
陶芸コース
元公務員、趣味の陶芸を学び直したい思いを叶えて
「何しに行くんだ」と冷やかす周囲に「俺が行きたいんだ、好きにさせてくれ」と言い返し、北海道から入学した川本さん。本学を開設時から知り、趣味の陶芸を学び直したい、と思いつづけていた。「入学して、これこそ大学でやれることだと感じました」。石膏、たたらなどの多様な技法に、焼成や釉薬の本格的な探求。「何よりも、先生が苦心して培った自らの手技を、惜しげもなく見せてもらえる」。貴重なスクーリングだからこそ大切にしたいと、いつも教室に一番乗りする川本さんだったが、途中には苦悩もあった。
「自分の入院や家族の事情で学びが途切れ、一時はあきらめようかと思ったんです」。その胸中をふと先生に語ると、「いったん制作の手を止めることで、見えなかったものが見え、できなかったことができることもある」と自らの体験を語ってくれた。「嬉しかったですね。こんな一介の学生も、先生は作り手仲間として接してくれる」。作り手として向き合うからこそ、深い考えを求められ、ときに厳しく評価される。「ただ漫然と作ってきた気持ちをリセットされました」。そして卒業制作、川本さんが生みだしたのは、115㎏もの土を使った氷塊。「北海道の冬の厳しさを表現しました」。冬は5月まで土が凍って制作できない。天候が荒れるたび飛行機は止まる。巨大な氷塊は、北海道と京都の遠さ。辺境の地で抱いてきた、都への反発。しかしよく見ると、その内側にはトンネルが。「来るたびに、大学が、京都が好きになってきたんです。遠くても、想いがあればつながりあえる。全国に大切な友だちができました」。長年、公務員として四角四面な業務をこなしてきた川本さん、本学で初めて、自由に発想し、つくる喜びを学んだという。「自分が教わったことを少しでも周りに伝えたい」と、自宅をギャラリーとして開放。地元に作陶の輪を広げている。「こんなおかしな作品を見て、自分も好きなことやっていいんだ、と思ってくれたら幸いです」と破顔一笑。北海の厳しさを知る氷塊は、大海原の自由のすばらしさも知っている。
現在は、在学中お世話になった方に贈る、日常の食器や花器を制作中。「以前はあまり考えなかった、使う人の気持ちを思いつつ、自分らしさを出したいです」。