
染織コース
染織の制作実践と研究で、地域に伝わる技をつなぐ
つくる意味を見つめ直しに本学へ
「なんて、美しいかたちだろう」。井坂さんの心を奪ったのは、八丈島に伝わる織り物を織る人の”手のかたち“。この島への観光がきっかけで手織りに興味を持ち、都内の教室でひと通りの技法は理解できた。「けれど、あるときから、”私はなんのために織るんだろう“という疑問が頭から消えなくなって」。仕事の異動をきっかけに時間のゆとりができ、本学の染織コースでいちから学び直すことを決めた。
体系的に染織を学んで意識が変化
大学に期待していたのは、染織の技術だけでなく文化までの総合的な学び。「それ以上に、芸術史や文化人類学など、さらに大きな視点から染織を知ることができました」。同時に、芸術が日常生活とかけ離れたものではなく、ごく身近につながっていることを実感できたという。「勤務先でも、”先入観を捨てて、まずやってみよう“と、新しい発想で行動できるようになりました」。そんな前向きさや先生のアドバイスに導かれ、卒業後は大学院の修士、そして博士課程へ。「技法研究を重ねるなかで、継承が危ぶまれているものがあると知り、織り手である自分が技術の保存に役立てたら、と思ったんです」。
地域に伝わる技を制作と研究で伝える
かくして、自身の原点でもある八丈島に伝わる手織り技術を研究テーマに選んだ井坂さん。「なぜ、こんなに美しいと感じるのか。”手のかたち“には、ちゃんと理由があったんです」。実際に織ってみることで、その美と合理性をあらためて理解できたという。「織物はその実物にふれてこそ、手ざわりや機能性といった価値を深く理解できます。だからこそ、制作も研究も両立したいと考えました」。自らも制作する研究者として、手織り技術の未来を結びつなごうとする井坂さん。その糸は、学ぶほどに力強くなっていく。
井坂 弥生
染織コース 18年度卒業 大学院博士課程 在籍中
埼玉県在住 53歳