
洋画コース
薬剤師×洋画。「絵筆を持って墓場まで!」
房総半島の東端、どこまでもつづく空と畑の先に、山下さんの自宅がある。7年前、院内薬剤師としての定年を前に、この地から京都への入学を決めた。「若い頃から絵への憧れを抱いたまま、仕事と生活に追われて。絵画教室以上のやりがいを求めていたとき、本学を知ったんです」。最初は「夢の世界だな」と思った。けれど、夢で終わらせたくない想いが、車とバスと新幹線で片道5時間の道のりをこえ、山下さんを羽ばたかせた。そして、初めて描く洋画。20号の油彩を制作するスクーリングで、「こんな大きな白いキャンバスに、好きな色を塗っていいんだ」と幸せを感じた。ただし、それは初日だけ。あとの2日間は思いどおりの色が出せず、「3原色が頭のなかをグルグルまわって」夜もうなされたという。
経験が足りない、技量もない。こんな自分に何が描けるのか。自宅で沈む心に浮かんだのは、先生の言葉。「キャンバスの前にどれだけ座れるかが、絵の力になるんです」。そうだ、私はとにかく描こう。フルタイムの仕事と家事の後、どんなにつらくても毎晩、画に向かいつづけた。「気づくと100号の卒業制作を3枚も描きあげていました。地元に飛来する白鳥と、白いバラを2作」。最後のバラが見事に花開き、学長賞を獲得した。
「デッサンは筋トレだから、描いたぶんだけ上手になる」という先生だが、どんなに上手く描けた絵も「こんなのダメ」と一刀両断。理由は「何を伝えたいのかわからないから」。夜遅く、疲れきって、時間を費やし、いったい自分は何をしているのか。なぜ描くのか。自分とは何か。「描きながら画面と語り、本質を見つめる。なんだか哲学みたいですよね」。そんな対話から生まれた山下さんだけの画は、今、勤めている病院のロビーを飾る。「大学でみっちり学んだからこそ、自分の絵を見てほしい、そして認めてほしい、と思えるようになりました」。「ここまできたら、絵筆を持って墓場まで!」。先生の言葉は、いまや自身の口癖となっている。
来年5月には京都で、卒業生同期によるグループ展を開催予定。「入学同期もそろそろ全員卒業するので、東京でグループ展を計画中!楽しみです」。