
染織コース
悔いのない人生を過ごすために。未知の学びに挑戦
「私、京都にいきます!」と家族の前で入学宣言をしたのは、東北での震災が起きた年のこと。「あっという間に命を奪われた多くの人々。それぞれにやりたいことがあったはず…と考えると、じっとしていられなくて」。染織のいろんな技法を学んでみたい、という秘めた想いを実現する決心をした。「初めての主張じゃないかな。ずっと家を守ることが役目だと思ってきたので」。
かくして大学生となった加藤さん、課題との悪戦苦闘の日々がはじまった。「絞り染は趣味でやっていたけれど、ろう染、型染、シルクスクリーンプリントなど、技法が違えばまるで別モノ。すべてがゼロからのスタートです」。スクーリングのたびに「事件」が発生したという。しかし、未知の学びへの苦難は、無上の達成感や発見の喜びにもつながる。「未経験のデッサンにも苦心しましたが、合評で先生から、私の性格まで読み解くようなご指摘をいただき、人の内面が形になるんだと実感しました」。
慣れない作業、思い通りにならない布や色に翻弄されつつも、ひとつひとつの学びに打ち込んだ加藤さん。卒業制作にいたり、ある色をテーマとして選んだ。それは、緑。自分に名づけられた色。「昔からキライだったんですよ。名前も、色も。でも入学して、レポートなどで美術書を幅広く読むようになり」。ある本で知った。ゲーテの色彩論では、黄が光、青が闇、その両方を合わせて生じる緑は、生命の色であると。「自然界のものでは出にくい色なんです。それをあえて黄と青を染め重ねて、緑をつくりだそうと」。完成した作品には反省点もあるけれど、緑の多彩さを知り、何よりも緑色が大好きになったという。「卒業後も日々、コツコツ、チクチクを合い言葉に、手を動かしています」。白い布に、一瞬にして模様があらわれる瞬間が好き。自分で染めた布や作品で、生活の色を変えるのが楽しい。加藤さんの手からあふれだす色は、見る人の心まで鮮やかに包みこんでいく。
卒業制作が学内にある春秋座で開催された都をどりに合わせて展示。「思いがけず、一般の方にも見てもらえる喜びを感じられました。これからも、自分が楽しんでいる姿や制作物を通して、絞り染の楽しさを多くの人と共有していきたいですね」。