
和の伝統文化コース
別れと出会い×和の伝統文化。定年後、和の道に没頭
「そろそろリタイア後の生活を考えようかという時に、夫が倒れて。朝までは元気そのものだったのに」。心痛む入学のきっかけを、気丈な笑顔で語ってくれた石井さん。突然すぎる別れにぽっかり開いた心の穴を、少しでも埋めたくて本学へと飛び込んだ。「いい歳だし、卒業しなくてもいいから、なんて息子に言われて。じゃあ卒業してみせるわよ、と逆に奮起しました」。いろいろな想いを振り払うように、和の学びに没頭していった。
数多くある学びから本コースを選んだのは、取り組みやすく、体力的にも安心できそうだったから。そして何より、昔から和の文化が大好きだったから。「お茶は長年つづけていますが、他はそれほど詳しくないんですよ」と笑む石井さん。モノや表現にはたくさんふれてきたけれど、その歴史や裏の心まで深く考える機会はなかった。「このコースで学ぶほど、それぞれの奥深さや互いのつながりを知り、さらに素晴らしさを感じられるようになりました」。
もともと東京で学べる便利さもあって本学を選んだはずが、気がつくと京都でのスクーリングに通いづめ。「お寺めぐりや京繍など、この地でしかできない経験がたくさんあったので、つい」。「2年で卒業するつもりが3年かかったけれど、本当は最長7年もありだな、と思ったくらいです」と微笑む。けれど初心を貫くためにも、卒業論文は仕上げておきたかった。「テーマ選びも執筆も大変で、さすが大学、と実感させられましたね」。
分厚い専門書を何冊も読み、資料を作り直し、努力の末に完成させた論文は、近代の茶人をテーマにしたもの。「お茶席には、空間から道具まで、その人だけの世界観があふれているんです」。じつは何十年もお茶を習い、自身の教え子もいる石井さん。「ここで学んだことを活かして、私だけの茶事をつくりだしたいですね」。そう語るかたわらには、夫が趣味で手がけた陶の器があった。失う悲しみから、新たに学ぶよろこびを知り、おわりのない茶の道、和の道を見つめていく。

石井 名保子
東京都在住 72歳
和の伝統文化コース
(3年次編入学)
14年度卒業
夫の喪から休んでいた茶道教室も、卒業を機に再開。「大学で、いろいろな方が伝統文化を守り伝えようとしているのを間近に感じて。私も、できることをしたいですね」。