

歴史遺産コース
- 歴史遺産コース 記事一覧
- 【歴史遺産コース】くずし字を読む④ー石川丈山の覚ー
2026年02月26日
【歴史遺産コース】くずし字を読む④ー石川丈山の覚ー
こんにちは、歴史遺産コースの業務担当非常勤講師の山下です。
このブログではもう何度かくずし字読解について書いてきました(「くずし字を読む」、「くずし字を読む②」、「くずし字を読む③」が、今回もその続きです。
せっかくですから、今回は実際の文書の読解をしてみたいと思います!
こちらの文書を読んでみましょう。
じつはこの文書の写真もこのブログで以前紹介したものです(「詩仙堂―瓜生山キャンパス(京都)周辺の歴史遺産―」)。
もう二年前ですが、京都芸術大学瓜生山キャンパスの近くにある詩仙堂で撮影しました。詩仙堂やその主であった石川丈山については簡単にですが、以前のブログに書きましたので、良ければそちらも見てみて下さいね。
さて、この文書は石川丈山が甥に与えた七ヶ条の覚書とされているものです。おそらく「写し」であって、石川丈山自身の筆ではないでしょう(この時には、別の筆のものも詩仙堂には掲げられていました)。内容は、生きていく上での戒めです。宛先はありませんが、本文には「吾侄」(吾が侄)とあり、おそらく妹の子であり養子であった石川重昌(数馬)に宛てられたものではなかろうかと考えられています。(参考:小川武彦『石川丈山年譜 本編』青裳堂書店、1994年)
では文書を見てみましょう。
一番右にある一文字はこの文書の題にあたるもので、ここは「覚」と書かれています。
ちなみに「覚」は児玉幸多編『くずし字用例辞典 普及版』(東京堂出版、1981、→「くずし字を読む」)ではこんな感じです。
すこし変則的なくずしですね。
冠の上の部分を二つの点にした上で、そこから横棒につなげる時に筆を交差させています。上半分の見た目が用例などと少し違いますが、筆の動きを考えながらなぞってみると納得できるのではないでしょうか。
さて、その後は「一」と書いた下に文章が記されていきます。一つ書きの形式ですね。
比較的楷書に近い読みやすい文字で書いてありますので、読める単語を拾っていくことで、なんとなく意味が把握できるのではないでしょうか。ちょっと見ていきましょう。
拡大して示していくと、一つ目はこちら。
冒頭が「主君」なのがわかるでしょうか(「主」は前回「くずし字を読む③」の「王」などと似ていますね)。そのあとにある「ヽ」のような文字はひらがなの「へ」。続く文字はちょっと難しいですが「御奉公」で、つまり主君への奉公に際しての戒めです。
後の方にはどれほど主君に気に入られても他人に対して驕るな、とあります。最後の行の上から二文字以降に「人に驕り申間敷事」(人に驕り申すまじき事)とあるのがそれですね。「人」の次の文字は「尓」と書いてあって、「に」の変体仮名です。最後の「事」は、くずれて「る」の下が伸びたような文字になっています。その上のくずれている「間敷」は、「まじき」と読みます。「あるまじきこと」などの形で今も残っている表現です。
参考までに翻刻を記すと次の通り。
「一、主君へ御奉公之儀ハ其身を任せ奉り、何事によらす一筋ニ御用ニ立申心持を不断胸ニ挟可申候、御しかり候時、少も輔をはらし不申、腹を立不申候て、御機嫌を伺候て、御奉公可申上候、何程御目見せ能候とても人を凌き人に驕り申間敷事」。
ちなみに「可申」(申すべく)、「不申」(申さず)や「可申上」(申し上ぐべく)など、漢文のように返って読むことがあります。「候文」という文章の特徴です。
さて、二・三・四番目の一つ書きを拡大します。
二つ目の冒頭の文字はきっと読めますね。
「武士」とあります。その次の文字は「之」(の)とあって、次は「道」。武士の道についてです。武士の道を日夜忘れるな、と記します。
三つ目の冒頭も読みやすそうです。
「同僚」ですね。次の文字は先程と同じく「之」。続いて「交り」とあります。同僚との交流について、温和にして無礼のないようにしなさいとします。ただし不善の人(「不善人」)とは深く交わるな、としていたりもします。
四つ目の冒頭は少し難しい字ですが、きれいに書いてあります。
「戯言」です。「戯」が旧字の「戲」で書かれています。その後はカタカナの「ニ」に、ひらがなの「も」。次の文字が難しいですが、左側は人偏で、右側は「為」という文字のくずしが書いてあります。つまり「偽」ですね。戯言にも偽=嘘を言うな、正直を第一にしろ、という内容です。
二から四番目の内容も参考までに翻刻を記しておきましょう。
「一、武士之道、日夜ニ忘れ候ハて、何時も人の跡ニ成候ハぬ様ニと心かけ可申事
一、同僚之交り、常々温和にいたし、無礼なき様ニ慇懃を可存候、併不善人ニハ深ク交り候事、必々無用之事
一、戯言ニも偽を申候ハぬ様ニ、偏ニ正直を第一ニ嗜可申事」
残る三つは簡単に眺めておきましょう。
五つ目は、一行目の真ん中あたりに注目すると「欲すくなく」と書いてあるのがわかるでしょうか。その次の漢字は「清廉」です。
六つ目は、冒頭から「人と物争」とあって、人との争いやケンカについてですね。少しあとに「停止」とあって、ケンカはやめなさいという内容です。無益の争いには負けておけ、という教えもあって、これは少し面白いですね。
七つ目は、三・四文字にあるように「倹約」について。「繁華美麗」を羨むな、と書いています。
参考として、翻刻は次の通り。
「一、万事ニ付、欲すくなく、清廉を心に持可申事
一、人と物争可令停止候、無益之事ハ負て居可申事
一、毎物倹約を守り候て、人之繁華美麗を少も羨ミ申間敷事」
最後に、この七か条のこと忘れないようにして勉めよ、と書いて、年月日(「寛文三年八月八日」)と署名(「石丈山書」)を記しています。
寛文三年というのは1663年なので、350年ほど前の文章です。
ということで、ざっとですが、石川丈山の覚書の内容を見てみました。どうでしょうか?
改めて冒頭の写真を見ると、なんとなくこの文書のことが分かったような気になりませんか。
くずし字読解を少しでもやってみると、博物館などで文書を見るときでもきっと見え方が違ってくるはずです。是非読もうとしてみてください。
本学歴史遺産コースでは、このようなくずし字読解を含めた史料の学習・研究を進めることができます。
例えば、「歴史遺産III-5 くずし字史料の読解」などの科目をもうけて、皆で史料読解の知識や技術を学ぶ場をつくっています。
みなさんも私たちと一緒に、史料の読解にチャレンジしてみませんか?
歴史遺産コース|学科・コース紹介

