卒業生紹介
京都芸術大学を卒業し、活躍している先輩を紹介します。
藤堂大吾さん
株式会社セガ プランナーいくつもの“遊びのタネ”から、
ゲームの枠を超えた驚きと感動を。
想像もしない楽しみ方を、
こどもたちが教えてくれた。
進学を諦めかけた高校時代。こどもたちとつくったレゴブロック作品が転機に。
この卒業生インタビューは、進路を考える高校生のみなさんに読んでいただくことが多いのですが、藤堂さんご自身はどんな高校生でしたか?
- 藤堂
- そうですね。高校は、わりと勉強を頑張るような学校に入ったんです。
いわゆる、進学校?
- 藤堂
- そうです。でも進学するための勉強にだんだん身が入らなくなっちゃって、落ち込み気味になった時期がありました。だから、進学はかなり悩んでいました。周りはみんなレベルが高くて、国公立大学を志望する人も多い中、「自分の成績じゃいけないな。大学は行かなくていいかな」と思っていて。
大学への進学を諦めかけていたんですね。そこから、どうして京都芸術大学へ?
- 藤堂
- こどもの頃からずっと趣味で、レゴブロックを続けていました。そのアジア大会が日本で開催されたんですね。勉強も上手く行かないし、気分転換で出てみようと思って。そしたら、ありがたいことに優勝させていただきまして。
すごい、気分転換のレベルを超えていますね!(笑)
- 藤堂
- 大会のことを、たまたま家族が見つけたんです。はじめはプロが創った作品を見に行こうと思ったんですけど、自分もずっと続けていることだし「せっかくだったら出場してみるか」という感じで。
趣味で終わらず、大会にチャレンジしたのですね。
- 藤堂
- その大会では、観覧にこどもたちがたくさん来ていて、こどもたちと話し合いながら一緒に作品をつくるというものでした。こどもと一緒に何かを生み出していくのが、すごく楽しかったですね。
こどもたちと、一緒につくる。
- 藤堂
- ただ自分でつくるだけだとプロの方に負けたかもしれないけど、こどもたちがいる環境で一緒に作品づくりをするという場面だったから、自分のいいところを発揮できたんじゃないかと思いました。
優勝できたのは、ご自身ではなぜだと思いますか?
- 藤堂
- なんですかね……。やっぱりこどもたちと一番協力して創れたことかなと思います。
協力。
- 藤堂
- 決勝の作品のお題がクリスマスだったので、テーマをサンタクロースにしていたら、参加していた子が「他の人もサンタつくってるよ」「ちょっと似てるから変えた方がいいんじゃない?」と意見をくれて。「じゃあ、こっちはサンタの手が動くようにしてみよう」と。それで実際に手が動いた時には、みんなで「わー!」と盛り上がっていて。
こどもたちの意見も取り入れて、みんなで楽しみながらつくっている様子が伝わってきます。
- 藤堂
- こどもたちとの会話から、作品をつくるためのヒントをたくさんもらいました。それも含めてすごいいい経験だったなと思います。優勝したことを知人に話したら、たまたまその人が京都芸術大学のこども芸術学科のことを知っていて、「こんな学科があるよ」と教えてくれて、その時、自分の目の前に進路がひらけた気がしました。
もともと、こどもたちと関わることはあったのですか?
- 藤堂
- 弟がいて、その友達も含めて、すこし年下の世代と一緒に遊ぶことは多かったですね。こどもと話すこと自体も好きだったし、レゴをつくって見せたりするのも好きで、それでこどもたちが見にきてくれたりとか。そういうのもあって、こどもと関わることがどんどん好きになっていきました。
自分自身がこどもに戻り、“遊びのタネ”をストックする。
こども芸術学科に入ってから、どんなことを学んでいったのですか?
- 藤堂
- 1年生の時は、自分自身がこどもの気持ちになって、遊びを追体験するところから学びが始まりました。
こどもの気持ちに?
- 藤堂
- こども心に戻って、自然に触れたり、いろんな素材に触れたりして、自分の中にあるこどもの部分をたくさん引き出していく体験をしました。
こどもの部分を引き出すって、どんな感覚ですか?
