
日本画コース
一生つづく×日本画。大学でのつながりを描く支えに
「こたえは、前にある」。卒業制作で、鹿の毛一本一本にまで生命を吹きこんだ川野さん。いつも頭のなかで、この言葉を繰り返してきた。絵が好きで美術部に入ったこともあるが、飽きっぽい性格からすぐに退部。大人になってからは仕事と子育ての両立に奮闘してきたが、「ちょうど子どもが独立したタイミングで、長年の職場を離れることに」。ぽっかり空いた心に浮かんだのが、「好きな日本画を、今度こそちゃんと習ってみよう」という想いだった。体験入学が楽しくて、カルチャースクール感覚で気軽に本学へ。そんな川野さんを変えたのが、冒頭の言葉だった。「ひたすらガラスやレンガを描き写す最初のスクーリングで、うまく明暗を描きわけられず、周りの上手さや集中力にも圧倒されて」。つい手が止まりかけたとき、先生が教えてくれたのは、ひたすら対象に向き合うことの大切さ。「迷ったら前を見る、見ることで描ける。今もずっと、この言葉に励まされています」。
久しぶりに訪れた実家近くの奈良公園で、ふと出会った鹿の親子。心に刻まれた風景を写しとろうと、何度も足を運んでスケッチを重ねた。「落ちたての梅の実をかじる早朝から、大きな群れになってねぐらに移動する夕暮れまで。おかげで、すっかり生態にも詳しくなりました」。見るほどに生命をおびてゆく川野さんの鹿。そこには、自身のさまざまな想いも重なる。「身近な人との別れ、新しい家族の誕生。画を見返すと、当時の心境までよみがえります」。最初はとまどったスクーリングも、やがて、朝から夜まで一心に描ける贅沢さをかみしめるように。「クラスメイトが頑張るから、飽きっぽい私でもここまでつづけられて、もっと上手く描こうという欲を持てるようになりました」。小品でも、一生描きつづけたい。ようやく、ずっと向き合えるものを見つけられた、と語る川野さん。自身の画を見つめるその目が、子を守る親鹿の眼差しと重なった。
卒業後の作品が公募展で受賞し、現在はグループ展に向けて制作中。「機会を見つけて先生や同窓生に画を見てもらうなど、大学でのつながりを、これからも描く支えとしていきたいです」。