
日本画コース
陶芸コース
子育て後、退職後、芸術の学びが家族をつなぐ
家族でほぼ同時期に、本学に入ってきた竹政さん。てっきり仲良し一家なのかと思えば、そういうわけでもないらしい。「広告を見てパンフレットを取り寄せたら、娘が”私の入学したところだよ“って」。先を越されてちょっぴりくやしそうな、妻の節子さん。ちょうど、仕事や子育ての合間で描いてきた趣味の油絵に、行き詰まっていたという。「いっそ未知の日本画へ」と、独立して横浜に暮らす娘とは別に、群馬から入学を決めた。
「色を重ねるのも苦手だし、金箔も下手だし、と愚痴っていたら、”苦手意識を持って、いいことはひとつもありませんよ“と、先生が」。たとえ上手でなくても、味わいになればいい。見方さえ変えれば、すべてのことに意味がある。そう気づかされてハッとした。「以来、なるべく”苦手“と思わないようにしています。制作でも、人づきあいでも」。
そんな節子さんの成長を身近で感じていたのが、妻のやる気に触発されて入学した、夫の新吾さん。IT系の仕事で大成したものの、芸術面はさっぱり。「”お父さん、わかってないね“とアート好きの妻や娘にあしらわれるのが悔しくて」と笑う以外に、もっと深い理由もあった。「IT業界では、長年の努力や経験もたちまち時代遅れに。知や技を積み重ねる芸術の世界に、密かな憧れがあったんです」。
「一番できそうな」陶芸コースを選んだものの、すべてが初体験。忙しい仕事と両立できず、一度はあきらめかけたものの、なんとか卒業制作にこぎつけた。「自分にもできた、という自信だけでなく、大きな世界観をもらえました」。まるでコンピュータのように1か0かで判断しがちな自分が、「あいまいさ」の美しさに気づけた。ものごとをより深く見る、新たな眼差しを手に入れた。「美術のこと、先生や課題のこと。互いにわかりあえる話題のおかげで、家族の会話も増えました」という竹政さん一家。芸術がもたらしたのは、あたたかい「つながり」のチカラでもあった。