- 藤堂
- 大人になると、固定概念で決めつけていることが結構あることに気がつきました。大人から見るとどうってことないことでも、こどもなら遊びに変えてしまう。たとえば、紙コップを積み上げて壊すという行為を、大人だと何も考えず作業としてできると思うんですけど、「こどもだったらこんな遊び方をするだろうな」と想像が広がるようになりました。
こどもだったら、と想像するんですね。
- 藤堂
- それも、学科の全員がこどもになって「ワー!」っと遊びながらやるんですね。思いっきり遊ぶことで「自分もこどもの頃、こういう感じでいろいろ学んでたんだな。体験してたんだな」ということが、追体験できました。
それを、授業として体験できるのが面白いですね。
- 藤堂
- こども芸術学科では“遊びのタネ”と呼んでいたんですけど、1年生の頃は、遊びのタネをとにかくたくさんストックしました。
人を楽しませる表現は、こどもたちの反応が教えてくれた。
2,3年生になると、どんなことを学んでいくのですか?
- 藤堂
- 学年が上がるにつれて、「こどもたちが楽しさを感じられるにはどうしたらいいか?」「作品としてどう表現するか?」と考えながら学びが深まっていきました。
今度は、アウトプットしていくんですね。
- 藤堂
- 保育実習や教育実習で、実際にこどもたちと接しながら自分が考えた遊びをやってみて、こどもたちの反応を見て、どういうアウトプットが良いのか、トライアンドエラーを繰り返していましたね。
特に印象に残っていることはありますか?
- 藤堂
- 3年生の時に、こども向けのワークショップを企画したんです。みんなでたくさん話し合って、「こどもたちがこういう風に遊んでくれたらいいよね」って思っていたら、当日は想定と全然違うところにこどもたちが反応して、想像しなかったような遊びをしていて。そういう場面に立ち会いながら自分たちが考えたことの“答え合わせ”ができたのは、とてもいい経験だったと思います。
こどもたちのリアルな反応から教わることが、たくさんあったんですね。
- 藤堂
- はい。自分たちの作品をつくる時のヒントにもなりました。
こどもだけじゃなくて、企業や地域の大人とも、たくさん関われた。
実習以外だと、どんなことが印象に残っていますか?
- 藤堂
- 企業と連携して、こどもが楽しめるようなオリエンテーションやワークショップを企画させてもらったことが印象に残っています。地域のお店から依頼を受けて、こども向けのイベントを企画するプロジェクトもありました。
こどもだけじゃなく、学外の大人たちと関わる機会もたくさんあったのですね。
- 藤堂
- 京都市の銭湯のスタンプラリーにも、こども芸術学科の学生がデザインで関わっていました。子どもたちからおばあちゃんまで、地域のみなさんが喜んでくれたのもうれしかったですし、僕もデザインに興味があったので、参加できて勉強になりました。
実際の反応を見られるのって、すごくいい経験ですね。
- 藤堂
- 卒業制作では、自分が0歳から22歳まで生きてきて感じたことや、もやもやした思い出みたいなのをキャラクター化して展示しました。キャラクターごとにストーリーがあって、ガチャガチャを回してもらうと、そのストーリーが書いてあるんです。それを見ながら、「私も小さい頃同じ気持ちだったな」と親子で会話してもらったり、「このキャラクター、どこにいるのかな?」と探してもらったり、こどもの興味を引くだけじゃなく、親子や友だちとのつながりが深まるような展示をめざしました。
“エンターテイナー”として、自分らしさを自由に表現していく。
就活のお話も気になるのですが、こども芸術学科からどうやって株式会社セガへの就職につながったのでしょうか?
- 藤堂
- もともとは、おもちゃ会社に就職したかったんです。でも、教育実習でこどもと関わった時に、「家に帰ったら何するの?」と聞くと、ほとんどのお子さんが「ゲームやってる」と答えるんです。4歳児くらいの子でも、すでにゲームをやっているんですね。
4歳の子でも。
- 藤堂
- 僕が話を聞いた中では、そういう子が多くて、ゲームって常にこどもたちに遊ばれているのかもしれないと気づいて、ゲーム業界も面白そうだと感じるようになりました。
なるほど。
- 藤堂
- あとは、セガのグループはいろんな事業を手がけていて、ゲームだけじゃなくてエンターテインメントやリゾート事業、野球チームも持っていたりします。
幅広いですね!
