
陶芸コース
体験授業から本格的な学びを求めて入学
「自分の手のあとがかたちになる、その感覚がいいなと」。本コースの体験授業で初めて真剣に陶土にふれ、入学を決めた井上さん。元々ものづくりが好きで開発職に就いたものの、年齢とともに立場が変わり、現場からは遠ざかっていた。「どうせなら理論も含めて本格的に教わろう」と陶芸教室よりも大学を選び、手びねり、タタラ、型、ろくろといった基本技法を一から学ぶことに。「もちろん窯などないので、課題はすべて大学に送って焼いてもらいました」。焼成された作品を初めて受け取ったときは、「こんなに縮むんだ」とびっくり。また、先生の鋭い添削指導にも驚かされたという。
「本当に、対象物をよく見ましたか?」。たまたま身近にあった筍を題材にした課題で、先生に痛いところを突かれ、人生で最も真剣に筍を観察。すると、思わぬ造形の法則や美しさが見えてきて、一気に惹きつけられた。「以来、ずっと筍だけをモチーフに」。藝術学舎での木彫など、土以外の素材による制作も大いに役立ったという。「振り返ると、大学で経験したすべてが、卒業制作のためのトライアルだった気がします」。キャンパス内の土を焼成する授業で開発者魂に火が付き、「土からつくりたい」と一念発起。地元の土や灰を用いて試行錯誤をくり返し、陶土も釉薬もオリジナルの作品を完成させた。「無謀な挑戦にも助言をくださり、温かく見守ってくださった先生方に感謝しています」。スクーリングでは、多彩な学友たちと「芸術とは」といった話を真剣に議論するのも楽しみだったという井上さん。「卒業してわかったのは、制約のある課題より、何をしても自由な方が制作は難しい、ということ」。だが、難しさは喜びでもある。「ここからが、芸術」。大学とは、そのための手法を身につける場所。そこでさまざまな養分を吸収した井上さんの土は、まさにこれから、天にのびあがろうとしている。
学友たちと立ち上げた「土詩」という陶芸グループで、卒業後にグループ展を開催。「自身の活動としては、地元の山土や灰をつかった陶土・釉薬にこだわり、今後もオブジェや器などの作品をつくりつづけたいです」。