
染織コース
初めての染織でいまの時代らしいモノづくりに挑戦
「えっ、板や糸だけで、こんな柄を描けるの?」「タマネギから、こんなキレイな色が出るなんて」。とにかく最初はびっくりの連続だった増田さん。長年、手がけてきたグッズ商品の開発とは違う、伝統的なものづくりを学びたくて、未知の染織ワールドへ。「絞り染」や「天然染料」など、ひとつひとつの科目を学ぶごとに、その奥深さに引き込まれていった。「もちろん、もどかしい思いもたくさん味わいましたよ。つくりたい作品のイメージはあれこれ浮かんでくるのに、かたちにする技術が及ばなくて」。もともとマメな性格ではなかったが、少しでも納得できるものを、と取り組むうちに、めんどうな作業も自然と苦にならなくなったという。「とはいえ、何十年もつづけてきた人に技術でかなうわけがありません。だったらいっそ、他の人がやらないことをやってみたいと思ったんです」。
そもそも染織コースを選んだきっかけは、本学の卒業制作展を訪れて「こんな多彩な技法があるんだ」と感心したから。さらに、学友らに誘われて足を運んだ京都市内の展示会で、ある作家の言葉に背中を押された。「染織という枠にとらわれないで、好きなものをつくればいい」。ならば自分は、遠くおよばない昔の人を真似るより、いまの時代らしいモノをつくってみよう。そう考えた増田さんが選んだのは、「布象嵌」と呼ばれる、まだ先人の少ない技法。完成させた卒業制作は、見た目は明るく楽しいけれど、ひとつひとつ染めあげた布を200以上も貼りあわせた、地道な努力の結晶だ。「現役の頃はいいかげんに仕上げていた成果物。ずいぶん遅くなったけれど、今度こそ、自分の最大限の力を出し尽くせました」。多彩な色と形の布が描き出すのは、課題を考えながら歩いていた近所の通り。まるで、自由な染織を鼓舞する旗のように、増田さんのリビングに、心の中に、色鮮やかに翻っている。
台湾出身のクラスメイトが2名いたことから、新型コロナ拡大前は、台湾での卒業制作展を計画。「いつかなんとか実現できたら、と思います。あきらめたら終わりになってしまうので」。