大学パンフレット資料請求はこちらから
このブログではもう何度かくずし字読解について書いてきました(「くずし字を読む」、「くずし字を読む②」、「くずし字を読む③」が、今回もその続きです。
せっかくですから、今回は実際の文書の読解をしてみたいと思います!
こちらの文書を読んでみましょう。
じつはこの文書の写真もこのブログで以前紹介したものです(「詩仙堂―瓜生山キャンパス(京都)周辺の歴史遺産―」)。もう二年前ですが、京都芸術大学瓜生山キャンパスの近くにある詩仙堂で撮影しました。詩仙堂やその主であった石川丈山については簡単にですが、以前のブログに書きましたので、良ければそちらも見てみて下さいね。
さて、この文書は石川丈山が甥に与えた七ヶ条の覚書とされているものです。おそらく「写し」であって、石川丈山自身の筆ではないでしょう(この時には、別の筆のものも詩仙堂には掲げられていました)。内容は、生きていく上での戒めです。宛先はありませんが、本文には「吾侄」(吾が侄)とあり、おそらく妹の子であり養子であった石川重昌(数馬)に宛てられたものではなかろうかと考えられています。(参考:小川武彦『石川丈山年譜 本編』青裳堂書店、1994年)
では文書を見てみましょう。
一番右にある一文字はこの文書の題にあたるもので、ここは「覚」と書かれています。
ちなみに「覚」は児玉幸多編『くずし字用例辞典 普及版』(東京堂出版、1981、→「くずし字を読む」)ではこんな感じです。
すこし変則的なくずしですね。冠の上の部分を二つの点にした上で、そこから横棒につなげる時に筆を交差させています。上半分の見た目が用例などと少し違いますが、筆の動きを考えながらなぞってみると納得できるのではないでしょうか。
さて、その後は「一」と書いた下に文章が記されていきます。一つ書きの形式ですね。
比較的楷書に近い読みやすい文字で書いてありますので、読める単語を拾っていくことで、なんとなく意味が把握できるのではないでしょうか。ちょっと見ていきましょう。
拡大して示していくと、一つ目はこちら。
冒頭が「主君」なのがわかるでしょうか(「主」は前回「くずし字を読む③」の「王」などと似ていますね)。そのあとにある「ヽ」のような文字はひらがなの「へ」。続く文字はちょっと難しいですが「御奉公」で、つまり主君への奉公に際しての戒めです。後の方にはどれほど主君に気に入られても他人に対して驕るな、とあります。最後の行の上から二文字以降に「人に驕り申間敷事」(人に驕り申すまじき事)とあるのがそれですね。「人」の次の文字は「尓」と書いてあって、「に」の変体仮名です。最後の「事」は、くずれて「る」の下が伸びたような文字になっています。その上のくずれている「間敷」は、「まじき」と読みます。「あるまじきこと」などの形で今も残っている表現です。
参考までに翻刻を記すと次の通り。
「一、主君へ御奉公之儀ハ其身を任せ奉り、何事によらす一筋ニ御用ニ立申心持を不断胸ニ挟可申候、御しかり候時、少も輔をはらし不申、腹を立不申候て、御機嫌を伺候て、御奉公可申上候、何程御目見せ能候とても人を凌き人に驕り申間敷事」。
ちなみに「可申」(申すべく)、「不申」(申さず)や「可申上」(申し上ぐべく)など、漢文のように返って読むことがあります。「候文」という文章の特徴です。
さて、二・三・四番目の一つ書きを拡大します。
二つ目の冒頭の文字はきっと読めますね。「武士」とあります。その次の文字は「之」(の)とあって、次は「道」。武士の道についてです。武士の道を日夜忘れるな、と記します。
三つ目の冒頭も読みやすそうです。
