
染織コース
憧れの芸大。伝統の座繰り糸を用いて卒業制作を完成
「努力は人を裏切らない」。そんな言葉を加藤さんが実感するようになったのは、本コースで学びはじめて何ヵ月も経ってから。若い頃に叶わなかった芸大への憧れを実現したものの、日々の仕事や家事が忙しいのを言い訳に、つい自宅での制作をおろそかにしていたという。ところが、あるスクーリングで、事前の課題からじっくり取り組んでみたところ、これまでにない手応えの作品が完成。「良くも悪くも、作品には、偽りのない自分が表れてしまうんです。だからこそ、普段から自分に誠実に、作品と向き合いつづけなくてはいけないんですね」。ひとつひとつの作業を丁寧に行う大切さを痛感した加藤さん。その努力は、作品にもはっきり反映されていった。
変わったのは、制作への姿勢だけではない。親しくなった学友と授業終わりに染料店や機屋を訪れ、ときには学び以外の悩みを打ち明けることも。「自分ひとりじゃない、という勇気をもらえました」。通学部の学生さながらに学びと友情を育み、ついに迎えた卒業制作。加藤さんが挑んだのは、地元・群馬の女性たちに受け継がれてきた「座繰り糸」の着物。「卒業できたのも、支えになってくれた学友のおかげ。ほんとうに感謝しかありません」。これからも座繰り糸づくりをつづけ、途絶えそうな地元の絹産業に少しでも関われたら、という加藤さん。無心に糸を繰るその手が、不変の美と、温かい絆をたぐりよせた。
[大学の思い出]糸づくりから自分の手でおこない、つくりあげた卒業制作の着物。「私が生まれ育った地域は古くから養蚕が盛んでしたが、時代とともに養蚕農家が減り、子どもの頃には当たり前だった桑畑が広がる風景も、過去のものとして失われつつあります。伝統の座繰り糸を用いることで、そんな懐かしい風景を布の上に再現したいと思いました」。