
写真コース
セルフポートレイトで海外でも注目を集める作家に
〝この人に会ってみたい〞。個展の来場者からそんなコメントをよくもらう、と名古根さんは恥ずかしそうに打ち明けた。理由は、作品を見ればすぐわかる。2010年から撮りはじめ、いまや海外でも注目を集めつつある本シリーズ。40点以上におよぶ作品のすべてが、「顔を見せない」セルフポートレイトなのだ。その、最初の1枚を撮ったのが、本学での課題だった。
高校を出て就職後、何か技術を身につけようと通いはじめた専門学校で写真にはまり、NYに短期留学。本学に来たのは、再び渡米するために4大卒の学位を得るためだったという。「でも、学ぶうちにどんどん気持ちが変わりました。日本でも写真は撮れる。日本だから撮れる写真がある、と」。京都という地で伝統にふれ、それまで見ていなかった日本の魅力を知った。「自分のとらえ方ひとつで、周りがまるで違って見える。必要なのは、アート最先端の国にいることじゃなく、私自身のなかに新しい世界をつくること」。
新しい世界の入り口は、大学にいくつもあった。お茶など、京都ならではの科目。年齢も職業も住む地域も違う、クラスメイトの作品や本音の批評。そして、優れた写真家や批評家、ギャラリストなどからなる講師たちの指導。「カメラを教わるんじゃなく、写真を教わると思ってほしい」。そんな言葉をいまも覚えている。
卒業制作で選んだ「セルフポートレイト」という題材は、実は専門学校でも取り組んだ課題。しかし、満足できないまま終わらせていた。「だからこそ、ここで突きつめたくて」。とことんコンセプトを掘りさげ、表現を試行錯誤した作品は、学長賞を獲得。卒業後もつづくシリーズとなり、人から人へと紹介され、何度も海を越えた。見るたびに興味がわく。もっと見たくなる。それはきっと、だれよりも当の本人が、もっと見たいと願っているから。〝私はだれ?〞。このコースで、一生の課題と出会った名古根さん。その作品は、巧みに人の目をはぐらかしながら、じっと自分を見つめている。
卒業後は国内外でつぎつぎと個展を開催。「どこかで私の写真を見てくれた方が、また新しい場所に呼んでくれる。作品が、わたしと人をつなげてくれます」。