
洋画コース
体育の先生×洋画。自由に放たれた新しい自分の発見
定年で、37年間の教員生活に幕を引いた。訪ねてくる昔の教え子に「いまは洋画を大学で学んでいる」と言うと、みな目をまるくする。だって𠮷岡先生は、ずっと保健体育の先生だったから。しかし、その変貌ぶりに一番驚いているのは、他のだれでもない𠮷岡さん自身だった。
「退職したら絵を学びたい」というのは、昔からの夢。とはいえ在職中は生徒の指導や部活が忙しく、ろくに絵筆も握らないまま本コースへ。入学当初は、経験豊かなクラスメイトに比べて、描けない自分をもどかしく感じた。「歯がゆくて、くやしくて、なのにスクーリングが終わると不思議な充実感がありましたね」。初めて描くクロッキーやモデルデッサン。初心者だからこそ、編入学でも1年次入学の人と同じカリキュラムで授業を受けようと決めた。「大学側が、学びやすいように順番を考えたはずだから」。
素直に学び、成長する𠮷岡さん。けれど、自由制作から卒業制作にすすんで行き詰まった。その時、「何か、ひっかかることがあるんですか?」と、自分でも分からない悩みに気づいてくれたのが先生だった。何度も話し合った結果、子どもというモチーフで、具象から抽象へと大きく方向転換。あらためてキャンバスに向き合った自分のなかに、かつてない情熱がほとばしるのを感じた。「こんな歳になって、と我ながら驚きでした」。それは、自由に解き放たれた、新しい自分自身の発見。先生が、そう導いてくれた。「これこそが教育だと感心しました」。
教職を退いてからも、教育委員として小学校などの視察に行く𠮷岡さん。「大学入学後は、児童の絵が気になるようになりました。その子の抱える悩みまで見える気がして」。また、子どもたちの自由な表現にふれるたび、自身の制作意欲も刺激されるという。「形も色もゼロからつくるのが抽象画。難しいからこそ、その自由さに惹かれます」。𠮷岡さんが本学で見つけたのは、新しい自分だけでなく、絵そのものが持つ、人を解き放つチカラでもあった。
卒業後も学びにふれたくて、大阪藝術学舎の「スーパーリアリズム」の講座に参加。「もともと細かいタッチは苦手ですが、こんな技法もあるんだ、とまた新たな発見ができました」。