
写真コース
銀行勤め、子育てを終えて表現者の道へ
本コースの卒業制作をもとに、銀座と大阪のニコンサロンで初の個展を行う快挙を遂げた井上さん。にわかに信じられないが、本学に来るまでアートやデザインを学んだ経験はないという。「若い頃は芸術系への進学に憧れましたが、才能ない、と言われて」。普通に銀行勤めをし、妻となり母となり、子育てを終えてふと「何かはじめたい」と手にしたのがカメラだった。「絵は下手だし、インスタグラムも流行りだし」ぐらいの気軽さで街の教室に通いはじめたが、すぐ飽きた。「楽しくキレイなお花を撮りましょ、という雰囲気で」。そんな井上さんが手応えを感じたのが、本コースの体験授業だった。
「とにかく刺激的でしたね。最初のスクーリングでは、いきなり紙を一枚渡され、これで好きな形をつくって撮りなさいと。あるがままに撮るだけじゃない写真を知りました」。多彩な授業やゲスト講師の存在は、とても印象的だった。そしてわかったのは「写真って自由だ」ということ。
「卒業制作でテーマを決めたとたん、撮れなくなって」。ある先生から、「まずは好きに撮って、後でまとめる方法もある」と教わり、気が楽になった。「その、〝後〞が大変でしたけどね」。撮りためた何万枚もの写真を系統別に分類した。その中からひとつ選んでステイトメントを書いてみたが、「言葉と写真が合っていない」と何度も先生に言われ、「なぜこれを撮ったのか」という自分との真剣勝負の対話がはじまった。自己を突き詰めた末につくりあげたのが、一冊の写真集。さらに卒業後、新たに撮った写真を加えて完成させたものが、今回の個展である。
「大学にいたから、ここまで追求できた。こだわり抜いて、自分の作品を生む苦しさを体得できた」。応募者のごくわずかしか選ばれない、ニコンサロンの審査に通ったのは偶然ではない。「自分に妥協しなければ、道は開けるものですね」という井上さん。自由の苦しさと喜びを手に、新たな作品づくりへと向かう。
今回の個展をひと区切りとして、これからは新たなテーマに着手する予定。「つねに作品を発表していなければ自称作家。本物の作家になれるよう、今後も撮りつづけたいですね」。