
芸術学コース
美術好きな主婦から、入学後に人生初の論文を完成
「まさか自分がこうなるとは、思ってもみませんでした」という加藤さん。本コースを卒業して大学院へすすみ、さらに研究を深めている。けれど入学前は、ただの美術好きな主婦。一人娘が手を離れ、カルチャースクールの延長のようなつもりで入学を決めた。「考えが甘かったですね。与えられる学びの広さ、求められる思考の深さにがく然」。もちろん深く学ぶほど、得られる喜びも深い。悩んで書きあげたレポートには、びっしり細かく先生からの添削が。現地研修では、先生や学生数人で行動をともにし、大人の修学旅行を味わった。「卒業論文テーマを藤田嗣治に決めていた私は、〝フジタの加藤さん〞なんて呼ばれて」。しかし、いざ着手してみると、そのフジタが大きな壁となった。
「散漫な随筆です」。先生から辛辣に批評され、ショックを受けた。本学に来てから、デッサンなどの体験を通して、絵の見方が変わった。少しずつ知識も増えてきた。しかし、それだけで持論を生むことはできないのだ。思い悩み、一時は作品を見るのも嫌になっていた加藤さんに、先輩からの助言が。「思考を止めないで、どこにいても常にメモを持ち歩いて」。その言葉を胸に、久しぶりにフジタの展覧会に足を運び、これまでの苦悩がふっきれた。「やっぱり好き。だから、がんばろう。素直にそう思えたんです」。
題材をいちから見直し、なんとか人生初の論文を完成。「あの厳しいご指摘がなかったら、中途半端なままだった。愛あるダメ出しに、今は感謝しています」。先生の他にも、豊かな知を持つ学友たち、大学を通して知り合えた美術関係者、パソコンの指南役になってくれた家族など。いろんなつながりが自分を支えてくれた。「芸術は人の魂を救い、生きる力を与えてくれる」。そんな名言が身にしみた、とつぶやく加藤さん。好きなフジタと向き合う先に見たのは、芸術学という学びの原点そのもの、だったのかもしれない。

加藤 紀子
愛知県在住 54歳
芸術学コース
(3年次編入学)
15年度卒業
卒業後は大学院の「比較芸術学分野」に進学。大学院ならではの「プレゼンテーション」という新たな難題に悩まされつつ、フジタ研究を深めつづける。