「同僚」ですね。次の文字は先程と同じく「之」。続いて「交り」とあります。同僚との交流について、温和にして無礼のないようにしなさいとします。ただし不善の人(「不善人」)とは深く交わるな、としていたりもします。
四つ目の冒頭は少し難しい字ですが、きれいに書いてあります。
「戯言」です。「戯」が旧字の「戲」で書かれています。その後はカタカナの「ニ」に、ひらがなの「も」。次の文字が難しいですが、左側は人偏で、右側は「為」という文字のくずしが書いてあります。つまり「偽」ですね。戯言にも偽=嘘を言うな、正直を第一にしろ、という内容です。
二から四番目の内容も参考までに翻刻を記しておきましょう。
「一、武士之道、日夜ニ忘れ候ハて、何時も人の跡ニ成候ハぬ様ニと心かけ可申事
一、同僚之交り、常々温和にいたし、無礼なき様ニ慇懃を可存候、併不善人ニハ深ク交り候事、必々無用之事
一、戯言ニも偽を申候ハぬ様ニ、偏ニ正直を第一ニ嗜可申事」
残る三つは簡単に眺めておきましょう。
五つ目は、一行目の真ん中あたりに注目すると「欲すくなく」と書いてあるのがわかるでしょうか。その次の漢字は「清廉」です。六つ目は、冒頭から「人と物争」とあって、人との争いやケンカについてですね。少しあとに「停止」とあって、ケンカはやめなさいという内容です。無益の争いには負けておけ、という教えもあって、これは少し面白いですね。
七つ目は、三・四文字にあるように「倹約」について。「繁華美麗」を羨むな、と書いています。
参考として、翻刻は次の通り。
「一、万事ニ付、欲すくなく、清廉を心に持可申事
一、人と物争可令停止候、無益之事ハ負て居可申事
一、毎物倹約を守り候て、人之繁華美麗を少も羨ミ申間敷事」
最後に、この七か条のこと忘れないようにして勉めよ、と書いて、年月日(「寛文三年八月八日」)と署名(「石丈山書」)を記しています。
寛文三年というのは1663年なので、350年ほど前の文章です。
ということで、ざっとですが、石川丈山の覚書の内容を見てみました。どうでしょうか?
改めて冒頭の写真を見ると、なんとなくこの文書のことが分かったような気になりませんか。
くずし字読解を少しでもやってみると、博物館などで文書を見るときでもきっと見え方が違ってくるはずです。是非読もうとしてみてください。
本学歴史遺産コースでは、このようなくずし字読解を含めた史料の学習・研究を進めることができます。
例えば、「歴史遺産III-5 くずし字史料の読解」などの科目をもうけて、皆で史料読解の知識や技術を学ぶ場をつくっています。
みなさんも私たちと一緒に、史料の読解にチャレンジしてみませんか?
歴史遺産コース|学科・コース紹介

大学パンフレット資料請求はこちらから
おすすめ記事
-

歴史遺産コース
2025年12月23日
【歴史遺産コース】卒業研究のテーマ
こんにちは!歴史遺産コース教員の加藤です。今回は入学を検討されている方々のご質問でよく見かける、卒業研究のテーマについて少しお話ししたいと思います。芸術学科の3…
-

歴史遺産コース
2025年11月27日
【歴史遺産コース】朱(硫化水銀=HgS)でたどる『邪馬台国』東遷の物語
こんにちは、業務担当非常勤講師の河野摩耶です。 日本古代史の最大の謎といえば、「邪馬台国はどこにあったのか?」という大問題でしょう。今回はその謎に、赤い鉱物「朱…
-

歴史遺産コース
2025年10月30日
【歴史遺産コース】くずし字を読む③
いきなりですが問題です。 次の文字、なんと読むでしょう!? こんにちは、歴史遺産コースの業務担当非常勤講師の山下です。 このブログではすでに、「くずし字を読む」…






















