのは2009年に「世界が尊敬する日本人100人」(Newsweek Japan)にも選ばれ、TBSの情熱大陸でも取り上げられられた三ツ橋敬子さん。
小説は京都在住の作家・藤野可織さんが20000字の短編を約1ヶ月で書き下ろされました。2006年に『いやしい鳥』で第103回文學界新人賞、2013年には『爪と目』で第149回芥川賞を受賞され、近作『ピエタとトランジ〈完全版〉』『来世の記憶』などをはじめ、数多くの作品を発表し現実とファンタジーの世界を行き交う世界観は日本のみならず海外からも大きく評価されています。
そして朗読は映画『恋のしずく』で主演を務め、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』『青天を衝け』、ドラマ『知ってるワイフ』などに出演。映画『きみと、波にのれたら』では主演声優、ディズニーピクサー映画ではヒロイン声優を務め、今年の後期NHK連続テレビ小説ヒロイン役も決定している川栄李奈さん。
それぞれの分野で活躍する女性たちが顔を揃えています。
今回の企画はまず、「言葉とのコラボレーションができるかどうか」ということから始まったと記者会見でロームシアター京都音楽担当事業部長・柴田さんは話しておられました。その上で、作家の方に新作を書き下ろしてもらい、それに合うオーケストラ楽曲という構成が作られたそうです。
それでは内容を紹介してみましょう。
本公演の中心を担う「物語」=藤野さんが書かれた小説は、今よりほんの少し未来の日本が舞台になっています(因みにこの小説は文芸誌・新潮7月号に掲載されます)。そこでは、人が眠ってしまうという奇病が蔓延。父母とも「眠り」についてしまった、高層マンションに住む幼い姉妹が主人公です。彼女たちはどうこの世界を生き延びるのか……。
そんな「物語」が8つのパートに分けられ、<朗読→演奏>の順で音楽の中にある「物語」ともに展開されていきます。
では音楽は?というとフランスの作曲家の作品を中心に選曲されています。
「今回中心となる印象派学派と呼ばれるフランスの作曲家の作品には、古典的なものにはない多種多様な表現があります。それを藤野さんの作品と結べば、新たアドベンチャーが生まれるはず」と三ツ橋さん。
因みに予定演奏曲は:ラヴェル:組曲《クープランの墓》より「プレリュード」、「フォルラーヌ」・ストラヴィンスキー:バレエ《カルタ遊び》より抜粋・ラヴェル:《スペイン狂詩曲》より「夜への前奏曲」、「マラゲーニャ」・シベリウス:悲しきワルツ、ドビュッシー(管弦楽編曲):3つのジムノペディ第1番・ドビュッシー《夜想曲》より「雲」・ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ。
「眠ってしまう奇病という設定は今の<現実>に影響されています。『眠り姫』を下敷きにはしていますが、この物語を書き進むうちに、現実と『眠り姫』の物語がリンクしていきました。私としては、<眠るということは、いつか起きるということ>でもあると思っています」と藤野さんがそう語る物語は、まさに「現代の寓話」といってもいいでしょう。
人が人に何かを伝えようと思った時、実際に起こった「現実」そのままを伝えるよりも、「寓話」の方が伝わりやすかったりします。その「寓話」に仕掛けがあれば尚更のこと。
藤野さんが「言葉」で紡ぐ不可思議でミステリアスな作品性を、
川栄さんの透明感ある「声」で変換し、
フランス楽曲が持つ「音」の中を漂うような世界観と共に三ツ橋さん・京響が奏でる。
小説と音楽の物語性が響合い、さらに藤野・川栄・三ツ橋を三面鏡にように照らし出す『ねむらないひめたち』。
「小説を読ませて頂いて素晴らしい作品だと思いました。オーケストラの演奏を私も楽しみにしています。色々な方に楽しんでもらえると思います」という川栄さんの言葉がこのコンサートにさらに期待を抱かせてくれます。
ロームシアター京都で紡がれる2021年6月20日の「寓話」のコラボレーションを、今私は楽しみにしています。
*京都市交響楽団×藤野可織オーケストラストーリーコンサート
『ねむらないひめたち』
2021年6月20日(日)14:00 ロームシアター京都メインホール
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