- 藤堂
- ゲーム会社だから、ゲーム制作を突き詰めていく感じなのかなと思っていたら、セガは「エンターテイナーを求めています」と言われて。振り返ってみると自分は、こどもの頃から「エンターテイナー」に惹かれていたんだなと気づきました。
エンターテイナー。
- 藤堂
- レゴもそうですけど、趣味で大道芸やマジックもやっていて、人前で何かを見せて喜んでもらうのが好きだったんです。この会社なら、自分らしく個性を活かして好きなことができるんじゃないかなと思い、セガに惹かれていきました。もちろん、ゲームをつくってみたかったというのもあります。ゲームって表現方法がかなり幅広くて、この先もゲーム業界にいろんな広がりが生まれていくのではないかと思うんです。そういう業界や会社で、自分の可能性も広げていきたいと思いました。
ゲーム業界に就職することは狭き門だと思うのですが、就活で準備したことはありますか?
- 藤堂
- 「いかに自分自身を面白い人間だと思ってもらえるか」というのは、いちばん意識しました。
なるほど。
- 藤堂
- たとえば、選考のなかで「自己PR文を1枚出してください」という課題があった時に、自分の人生をスゴロクにして送ったことがありました。
すごい、面白い!
- 藤堂
- スゴロクが届くと、遊び感覚でやってみますよね。やってるうちに、どんな人間か分かってしまうようなものをつくってみたかったんです。採用担当の方が思わず「面白そう!」と思うような伝え方を意識していました。
あたりまえを、見直そう。
そうした、「自分をどう見せるか」という視点も大学で身についた力なんでしょうか?
- 藤堂
- そうですね。「どうやって伝えていくか?」という表現の仕方も、大学での学びがあったからだと思います。そうじゃなかったら、自己PRをスゴロクにしようなんて、思いつかなかっただろうなと。
きっとそうですよね。たくさんの遊びを自分のなかに取り入れられたからこそ、表現できたものだったんでしょうね。
- 藤堂
- 何よりこども芸術学科では、自分のアイディアを臆さずに出していっていいよという雰囲気もあるので、尻込みせず「まず、形にしてみる」というあり方でたくさんアウトプットできたのも大きかったとお思います。
そのスピリットが本当に素敵です!スゴロクを送った会社の反応はいかがでしたか?
- 藤堂
- 「全部やったよ!」と言ってくれて(笑)
うれしいですね!
- 藤堂
- 長所や短所なども織り交ぜて自己紹介にして、スゴロクとしても楽しんでもらえたのかなと思いますね。あと、こども芸術学科には、「あたりまえを見直そう」っていう言葉もあるんです。
あたりまえを見直す。
- 藤堂
- 就活に関して、もっと自由にやっちゃっていいんじゃないかと、僕は思うんです。
もっと自由に。
- 藤堂
- 例えばこれから就活をする大学生の方でも、もしかしたら型式通りのやり方でないとダメだって思ってしまうんじゃないかなと。もちろんそれも大事なんですけど、まずは自分が、いちばん面白そうだと思うことを伝えてみよう、つくってみようと、臆さず形にしてみるのも大事なのではないかなと思います。
素敵です。
- 藤堂
- セガに入社するときにも、1分間のPR動画を撮影したんです。そこではマジックを披露しました。
えー!マジックを。
- 藤堂
- 蝶ネクタイを締めて、トランプ飛ばしながら自己紹介したりしてました(笑)。「よろしくお願いしまーす!」とカード出したりして。
それは、見ている方も楽しいでしょうね(笑)
- 藤堂
- 自分らしいアピール方法に挑戦してみることが楽しくて。それができたのも、大学で自分を分析する時間ができたからこそだと思いますね。エンターティナーを求めている会社に対して、思い切って自分らしい動画を出せたというのがうれしかったです。
ゲーム制作のスキルがなくても、「人を喜ばせたい」という想いでチャレンジしてきた。
入社2年目ということですが、どんなお仕事に関わっているのですか?
