
染織コース
お稽古好き×染織。9年かけてじっくりと学ぶ
ただの細い糸を、一本ずつ交互にくぐらせると、いつの間にか布になる。「そんな、積み重ねる感覚が好きなんです」と、織り機の前で微笑むのは大日方さん。しかし本学に来るまでは、染織の知識などまったくのゼロ。芸大は特別な人が行くもの、と思い込んでいた。「きっかけは、お茶のお稽古ですね。和装に気に入った着物がなくて、いっそ自分でつくってみようと」。
思いたったら吉日、と勢いよく入学。しかし初めての専門科目のスクーリングで、思わず手が止まった。「糸にも布にもふれず、スケッチブック片手に静物デッサンする授業だったんです。絵は高校以来でしたね」。じつは絵を描くのが苦手だった大日方さん。まずは鉛筆の持ち方から教わり、時間をかけて描き写すうち、少しずつ苦手意識が和らいでいった。「何より励まされたのは、先生からの言葉です。〝ちゃんと見て、丁寧に取り組んでいますね〞というテキスト課題の添削が返ってくると、〝ああ、下手でもわかってもらえるんだ〞と嬉しくなって。次のやる気につながりました」。
初心者ならではの不安を受けとめてくれたのは、先生の言葉だけではない。カリキュラムの巧みさにも感心した。「2年次までは、自宅に織り機がなくても、簡単に用意できる棒や木枠だけで織れる課題になっているんです。その間に、基本的な仕組みをしっかり学べました」。少しずつ織り方や道具の種類を覚え、自分に合うものを見つけることで、自宅制作の場が整っていく。技術もまた同じだという。「最初のうちは、どうなるかと思っていましたが」。いきなり完成形をめざすのではなく、できることからやっていくうちに、自分でも思いがけない大作の下図を描け、作品に仕上げることができた。
「とはいえ、まだまだ勉強中です。知れば知るほど、未知の世界にふれ、また知りたくなるのが染織ですから」と、目を輝かせる大日方さん。ひとつ学びを重ねるたびに、その手は新しい答えをつかむ。糸から織りあげる布のように。
「せっかく社会人で学生という贅沢な身分になれたんだから、じっくり取り組みたい」と、在籍できる最長年数の9年かけて卒業。以後は大学院で、新たな技法や素材に挑戦中。