
文芸コース
染織コース
高校教員を定年退職後、文芸と染織を学ぶ
「”なにしてんの、まち子先生!“と大声で昔の教え子に呼びとめられちゃった。せっかくキャンパスでは経歴を隠していたのに」と苦笑する井上さん。高校の体育教員として担任や部活を受け持ち、ほぼ休みなしの37年間。「たいした趣味もないし、定年後は母の世話にあけくれよう」と思っていた矢先、その母が永眠。「これからは、好きにしていいよ」と言われた気がして、一念発起して本学の文芸コースへ。「そういえば若い頃、文学を学んでみたかったなと。最初は不安でしたけどね、クラスメイトが難しい本ばかり読んでいるので」。お堅い文章は最後まで性にあわなかったものの、気どらない語り口のエッセイが高く評価され、卒業研究では優秀賞に。「そこでいただいた自信や、尊敬する作家であり染織家の活躍に背中を押されて」新たに染織コースで、学生ライフを延長することになった。
「じつは七夕生まれで、”織姫“になるのが長年の夢だったんです」。織機の扱いは大体知っていたものの、下絵などの”絵を描く“作業は中学生以来。最初はまるで描けなかったのが、課題で日課のようにつづけるうち、少しずつかたちをつかめるようになったという。また、別の課題で感動したのが、身近な雑草から生まれる色の美しさ。「ちょうど卒業制作にさしかかったとき、かつて住んでいた団地が取り壊されると聞いて」父が植えてくれた笹で糸を染め、着物に仕立てようと決めた。「笹の命を、家族の思い出を、色とかたちで残したいと思ったんです」。 卒業後は小物ばかりつくっていたが、傘寿を迎える姉のため、こんどは自分ひとりの力だけで、着物を織りあげることに。「文芸コースの学びも組み合わせて、小説をモチーフにした着物づくりに挑戦してみます。いつか、手づくりのエッセイ本もつくってみたい」と、たくさんの予定を楽しそうに語ってくれた井上さん。文(ふみ)織姫の冒険は、これからもつづく。
井上 待子
文芸コース 14年度卒業
染織コース 17年度卒業
京都府在住 70歳
- 卒業制作
- 織姫