- 藤堂
- 2024年10月に発売された『ソニックシャドージェネレーションズ』の制作に関わりました。
すごい、有名なタイトルですよね。藤堂さんの役割は?
- 藤堂
- プランナーの仕事にもいろいろあるのですが、主にステージ設計に関わらせていただきました。地形を置いて、「ここに敵がいて、ここにアイテムがあって」というのを考えてつくっていく仕事です。
入社2年目でステージ設計を。
- 藤堂
- そうですね。入社して始めの頃は、ゲーム全体の流れを管理する業務が多いようなのですが、すぐにステージ設計から関わらせていただいて、とてもいい経験をさせてもらっています。
大事にされたポイントはどんなことでしょうか?
- 藤堂
- ソニックシリーズは、加速による爽快感があるゲームで、すごく速いんです。ゲームをあまりやったことない人からすると難しく感じるかもしれませんが、その速度を落としてしまうとソニックらしさを失ってしまうので、“速さ”を軸にしてつくりました。
こども芸術学科では、ゲーム制作を教わったわけではないと思うのですが、ゲームの知識や制作の経験・スキルがなくても大丈夫なものでしょうか?
- 藤堂
- ゲームは好きではあるものの、技術は一切ありませんでした。入社してから、「そもそもプランナーってなんだろう?」というところから学ぶことができますし、手厚くフォローしてくださいます。「ゲームが好きで、制作もやりたいけど、専門的にはわからない」という人もいると思うんですけど、そういう人でも基礎から学べるので、心配はいらないと思います。
ゲームの枠を超えて、驚きと感動を世界中へ届けていきたい。
まだスキルや経験がない人にとって、希望になる話です。技術以前に、「人を楽しませよう」というスタンスが大事なのですね。ゲームをつくる上で、大事にされているところはありますか?
- 藤堂
- セガの目標として「感動体験を創造し続ける」というものがあるんです。これまでのゲームに捉われない、ゲームを飛び越えた広い発想力でやっていく姿勢は、自分も大事にしたいですね。ゲーム自体の“あたりまえ”ももっと見直して、新しいことチャレンジする精神が歓迎される風土でもあるので、自分自身も忘れずにいたいです。
今のやりがいってどんなことでしょうか?
- 藤堂
- 関わったゲームが発売されたばかりというのもあって、YouTuberの方々が、プレイしている動画を見るとうれしいです。自分が設定したゲームを、「こうやって遊んでほしいな」と思った通りに動いてくれていると「よしよし」と思いますね(笑)。うれしいです。
入社2年目でそういう体験ができているのも、すごいですね。
- 藤堂
- 大学時代も、こどもたちの反応を見て、トライアンドエラーして…というのをやり続けていたので、それとすごく似ていて。レゴとか全部、自分の表現したものを見せて、周りの人が反応してくれるという工程が好きなんだなと思えて。高校生から社会人になるまで、自分はずっとそれを楽しんでいるんだと思います。
そう考えると全部つながっていますね。これからの目標やイメージはありますか?
- 藤堂
- ゲームの世界は、どんなに新しいと思うものでもすでに誰かがやっているような、常に新しいアイディアに溢れている世界だと思います。そんな中でも、誰も見たことのない「わっ!」と言わせるような、少し先を行くようなゲームを創りたいです。
貴重なお話を、ありがとうございました!
取材・記事|久岡 崇裕(株式会社parks)
- 卒業年度・学科
- 2023年
こども芸術学科 卒業
- 出身高校
- 京都府立洛北高校
- プロフィール
- 2022年度、卒業展にて学長賞を受賞。在学中から美術館やホテル、地域とのプロジェクトにも積極的に参加。2023年、株式会社セガに入社。人気タイトル『ソニック』シリーズのゲーム設計に携わり、プランナーとしての一歩を踏み出す。
作品